投稿者: みんなのインディー編集部

  • 手動リロード、手動歩行、手動まばたき。『They Killed Your Cat』が問いかける「FPSの原点」とは何か

    手動リロード、手動歩行、手動まばたき。『They Killed Your Cat』が問いかける「FPSの原点」とは何か

    「猫を殺されたという理由で、無抵抗な敵を撃ち続けるゲーム」——そう聞いて、あなたはどんな印象を持つだろうか。筆者も最初は困惑した。しかし実際にプレイしてみると、本作が単なるバイオレンスシューターではなく、FPS操作の「当たり前」を根底から見つめ直す実験的な作品だと気づかされた。

    2026年2月24日、インディーデベロッパーVekariaによってSteamでリリースされた『They Killed Your Cat』は、短くも容赦ない復讐劇を描くFPSだ。タイトル通り、主人公は愛する猫を殺された男。彼が向かうのは、白く無機質なオフィス空間。そこで待ち受けるのは武器を持たず、手を挙げて投降するような仕草を見せる敵たち——だが、容赦はない。

    すべてを「手動」にしたらFPSはどうなる?

    本作の最大の特徴は、通常のFPSでは自動化されている動作のほぼすべてを「手動操作」に置き換えたことだ。リロードはボタン一つで完結しない。マガジンを抜き、新しいマガジンを挿入し、スライドを引く——それぞれが個別のキー操作として要求される。各武器ごとにリロード手順が異なり、ジャミング(弾詰まり)が発生すれば、それもまた手動で解除しなければならない。

    さらに驚くべきは「歩行」の概念だ。通常のゲームではWASDキーで自由に移動できるが、本作では左足と右足を個別に制御する必要がある。つまり、キーを交互に押しながら前進するのだ。慣れないうちはぎこちなく、まるで赤ん坊が歩行を学ぶような感覚になる。

    極めつけは「まばたき」だ。一定時間まばたきをしないと視界がぼやけ始め、最終的には目を閉じざるを得なくなる。その間は完全に無防備だ。現実世界では誰もが無意識に行っている動作を、ゲーム内で意識的に管理しなければならないというシュールさ——これが、本作独特の緊張感を生み出している。

    設定でこれらの手動操作を無効化することもできるが、あえてすべてを手動にする「マニュアルモード」でクリアすると専用の実績が解除される。筆者も挑戦してみたが、リロード中に敵に囲まれ、歩行がおぼつかなくなり、まばたきのタイミングを見失う——その地獄のような体験こそが、本作の真骨頂だと感じた。

    白い廊下、無抵抗な敵、そしてプレイヤーの違和感

    本作の舞台は、ほぼ全編が白く清潔感のあるオフィスビル風の空間だ。蛍光灯が照らす廊下、並ぶデスク、トイレや給湯室——日常的な空間が、復讐劇の舞台となる。敵となるのは、武装していないスーツ姿の人物たちだ。彼らは手を挙げて降伏の意思を示すこともあるが、近づけば襲いかかってくる。

    この設定は賛否を呼んでおり、Steamのレビューでも「不快」「倫理的に問題がある」といった指摘が見られる。実際、筆者も最初のプレイでは違和感を覚えた。しかし、何度かプレイするうちに、この「不快さ」こそが開発者の意図なのではないかと思うようになった。

    本作は、FPSというジャンルが持つ暴力性を、あえて生々しい形で提示する。武装した兵士やゾンビではなく、オフィスにいる「普通の人々」を撃つという行為は、プレイヤーに「自分は今、何をしているのか」という問いを突きつける。それは不快かもしれないが、だからこそ記憶に残る体験となる。

    開発者Vekariaとシンプルな哲学

    本作を手がけたVekariaは、これまでほとんど実績のない新興デベロッパーだ。公式の情報は限られているが、X(旧Twitter)のアカウント@KilledYourCatでは、開発中のスクリーンショットや動画が公開されていた。

    興味深いのは、Vekariaが本作で「シンプルさ」を追求している点だ。グラフィックはローポリゴンで、UIは最小限。ストーリーも最低限しか語られない。だが、その引き算の美学が、逆に操作の複雑さや緊張感を際立たせている。

    本作は1.61GBという軽量なファイルサイズで、最低要件もIntel Core i5、4GB RAM、NVIDIA 970相当と控えめだ。誰でも気軽にプレイできる一方で、その内容は決して「カジュアル」ではない。この対比もまた、本作の魅力の一つだろう。

    プレイヤーの反応:賛否両論の中で見えるもの

    Steamでの評価は「やや好評」で、355件のレビュー中72%が肯定的だ。肯定的なレビューでは「独特の操作が新鮮」「短いが濃密な体験」「手動操作が思ったより楽しい」といった声が目立つ。

    一方、否定的なレビューでは「内容が薄い」「同じ廊下の繰り返しで飽きる」「倫理的に不快」「これは『Trepang 2』や『I Am Your Beast』の劣化版だ」といった意見が見られる。特に比較されがちなのが、同じく復讐をテーマにしたFPS『Trepang 2』だが、本作はそれとは異なるアプローチを取っている。

    開発者はコミュニティからのフィードバックを積極的に受け入れており、リリース直後から複数回のアップデートを実施している。ハンマーなどの近接武器の追加、新たなギミック、UIの改善など、着実に進化を続けている点は評価したい。

    実績システムとリプレイ性

    本作には15の実績が用意されており、いずれもゲームのメカニクスに関連したものだ。「火災報知器を作動させる」「立ち式デスクを操作する」「トイレを流す」といった環境インタラクションから、「目を閉じたまま敵を倒す」「1000歩を踏む」「完全手動モードでクリアする」といった高難度のものまで幅広い。

    特に「FLUSH MASTER」(すべてのトイレを流す)は、マップ探索を促す実績として機能している。本作は一本道のように見えて、実はいくつかのルートやサイドルームが存在する。これらを見逃すと実績を取り逃がすことになるため、2周目以降のモチベーションにもなっている。

    また、「MANUAL AVENGER」(完全手動モードでクリア)は真のチャレンジだ。筆者も挑戦したが、リロードと歩行を同時に管理しながら敵の波をかわすのは、想像以上に困難だった。だが、達成したときの達成感はひとしおだ。

    短いが密度の濃い体験——プレイ時間と価格のバランス

    本作のプレイ時間は、通常モードで30分から1時間程度。手動モードでも2時間あればクリアできるだろう。これを「短すぎる」と見るか、「密度が濃い」と見るかは、プレイヤー次第だ。

    定価800円で購入できる。この価格帯であれば、実験的な作品としては妥当だと筆者は感じた。2時間のプレイ時間で得られる体験の濃さを考えれば、決して高くはない。

    ただし、長時間遊べるゲームを求めている人には向かない。本作はあくまで「短編映画」のような立ち位置だ。一度のプレイで強烈な印象を残し、プレイヤーの記憶に刻まれる——そういうタイプのゲームである。

    FPSの「当たり前」を疑う勇気

    『They Killed Your Cat』は、決して万人向けのゲームではない。暴力的な設定、不快感を伴うテーマ、実験的な操作——これらはすべて、プレイヤーを選ぶ要素だ。

    だが、だからこそ価値がある。本作は、FPSというジャンルが長年積み重ねてきた「快適さ」や「自動化」を一度解体し、「もし全てが手動だったら?」という問いを投げかける。その答えは不便で、不快で、時に滑稽だが、同時に新鮮で、緊張感があり、記憶に残る。

    Steamのレビューで「これはゲームなのか、それともアートプロジェクトなのか」と問う声があったが、筆者はその両方だと思う。ゲームとしての面白さと、メッセージ性を持つアート作品としての側面——その両立こそが、本作の最大の魅力だ。

    もしあなたが、いつものFPSに飽きているなら、あるいは「ゲームとは何か」を考えるきっかけが欲しいなら、『They Killed Your Cat』は試してみる価値がある。猫を殺された男の復讐劇は、きっとあなたの記憶に刻まれるはずだ。


    基本情報

    開発: Vekaria
    販売: Vekaria
    リリース日: 2026年2月24日
    価格: 800円
    プラットフォーム: Steam
    プレイ人数: 1人(シングルプレイヤー)
    言語: 英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポーランド語、ポルトガル語(ブラジル)、中国語(簡体字・繁体字)、日本語、韓国語、ロシア語
    ジャンル: FPS、アクション、シミュレーション、カジュアル、インディー
    Steam評価: やや好評(72% – 355件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/3489420/They_Killed_Your_Cat/

  • 完全無料なのにここまでできるの!? ソロ開発者が贈る物理演算カオスCoopゲーム『Delivery &Beyond』

    完全無料なのにここまでできるの!? ソロ開発者が贈る物理演算カオスCoopゲーム『Delivery &Beyond』

    「無料のインディーゲームって実際そんなに遊べるの?」しかし、『Delivery & Beyond』は違った。ソロ開発者FailCakeが完全無料でリリースしたこのゲームは、リリースからわずか数日でSteamレビュー89%という驚異的な評価を獲得。TikTokやRedditでバズったその理由を、実際にプレイして確かめてみた。

    配達?いいえ、カオスです

    本作は最大5人でプレイできるオンライン協力ゲームで、プレイヤーは怪しい配達会社「&Beyond」の社員となる。会社からの指示は明確だ。「契約を取れ。配達しろ。ノルマを達成しろ」。しかし、肝心の「どうやって」については一切説明がない。

    ゲームが始まると、プレイヤーはオープンワールドマップ上に配置された様々な建物に侵入し、家具や電化製品などをかき集めて「Delivery Maker 3000」という謎のマシンに投げ込む。すると、集めたガラクタが配達用パッケージに変換され、それを指定された場所に届ければミッション完了というわけだ。

    問題は、そのプロセスが想像以上にカオスだということ。建物への正規の入り口なんて使わない。窓をぶち破り、壁を突き破り、時には屋根から侵入する。椅子を投げ、机を破壊し、パソコンを粉々にする。そして警察が来る前に逃げ出す。これはもはや配達ではなく、強盗だ。

    プロップサーフィンこそがすべて!

    本作の最大の特徴は「プロップサーフィン」と呼ばれる移動システムだ。これは、ゲーム内のあらゆる物体に乗って移動できる物理演算ベースのメカニクスで、ファイルキャビネット、樽、オフィスチェア、果てはドラム缶まで、立てる物なら何でも乗り物になる。

    実際の操作は単純だ。物体を掴み、その上に立ち、そのまま投げる。すると物体が飛んでいく方向にプレイヤーも一緒に飛ばされる。これを使えば、橋のない深い谷を越えたり、高い壁を乗り越えたり、時には建物の屋上まで一気に到達できる。

    問題は、物理演算が予測不可能だということ。椅子に乗って華麗に谷を飛び越えたと思ったら、着地に失敗して奈落の底へ真っ逆さま。仲間が投げた机に轢かれて即死。自分が投げたドラム缶が跳ね返って自爆。マルチプレイでは、こうした予期せぬ事故が笑いを誘う。

    Garry’s Modのような物理サンドボックスの自由度と、Lethal Companyのような協力プレイの緊張感が見事に融合している。Reddit上では「友達と遊んだら3時間があっという間だった」「無料ゲームとは思えないクオリティ」といったコメントが溢れている。

    吸引、破壊、そして配達

    各プレイヤーは特殊な掃除機のようなツールを装備しており、これであらゆる物体を吸い込める。小さなゴミ箱から巨大な冷蔵庫まで、サイズは関係ない。すべて吸い込んで、スクラップに変換し、Delivery Maker 3000に投入する。

    ゲームの基本ループはシンプルだ。契約を受ける → 建物に侵入 → スクラップを集める → 配達用パッケージを作成 → 脱出 → ノルマ達成。しかし、各ステージには時間制限があり、さらに様々な敵や罠が待ち構えている。

    敵の種類も多彩で、警備員、自動砲台、謎の生物など、ステージごとに異なる脅威が登場する。これらから逃げながら、仲間と協力してスクラップを集め、制限時間内に脱出する。一見単純だが、プロップサーフィンによる予測不可能な動きが加わることで、毎回異なる展開が生まれる。

    ソロ開発者の情熱が生んだ奇跡

    『Delivery & Beyond』の開発者はFailCakeという名のソロインディー開発者だ。GitHubのプロフィールには「ただのクレイジーな開発者」とだけ書かれており、本作以外にもUnity向けのツールやゲームエンジンの開発を手掛けている技術者だ。

    実は本作、2022年のGitHub Game Jamで初めてプロトタイプが公開されており、約3年の開発期間を経て2026年1月27日に正式リリースされた。開発者自身が「ソロ開発だからできることには限界がある」とコミュニティに投稿しているが、その限界を感じさせない完成度に多くのプレイヤーが驚いている。

    特筆すべきは、本作が完全無料で提供されており、マイクロトランザクションや広告も一切ないという点だ。開発者はBlueskyで「自分のおかしなハイエナゲームをプレイしてくれてありがとう。本当にモチベーションになる」と感謝のメッセージを投稿。コミュニティの応援を受けて、今後もコンテンツ追加とバグ修正を続けていく予定だという。

    Steam史上最高の無料ゲーム体験

    本作は2026年2月初旬にバズり、ScreenRantが「Steamの新作無料ゲームが高評価すぎて信じられない」という見出しで記事を掲載したことで一気に注目を集めた。発売から1ヶ月で600件以上のレビューを集め、その89%が好評という数字は、無料ゲームとしては異例の高評価だ。

    ゲームの長所は明確だ。完全無料、友達と最大5人で遊べる、物理演算によるカオスな展開、プレイごとに異なる体験、そして何よりソロ開発者の情熱。一方で短所もある。日本語非対応、チュートリアルが不親切、時々発生するバグ、そしてあまりに自由すぎて何をすればいいか分からなくなることがある。

    しかし、それでも本作は「友達を誘ってとりあえず遊んでみる」価値が十分にある。無料なので試すリスクはゼロ。週末の数時間を仲間と笑いながら過ごすには完璧なゲームだ。

    Lethal CompanyやR.E.P.O.が好きな人、物理演算ゲームが好きな人、とにかくカオスな協力プレイを楽しみたい人にオススメしたい。『Delivery & Beyond』は現在Steamで無料配信中。ダウンロードすれば永久に遊べるので、この機会を逃す手はない。

    基本情報

    開発: FailCake
    販売: FailCake
    リリース日: 2026年1月27日
    価格: 無料
    プラットフォーム: Steam (Windows, Mac, Linux)
    プレイ人数: 1-5人(最大15人まで可能)
    言語: 英語のみ
    ジャンル: 協力プレイ / 物理演算 / カオス / アクション
    Steam評価: 非常に好評(89% – 602件のレビュー)

    購入リンク

    Steam

    公式リンク

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    Bluesky

  • 記憶の中の中国へ、カメラ片手にタイムスリップ! 歩いて、撮って、懐かしむウォーキングシミュレーター『Millennium Dream』

    記憶の中の中国へ、カメラ片手にタイムスリップ! 歩いて、撮って、懐かしむウォーキングシミュレーター『Millennium Dream』

    「ただ歩くだけのゲーム」って、面白いのか? 

    2026年1月27日にSteamでリリースされた『Millennium Dream』は、中国の個人デベロッパーLucidDreamLabが手がけた、ウォーキング&写真撮影シミュレーター。本作の舞台は、1990年代から2000年代初頭の中国。プレイヤーはカメラを手に、誰もいない街や学校、祖母の家など、”あの頃”の記憶を切り取られた空間を自由に歩き回る。

    ジャンプスケアもタスクリストもない。あるのは、かつて当たり前だったけれど、今はもうどこにもない「あの日常」の断片だけ。Steam評価は93%と「圧倒的に好評」を記録し、中華圏を中心に「涙が止まらない」「祖父母を思い出した」と感動の声が続出している。

    筆者自身、最初は「中国のノスタルジーゲーム? 文化が違うし共感できるかな……」と半信半疑だったのだが、実際にプレイしてみると、国境を越えて心に響く何かがあった。懐かしさは、万国共通の感情なのだと実感した体験をお届けしよう。

    「中式夢核(チャイニーズ・ドリームコア)」という美学

    本作を語る上で欠かせないのが、「中式夢核(チャイニーズ・ドリームコア)」という独特の美的概念だ。これは、1990年代から2000年代初頭の中国の日常風景を、夢のようなフィルターを通して再構築した視覚表現のこと。

    具体的には、色あせたトタン屋根の集合住宅、薄暗い校舎の廊下、古ぼけた遊園地、商店街の湿った空気感……といった、かつて中国の都市部で当たり前だった光景を、人の気配を消した状態で描き出す。そこに「リミナルスペース(liminal space)」の要素が加わることで、懐かしさと不気味さが同居する独特の雰囲気が生まれる。

    リミナルスペースとは、「境界空間」を意味する概念で、通常は人で賑わっているはずの場所が無人になっている状態を指す。空港の待合室、廃墟になった学校、誰もいないショッピングモール……こうした空間は、「ここに人がいたはずなのに」という違和感と、「確かに見覚えがある」という既視感が入り混じり、妙な感覚を呼び起こす。

    『Millennium Dream』では、この「中式夢核」と「リミナルスペース」が見事に融合している。プレイヤーは、まるで夢の中を彷徨うように、かつての日常風景を歩き回ることになる。そこには誰もいないのに、確かに「生活の痕跡」が残っている。黒板に残された落書き、布団が敷かれたままのベッド、テーブルの上に置かれた使いかけの文房具……。

    日本人の筆者にとっても、どこか懐かしい。校舎の造りは違うけれど、「放課後の誰もいない教室」の空気感は共通している。祖母の家の間取りは異なるけれど、古い家具や小物に漂う「時間の重み」は同じだ。文化は違えど、人が生きた痕跡が持つ温もりは、万国共通なのだと気づかされる。

    カメラフィルターで「あの頃」を切り取る

    本作の核となるのが、写真撮影システムだ。プレイヤーは常にカメラを携帯しており、気になった風景や小物を自由に撮影できる。

    カメラには複数のフィルターが用意されている。携帯電話の荒いグレインフィルターで、2000年代初頭のガラケー写真のような粗い質感を再現したり、ハイコントラストな白黒フィルムで光と影の対比を強調したり。フィルター選びによって、同じ風景でも全く異なる印象の写真が撮れる。

    筆者が特に気に入ったのは、モノクロフィルターだ。色彩を排除することで、かえって「記憶の中の風景」らしさが増す。人間の記憶は、時間が経つほど色彩が薄れていくもの。白黒写真は、そんな「色あせた記憶」を視覚化してくれる。

    また、撮影した写真はコレクションとして保存され、いつでも見返すことができる。ゲームを進めるうちに、自分だけの「思い出アルバム」が完成していく感覚が心地よい。

    さらに面白いのが、インタラクティブオブジェクトの存在だ。古いぜんまい式のブリキのカエル、子犬の形をした目覚まし時計、黄ばんだ貯金箱……こうした小物は、手に取って回転させたり、動かしたりできる。ぜんまいを巻くと、カエルがピョコピョコ跳ねる。目覚まし時計のアラームをセットすると、懐かしい音が鳴る。

    これらの小物ひとつひとつに、「時間の痕跡」が刻まれている。錆びた部分、色あせた塗装、使い込まれた質感……。そうした細部の描写が、かつて誰かがこれを使っていた、という「人の温もり」を感じさせてくれる。

    天候と時間を自在に操る「記憶の再構成」

    『Millennium Dream』の最も独創的な要素が、天候と時間帯を自由に変更できるシステムだ。

    セミの声が響く夏の午後が、一瞬にして雪景色に変わる。土砂降りの夕暮れが、瞬く間に霧がかった朝に変わる。同じ場所でも、天候や時間帯によって全く異なる表情を見せる。

    このシステムが素晴らしいのは、「記憶の再構成」を体験できる点だ。人の記憶は、その時の気分や感情によって、同じ場所でも異なる印象を持つ。雨の日の学校は物悲しく、晴れた日の公園は開放的に感じる。『Millennium Dream』では、プレイヤー自身が天候と時間を選ぶことで、「自分の中の記憶」に最も近い風景を作り出せる。

    筆者は、夕暮れ時の校舎が特に好きだった。オレンジ色の夕日が差し込む教室、長く伸びる影、どこか寂しげな空気感……。「もうすぐ日が暮れる」という時間の流れが、「もう二度と戻らない」という喪失感と重なり、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

    多様な風景が織りなす「記憶のパッチワーク」

    本作には、複数のステージが用意されている。トタン屋根の農村地帯から、高層マンションが立ち並ぶ都市部まで、中国の様々な地域の風景が再現されている。

    興味深いのは、プレイヤーの出身地や育った環境によって、「刺さる」場所が異なる点だ。Steam レビューでは、「祖母の家そっくりで泣いた」「通っていた小学校とそっくり」「自分が住んでいた団地と同じ造りで鳥肌が立った」といった声が多数寄せられている。

    日本人の筆者にとっては、むしろ「異国の記憶を追体験する」という新鮮さがあった。中国特有の建築様式、看板のデザイン、街並みの雰囲気……。知らない国の過去を垣間見ることで、「ノスタルジーは文化を超える」という発見があった。

    特に印象的だったのが、廃墟と化した遊園地のステージだ。錆びついた観覧車、動かなくなったメリーゴーランド、色あせたペンキ……。かつてここに子供たちの笑い声が響いていたはずなのに、今は静寂だけが支配している。この「失われた賑やかさ」が、かえって記憶を呼び覚ます。

    各ステージには、隠された「入口」が存在する。それを見つけると、季節や風景が異なる別のエリアに移動できる。この探索要素が、ただ歩くだけのゲームに程よいアクセント を加えている。「次は何が見つかるだろう」というワクワク感が、プレイを前に進ませてくれる。

    Steam評価93%、中華圏で大ヒット

    リリースから約1か月で、本作のSteam評価は93%「圧倒的に好評」を記録。レビュー数は1,900件を超え、そのうち約97%が中国語圏のユーザーだという。

    レビューには、「ただ歩いているだけなのに涙があふれて止まらない」「本当に短い夢を見ているようだった」「懐かしさで涙があふれる」「思い出よ、さようなら」といった、感動の声が並ぶ。

    興味深いのは、若い世代のプレイヤーも多い点だ。実際には1990年代や2000年代を経験していないZ世代も、本作を通じて「親の世代が生きた時代」を追体験している。ある中国のGen Zプレイヤーは、「自分は2010年生まれだけど、なぜかこの風景に懐かしさを感じる。20年早く生まれていたら、もっと幸せだったかもしれない」とコメントしている。

    これは、中国で「中式夢核」がブームになっている背景とも関連している。急速な経済発展と都市化により、かつての街並みや生活様式が次々と失われていく中で、若い世代は「失われた黄金時代」への憧憬を抱いているのだ。『Millennium Dream』は、そうした集合的な郷愁を、ゲームという形で具現化している。

    日本人プレイヤーからも、「国が違うのでピンとこない要素もあるが、人生という大意において通じるところも多数あり、隣の国の人生を通じて、もう何年も思い出すことのなかった少年時代を思い返すことができた」「知らない国の思春期を体験することができるゲームとして、とても新鮮だった」といった感想が寄せられている。

    コミュニティと共に成長するゲーム

    開発者のLucidDreamLabは、リリース後も継続的にアップデートを実施している。2026年2月の春節アップデートでは、赤い提灯、春聯(春節の飾り)、切り絵の窓飾りなど、旧正月の装飾が各所に追加された。

    さらに、コミュニティから投稿された写真を実際にゲーム内に追加する取り組みも行われている。プレイヤーたちが撮影した「思い出の一枚」が、ゲーム世界の一部となることで、『Millennium Dream』はまさに「みんなの記憶」で構成された空間へと進化している。

    また、実績システムも追加され、隠された場所を発見したり、特定の条件を満たすことで解除されるアチーブメントが18種類用意された。これにより、単に歩くだけでなく、探索する楽しみも生まれている。

    無料の音楽DLCも準備中で、プラットフォームの審査待ちとのこと。開発者の「プレイヤーと共にゲームを育てていく」姿勢が、高評価につながっているのだろう。

    技術的な注意点

    ひとつ注意が必要なのは、本作はアップスケーリング(解像度の引き上げ)を前提に設計されている点だ。ネイティブ解像度での動作も可能だが、フレームレートが大幅に低下する可能性がある。開発者は、通常のプレイではアップスケーリングを有効にすることを推奨している。

    また、一部のレビューでは「翻訳が不完全」という指摘もある。日本語にも対応しているが、中国語からの機械翻訳と思われる箇所もあり、ニュアンスが伝わりづらい部分も。Google Lensなどの翻訳ツールを併用すると、より理解が深まるだろう。

    グラフィックについては、最新のAAAタイトルと比べれば質素だが、それが逆に「記憶の中の風景」らしさを演出している。過度にリアルすぎると、かえってノスタルジーが損なわれる。本作の柔らかく、どこか曖昧なビジュアルは、「思い出は美化される」という人間の記憶の性質を巧みに利用している。

    静かに、深く、心に響く体験

    『Millennium Dream』は、派手なアクションもなければ、複雑なパズルもない。ただ歩いて、見て、撮る。それだけのゲームだ。

    でも、だからこそ、心に深く響く。

    現代のゲームは、つねにプレイヤーに「やるべきこと」を提示する。クエストをクリアし、敵を倒し、レベルを上げ、アイテムを集める。それはそれで楽しいのだが、時には疲れることもある。

    『Millennium Dream』には、そうした「ゲームらしさ」がない。プレイヤーは何も達成しなくていい。ただ、自分のペースで歩き、心に響く風景を見つけ、カメラに収める。それだけでいい。

    この「何もしなくていい」という自由が、逆説的に、深い没入感を生み出している。現実世界でも、私たちはつねに「やるべきこと」に追われている。『Millennium Dream』は、そんな日常から離れて、ただ「存在する」ことを許してくれる稀有なゲームだ。

    プレイ中、筆者は何度も立ち止まった。夕焼けに染まる校舎を眺め、雨音を聞き、誰もいない教室の空気を感じた。そして、自分の記憶の中にある「似た風景」が、ゆっくりと浮かび上がってきた。

    小学校の帰り道、友達と遊んだ公園、祖母の家の縁側……。『Millennium Dream』が描くのは中国の風景だけれど、それを見ているうちに、筆者の中にある「日本の記憶」が呼び覚まされた。

    ノスタルジーは、特定の場所や文化に縛られない。人が生きた痕跡、時間の重み、失われた日常への憧憬……そうした普遍的な感情は、国境を越えて共有できる。『Millennium Dream』は、そのことを静かに、しかし確かに教えてくれる。

    もしあなたが、かつての日常を懐かしむことがあるなら。もしあなたが、「あの頃に戻りたい」と思うことがあるなら。『Millennium Dream』は、その願いを少しだけ叶えてくれるかもしれない。

    カメラを手に、記憶の中の風景を歩いてみませんか?


    基本情報

    ゲーム名: Millennium Dream(千禧梦)
    開発: LucidDreamLab
    パブリッシャー: LucidDreamLab
    リリース日: 2026年1月27日
    プラットフォーム: PC (Steam)
    価格: 920円(税込)
    対応言語: 日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、スペイン語、ロシア語ほか全8言語
    ジャンル: ウォーキングシミュレーター、写真撮影、アドベンチャー
    プレイ時間: 2〜4時間
    難易度: なし(探索型)
    Steam評価: 93% 圧倒的に好評(1,900件以上のレビュー)

    購入リンク

    公式リンク

  • 極北のコンビニで夜勤バイト。昼は接客、夜は……怪物?『HELLMART』で7日間のサバイバルが始まる

    極北のコンビニで夜勤バイト。昼は接客、夜は……怪物?『HELLMART』で7日間のサバイバルが始まる

    「ただのコンビニバイトだろ?」……と舐めていたら……

    Steamのストアページで『HELLMART』を初めて見たとき、正直「またスーパーマーケット系シミュレーターか」と思った。ここ数年、レジ打ちや品出しをするだけのゲームが乱立していたからだ。

    しかし、この『HELLMART』は違った。24時間営業のコンビニで働く夜勤バイトという設定、極北の地という舞台、そして何より──「夜になると、奇妙な客が来る」という一文。これは、ただの経営シミュレーションではない。

    開発は、GAZE IN GAMESというスタジオ。創業者のOleg Gazeが率いる新進気鋭のチームで、本作が実質的なデビュー作となる。2026年1月28日に正式リリースされ、Steam評価は767件のレビューで75%が好評という「やや好評」の評価を獲得している。

    ジャンルとしては「ホラーシミュレーション」。昼間は普通のコンビニバイト、夜は超常的な脅威に立ち向かうサバイバルホラーという二面性が特徴だ。価格は1,700円で、デモ版も無料配信されている。

    昼は接客業、夜はサバイバル──二つの顔を持つゲームループ

    『HELLMART』のゲームプレイは、明確に「昼」と「夜」に分かれている。

    昼間のシフト:ひたすら接客とレジ打ち

    昼間の仕事は至ってシンプル。来店する客に商品を販売し、売上目標を達成する。レジ打ち、商品の補充、店内清掃、そして客への丁寧な対応──これらすべてが評価対象となる。

    ここで重要なのが、「客に失礼な態度を取らない」というルール。どんなに忙しくても、どんなに変な客が来ても、昼間は笑顔で接客しなければならない。実はこれ、夜のサバイバルにも直結する重要な要素なのだ。

    売上目標を達成できなければ、店のアップグレードに必要な資金が得られない。逆に、しっかりと売上を立てれば、夜間の防衛に必要な設備を購入できる。この「稼ぎ」と「生存」のバランスが、本作の戦略性を生み出している。

    夜間のシフト:監視カメラと発電機が命綱

    日が沈むと、店の様相は一変する。

    まず、夕方の時間帯に準備作業が必要だ。発電機の燃料チェック、ドアへのバリケード設置、防犯カメラの動作確認、そして防衛用アイテムの購入。これらを怠ると、確実に夜を乗り切れない。

    夜間、最も重要なのは「誰を店内に入れるか」の判断だ。深夜に来店する客の中には、人間に擬態した「何か」が紛れ込んでいる。見た目は普通の客だが、よく観察すると微妙に動きがおかしかったり、不自然な笑顔を浮かべていたりする。

    この判断を誤ると──つまり、怪物を店内に入れてしまうと──命の危険に晒される。逆に、普通の客を締め出してしまうと、その客の運命は……まあ、想像に難くない。

    プレイヤーの選択が客の生死を左右する。このモラル的ジレンマが、『HELLMART』のホラー要素をさらに深めている。

    隠れたシステムが生み出す緊張感──「見えないプレッシャー」の正体

    『HELLMART』の恐怖は、ジャンプスケアだけではない。むしろ、ゲームが明示しない「隠れたシステム」こそが、プレイヤーを真綿で首を絞めるように追い詰めていく。

    コミュニティの検証によれば、本作には少なくとも3つの隠しパラメータが存在する。

    1. 時間プレッシャー
    営業時間を延長すればするほど、異常現象の発生頻度が上がる。売上を伸ばしたい気持ちと、早く店を閉めたい恐怖のせめぎ合いだ。

    2. ノイズレベル
    商品を落としたり、慌てて動き回ったりすると、「何か」を引き寄せてしまう。静かに、慎重に行動することが生存率を上げる。

    3. ストレスメーター
    タスクを放置したり、ミスを重ねたりすると、主人公の反応速度が鈍くなる。画面には表示されないが、確実にプレイヤーを不利にしていく。

    これらのシステムは、ゲーム内で一切説明されない。プレイヤーは試行錯誤を繰り返す中で、「なぜか今日は敵が多い」「なぜか反応が遅れる」と感じ、自然とゲームのルールを学んでいく。

    この「暗黙のルール」こそが、『HELLMART』独特の緊張感を生み出している。

    3つのエンディング──あなたの選択が結末を決める

    『HELLMART』は7日間のキャンペーンモードで構成されており、プレイヤーの行動によって3つ(一部情報では4つ)の異なるエンディングが用意されている。

    • グッドエンディング:客を守り抜き、すべてのルールを遵守した場合
    • バッドエンディング:自己保身に走り、客を見捨てた場合
    • シークレット/トゥルーエンディング:特定の条件を満たした場合(詳細は伏せる)

    重要なのは、「どのエンディングが正解」ということではない。『HELLMART』は、プレイヤーに道徳的な選択を迫る。生き延びるために客を見捨てるのか、それとも人間性を守り抜くのか。

    この選択の重みが、単なるホラーゲームを超えた体験を生み出している。

    賛否両論の評価──「期待と現実のギャップ」が生んだ批判

    Steam評価75%という数字は、決して低くはない。しかし、「圧倒的に好評」とも言い難い微妙なラインだ。

    主な批判点は以下の3つ。

    1. グラフィックのダウングレード
    トレイラーで見せた美しいライティングや商品の質感が、製品版では劣化していると指摘する声が多い。特にロシア語圏のレビューで顕著だ。

    2. 夜間パートが短すぎる
    昼間の単調な作業に対して、夜の恐怖体験が物足りないという声。期待していたホラー要素が薄いと感じるプレイヤーも。

    3. 反復作業の多さ
    7日間同じことを繰り返すだけで、新しい展開が少ない。リプレイ性を謳っているが、実際には変化に乏しいという批判。

    一方で、擁護する声も少なくない。「この価格でこのクオリティなら十分」「雰囲気だけで元が取れる」「続編やアップデートに期待」といった肯定的な意見も目立つ。

    似て非なるゲーム──『僕、アルバイトォォ!!』との比較

    コンビニを舞台にしたゲームとして、『僕、アルバイトォォ!!』との比較は避けられない。

    『僕、アルバイトォォ!!』は、迷惑客をバールで殴り飛ばすコメディアクション。ネットミームを多用し、笑いを重視した作品だ。価格も700円と非常に安い。

    対して『HELLMART』は、真面目にホラー体験を追求している。笑いではなく、恐怖と緊張感。そして、プレイヤーの選択に意味を持たせている。

    どちらが優れているかではなく、どちらを求めているかだ。気軽に笑いたいなら『僕、アルバイトォォ!!』、じっくりと恐怖に浸りたいなら『HELLMART』。同じコンビニでも、まったく異なる体験が待っている。

    Silent Hillとスーパーマーケットシミュレーターの融合

    海外メディアGameSpewは、『HELLMART』を「Silent Hillとスーパーマーケットシミュレーターの融合」と評した。的確な表現だと思う。

    『Silent Hill』シリーズが持つ、日常に潜む狂気。普通の街が、普通のコンビニが、夜になると別の顔を見せる。その恐怖は、派手なモンスターではなく、「いつもと何かが違う」という微細な違和感から生まれる。

    『HELLMART』も同じアプローチを取っている。昼間の平凡な接客業が、夜には生死を賭けたサバイバルに変わる。この落差こそが、本作最大の魅力だ。

    GameSpewのレビュアーは、デモ版をプレイした後、「着替えを持ってくるべきだった」とコメントしている。それほどまでに、本作の恐怖は予想外だったのだろう。

    極北の孤独──ロケーションが生み出す絶望感

    『HELLMART』の舞台は、極北の地にある24時間営業のコンビニ。周囲は雪と森に囲まれ、最も近い街まで何キロも離れている。

    この「孤立」こそが、ゲームの恐怖を増幅させている。助けは来ない。逃げる場所もない。ただひたすら、7日間を生き延びるしかない。

    実際、ゲーム内では「なぜこの仕事を選んだのか」という主人公の動機が語られる。都会の喧騒から逃れたい。人と関わりたくない。簡単に稼げると思った──そんな理由で極北へ来たのだ。

    しかし、現実は甘くなかった。人里離れた場所だからこそ、「人間以外のもの」が跋扈する。皮肉にも、人を避けた結果、もっと恐ろしいものと向き合うことになったのだ。

    デモ版で試せる「最初の3日間」

    製品版の購入を迷っているなら、まずデモ版をプレイすることを強く推奨する。

    デモ版では、最初の3日間(3シフト)を無料で体験できる。昼間の接客業務から、夜間のホラー要素まで、ゲームの核心部分はすべて含まれている。

    デモ版のSteam評価は712件で87%が好評──製品版よりも高い評価だ。これは、デモの範囲内では非常に完成度が高いことを示している。逆に言えば、製品版の低評価は「デモ以降の展開が期待外れ」という声が多いのだろう。

    デモ版をプレイして、この雰囲気が気に入ったなら購入する。それで十分だと思う。

    日本語完全対応──ローカライズの質も高い

    『HELLMART』は、インターフェース、音声、字幕すべてが日本語対応している。しかも、ローカライズの質が非常に高い。

    ホラーゲームにおいて、言語の壁は致命的だ。微妙なニュアンスや、不気味な台詞の意味が理解できなければ、恐怖は半減する。

    その点、『HELLMART』の日本語訳は秀逸だ。客の不自然な会話、主人公の内面描写、ゲーム内の指示──すべてが自然な日本語で表現されている。

    対応言語は全15言語。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語など、主要言語はすべて網羅している。グローバル市場を意識した、本格的なインディータイトルだ。

    アップデートと今後の展開

    GAZE IN GAMESは、発売後も継続的にアップデートを行っている。コミュニティの声に耳を傾け、バランス調整やバグ修正を実施している姿勢は評価できる。

    公式Discordサーバーも活発で、開発者が直接プレイヤーと交流している。これは、インディースタジオならではの強みだ。

    今後のアップデートで期待されるのは、以下の要素だ。

    • 夜間パートのボリューム追加
    • 新しいエンディングルート
    • グラフィックの改善
    • 新しい敵タイプの追加
    • ニューゲームプラス要素

    特に、「ニューゲームプラス」の実装を望む声は多い。7日間クリア後、より高難度でやり込める要素があれば、リプレイ性は格段に向上するだろう。

    結論──「未完成の傑作」か「期待外れの凡作」か

    『HELLMART』は、賛否が真っ二つに分かれるゲームだ。

    雰囲気、設定、コンセプト──これらは間違いなく一級品。極北のコンビニという舞台設定、昼夜で変わるゲーム性、選択による分岐エンディング。すべてが魅力的だ。

    しかし、ボリューム不足、反復作業の多さ、グラフィックの劣化──これらの欠点も無視できない。「もっとコンテンツがあれば」「もっと夜が怖ければ」という声は、正当な批判だと思う。

    筆者の結論は、こうだ。

    「この価格で、このコンセプトを体験できるなら、買って損はない」

    確かに、100時間遊べるゲームではない。しかし、『HELLMART』にしか味わえない体験がある。極北のコンビニで、7日間を生き延びるという緊張感。客を救うか、見捨てるかという選択。そして、夜の静寂に潜む恐怖。

    これらは、他のゲームでは決して味わえない。

    もしあなたが、「雰囲気重視のホラーゲーム」が好きなら、『HELLMART』は試す価値がある。完璧ではないが、唯一無二の体験が待っている。

    まずはデモ版から。そして、極北の夜を生き延びてほしい。


    基本情報

    タイトル: HELLMART
    開発: GAZE IN GAMES
    パブリッシャー: GAZE IN GAMES
    リリース日: 2026年1月28日
    プラットフォーム: PC (Steam)
    価格: 1,700円
    日本語対応: あり(インターフェース/音声/字幕すべて対応)
    プレイ人数: 1人
    ジャンル: ホラー、シミュレーション、アドベンチャー、サバイバルホラー
    Steam評価: やや好評 (75% / 767件のレビュー)
    プレイ時間: 3-5時間(1周)

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  • 処刑ボタンを押したら負け。5日間の選択が良心を試す『イツカノヨル』

    処刑ボタンを押したら負け。5日間の選択が良心を試す『イツカノヨル』

    「押したら負け」──

    目の前には赤い処刑ボタン。そしてわずか5日後に死刑執行が決まった竜族の少女。彼女が何か怪しい動きをしたら、危害を加えてきたら、いつでもこのボタンを押せばいい。即座に処刑が執行される。

    PC(Steam)向けゲーム『イツカノヨル』は、こんな極限の状況から始まるマルチエンド方式のノベルゲームだ。2023年10月にUnityroomで公開され、総プレイ回数30万回以上を記録した話題作が、2026年1月29日、フルボイス化や新エンディング追加などの大幅パワーアップを遂げてSteamに登場した。

    「いつでも押せる」という重圧

    ゲームのルールはシンプルだ。プレイヤーは死刑囚となった竜族の少女・ミラの看守として、5日間を過ごす。村を焼き払ったという罪で捕らえられた彼女は、呪われた存在とされる竜族。安全のため、プレイヤーの目の前には常に「処刑ボタン」が置かれている。

    このボタンは会話の途中だろうと、いつでも、何度でも押すことができる。少女が何か言いかけた瞬間に押してもいいし、最初から押してもいい。選択肢を選ぶ前に押してもいい。完全な自由がある。

    しかし、この「いつでも押せる」という状況こそが、プレイヤーの良心を試してくる。最初は警戒心MAXで臨んだ筆者も、彼女との会話を重ねるうちに徐々に迷いが生じてきた。「本当に彼女は危険なのか?」「村を焼いたというのは本当なのか?」そして何より「この子を殺していいのか?」と。

    1プレイ約5分の濃密な心理戦

    本作の特徴は、1回のプレイ時間が約5分という短さにある。しかしこの5分間が、驚くほど濃密だ。ミラとの会話、選択肢の選択、そして処刑ボタンを「押す/押さない」「いつ押すか」という判断。これらすべてが物語の結末に影響を与える。

    全13種類のエンディングは、プレイヤーの選択、好奇心、そして罪悪感によって分岐していく。例えば、会話の最中にボタンを押せばバッドエンド。しかし押さずに最後まで話を聞けばハッピーエンド……というほど単純ではない。中には「ハッピーエンドの直前」でもボタンを押せてしまうルートがあり、Steam コミュニティでは「これハッピーエンドの直前も死刑ボタン押せるのか…」という悲鳴にも似たコメントが寄せられていた。

    筆者も初回プレイで、良かれと思って選んだ選択肢が予想外の展開を生み、思わず「えっ…?」と声が出た。選択肢には「竜族の象徴である角を折る」という痛ましいものまである。わくわくゲームズの公式Xアカウントでも「処刑ボタンを押したら負けといっても過言ではない」と明言されているが、まさにその通り。プレイヤーの良心が試される5分間なのだ。

    Unityroomから進化したSteam版の魅力

    Steam版は元となったUnityroom版から大幅にパワーアップしている。最も大きな変更点は、ミラ役に菜月なこさんを起用したフルボイス化だ。可愛らしい外見とは裏腹に、時折見せる諦めや悲しみを含んだ声色が、プレイヤーの罪悪感をより一層刺激してくる。

    また、エンディングも追加され、それに伴うBGM、スチル、立ち絵差分が追加。Steam実績に対応し、ギャラリー機能も実装された。さらに英語、中国語(繁体字、簡体字)にも対応し、グローバル展開も視野に入れた完全版となっている。

    操作は基本的にクリックのみ。コントローラー操作にも対応しているため、快適にプレイできる。短時間で周回しやすい設計も相まって、「もう一度別の選択肢を試してみよう」という気持ちにさせられる。気がつけば全エンディング制覇を目指して何度もプレイしていた。

    「イツカノヨル」というタイトルの妙

    本作のタイトル「イツカノヨル」は、カタカナ表記にすることで「5日の夜」と「何時かの夜」をかけた秀逸なネーミングだ。Unityroomのコメント欄でも「タイトルをカタカナで書くことで二重の意味を持たせるの天才すぎる」と絶賛されている。

    英題は「5omeday」。こちらも「Someday(いつか)」と「5 day(5日)」を掛け合わせた遊び心あふれるタイトルになっている。

    Steamレビューは91%の「非常に好評」

    Steam版の評価は174件中91%が好評と、高い支持を得ている。「幸せになって欲しくてボタンをこれ以上押したくなくて7つエンディングで断念!キャラ可愛い」「全てのエンディングを回収するためにボタン押していると心が苦しくなる。でもハッピーエンドを観られてよかった」といったレビューからは、多くのプレイヤーがミラとの関係に感情移入していることが伝わってくる。

    一方で「やばい、バッドエンドおもろすぎる❗️」「俺は6、9、7、8、4、10、1の順でぶち抜いた畜生です」といった、あえてバッドエンドを楽しむプレイヤーも。本作は「処刑ボタンを押すゲーム」ではないが、押した場合のルートも丁寧に作り込まれており、プレイヤーの良心を試しながらも、どんな選択にも物語が用意されている懐の深さがある。

    心理ホラーとしての完成度

    本作はビジュアルノベルでありながら、心理ホラーの要素も色濃い。直接的な暴力描写や出血表現はないものの、プレイヤー自身が「加害者」になりうる立場に置かれることで、独特の緊張感と罪悪感が生まれる。

    「即処刑できるボタン」という設定は一見すると過激だが、実際には人間の道徳心や判断力を問う哲学的なテーマを内包している。「罪を犯した者は罰せられるべきか」「呪われた種族というだけで差別されていいのか」「命を奪う権利は誰にあるのか」──こうした問いに、プレイヤーは5分間で向き合うことになる。

    基本情報

    タイトル: イツカノヨル
    開発元: Indigo Ingots, Starlit Chronicles Studio
    パブリッシャー: Waku Waku Games
    リリース日: 2026年1月28日(Steam)
    プラットフォーム: PC(Steam)、Nintendo Switch(2026年春予定)
    価格: 800円(税込)
    プレイ時間: 1周約5分(全エンディング制覇には数時間)
    対応言語: 日本語、英語、中国語(繁体字)、中国語(簡体字)
    ジャンル: ビジュアルノベル、アドベンチャー、心理ホラー
    Steam評価: 非常に好評(91%)
    エンディング数: 13種類
    声優: 菜月なこ(ミラ役)

    クレジット

    企画・シナリオ・プログラム: Indigo Ingots
    アート: polaritia
    サウンド: かずら’s MUSIC

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    総評

    『イツカノヨル』は、「処刑ボタン」という強烈なギミックを軸に、プレイヤーの良心と判断力を試す異色のビジュアルノベルだ。1プレイ約5分という短さながら、その5分間に詰め込まれた選択の重みと心理的緊張感は、他に類を見ない体験を提供してくれる。

    フルボイス化されたミラの声、美しいゴシック調のビジュアル、そして13種類の多彩なエンディング。すべてが高いクオリティで仕上がっており、800円という価格は非常にリーズナブルだ。短時間で周回しやすい設計も素晴らしく、「次はどんな展開になるんだろう?」という好奇心が止まらない。

    ただし、本作は万人向けではない。テーマが死刑や差別といった重いものであり、プレイヤー自身が加害者になりうる立場に置かれる。心理的な負担を感じる人もいるだろう。しかし、だからこそ本作は「ゲームでしか味わえない体験」を提供できている。

    「処刑ボタンを押したら負け」──この一文の意味を、ぜひあなた自身の手で確かめてほしい。5日間の選択が、あなたの良心を試してくる。

  • 壁を登ること、それだけが目的——本物のクライマーが作った究極のクライミングシム『New Heights: Realistic Climbing and Bouldering』

    壁を登ること、それだけが目的——本物のクライマーが作った究極のクライミングシム『New Heights: Realistic Climbing and Bouldering』

    「ゲームでクライミングができる?どうせ派手なアクションゲームでしょ」

    しかし、オランダのWikkl Worksが手掛ける『New Heights: Realistic Climbing and Bouldering』は、そんな先入観を見事に覆してくれました。本作は実際のクライマーたちが開発した、物理演算に基づく本格的なクライミングシミュレーションゲームです。2023年7月から早期アクセスとして公開されていた本作は、2026年2月26日にいよいよ正式リリースを迎えます。

    「何百時間でも登り続けたくなる」——実在する岩壁をフォトグラメトリーで再現

    本作の最大の特徴は、現実世界に実在するクライミングスポットを忠実に再現している点です。フランスのフォンテーヌブローの有名なボルダー、ベルギーのフレールの30分級の長大ルート、そしてノルウェーのハンシェレーレン洞窟にある伝説のルート「Silence」まで、280以上の実在ルートが収録されています。

    これらは単なる3Dモデルではありません。開発チームはフォトグラメトリー技術とドローンを駆使し、何百枚もの写真から本物の岩肌の質感、凹凸、角度までを正確にデジタル化しているのです。画面越しに見える岩は、クライマーたちが実際に挑んできた、あの岩そのものなのです。

    ゲーム内では城の廃墟や崩れかけた礼拝堂など、現実では登ることが許されない場所も登攀可能。安全なPC環境から、フリーソロクライミングの緊張感を体験できるのも本作ならではの魅力です。

    バランス、グリップ、体の位置——物理演算が生み出す「本物」の感覚

    「左手でこのホールドを掴んで、右足を高く上げて、体重を左に…あ、落ちた」

    本作のクライミングメカニクスは、まさに実際のクライミングそのものです。左右のマウスボタンで両手、Shift+マウスで両足、WASDとQ・Eで体重移動と体の位置をコントロールします。一見複雑に思えるこの操作系は、実際のクライミングで求められる「四肢の独立した制御」と「全身のバランス感覚」を見事に再現しています。

    物理演算エンジンは、ホールドの向き、掴み方、体の角度、重心の位置などを厳密に計算。悪いホールドでも体の位置を工夫すれば良いホールドに変わり、逆に良いホールドでもバランスを崩せば滑り落ちます。

    実際のクライマーからは「足を高く上げる、体を壁に近づける、重心を移動させるといった、現実のクライミングで使うテクニックがそのまま有効」といった評価が寄せられています。

    チュートリアルから難易度V17まで——段階的に深まるクライミング体験

    ゲームは「レイチェルのジム」でのチュートリアルからスタート。初心者向けの課題で基本操作を学び、徐々に足の使い方、コア(体幹)の操作へと進んでいきます。「ボルダリングジムの初日のレッスンそのもの」という声があるように、実際のクライミング体験を忠実になぞったチュートリアル設計です。

    各ルートには3段階の星評価システムがあり、1つ星はルート完登、2つ星は落下なしでの完登、3つ星は5分以内のクリアとなっています。上位難易度のエリアは999個の星を集めなければアンロックされないなど、やり込み要素も充実。

    難易度はジムの初級ルートから、実在する世界最難関ルートまで幅広く用意されており、プレイヤーのスキルに応じて段階的に挑戦できます。Steam Workshopでのコミュニティ制作ルートも利用可能で、近い将来にはスマートフォンアプリと連携して、自分で撮影した岩をゲーム内で登れる機能も予定されています。

    正式リリースで追加される新要素——ロープシステムと協力プレイ

    2026年2月26日の正式リリースでは、ロープとビレイ(確保)システムが完全実装されます。このアップデートにより、ボルダリングだけでなく、本格的なロープクライミング体験が可能に。ハーネス、カラビナ、ビレイデバイスを使った安全確保の技術も再現され、より総合的なクライミングシミュレーターへと進化します。

    また、協力プレイモードも予定されており、フレンドと一緒にルートを攻略したり、互いのタイムを競い合ったりできるようになります。リーダーボードシステムも完備されており、世界中のクライマーと記録を競うことも可能です。

    開発チームは「フィードバックが不可欠」として、Discordサーバーとフォーラムを通じてコミュニティと密接に連携。2年以上の早期アクセス期間を経て、物理エンジンの改善、ダイノー(飛びつき動作)の洗練、新しいコスメティックアイテムの追加など、継続的なアップデートを行ってきました。

    経験者も唸る確かな再現度——「登ることそのもの」を純粋に楽しむ

    クライミング専門メディア「Climbing」は本作を「ロッククライミングの物理を捉えた初めてのビデオゲーム。すべてのクライマーが試すべき」と評価。実際のクライマーたちからは「フォンテーヌブローに何度も行った経験があるが、ゲーム内で同じ場所を登れるのは感動的」「怪我をしていて登れないときでも、この感覚を味わえるのは素晴らしい」といった声が寄せられています。

    一方で、グラフィックは華やかではなく、ストーリー性も最小限。本作には派手なアクション要素も、劇的な物語展開もありません。あるのは「壁を登る」という、ただそれだけの体験です。

    しかし、だからこそ本作は特別なのです。

    Steamレビューでは92%が好評価(210件中)という高い支持を獲得。「QWOP的な悪夢になるかと思ったが、現実味と楽しさの完璧なバランス」「Cairnよりもシミュレーション寄りだが、その分リアルなクライミング感覚を求める人には最高」といった評価が並びます。

    開発者Boogaard氏は「現実のクライミングとボルダリングに可能な限り近い体験を、最適なコントロールで提供したい」と語っています。売上は期待したほどではないものの(約4,500本)、コミュニティによるルート作成機能が実装されれば「ゲームは永遠に生き続けるポテンシャルを持つ」と自信を見せています。

    価格・プラットフォーム情報

    本作は2026年2月26日に正式リリース予定で、価格は2,464円。現在は20%オフのローンチディスカウントが実施されています。日本語を含む10言語に対応し、Steam Deckでの動作も確認済みです。

    クライミング経験者はもちろん、「登る」という行為の奥深さを体験してみたい方、物理シミュレーションゲームが好きな方にもオススメです。ジムに行けない雨の日に、怪我で休んでいるときに、あるいは高所恐怖症を克服する練習として——『New Heights』は、新たな高みへと挑むすべての人を待っています。


    基本情報

    ゲームタイトル: New Heights: Realistic Climbing and Bouldering
    開発: Wikkl Works
    パブリッシャー: Wikkl Works, WhisperGames
    プラットフォーム: PC (Steam), Steam Deck
    早期アクセス開始日: 2023年7月7日
    正式リリース日: 2026年2月26日
    価格: 2,464円※ローンチ時20%オフ
    対応言語: 日本語、英語、オランダ語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、韓国語、ポルトガル語(ブラジル)、中国語(簡体字・繁体字)
    プレイ人数: シングルプレイ(協力プレイは今後実装予定)
    CERO: 未審査(PC)
    ジャンル: シミュレーション、スポーツ

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  • 植物エイリアンが地を這う恐怖! RTSと基地建設の融合『カリクス』が早期アクセス開始。Dune 2とC&Cのファンが待ち望んだ新時代のストラテジー

    植物エイリアンが地を這う恐怖! RTSと基地建設の融合『カリクス』が早期アクセス開始。Dune 2とC&Cのファンが待ち望んだ新時代のストラテジー

    「植物と戦うRTS? なんだそれ……」

    しかし実際にプレイしてみると、これがとんでもなく奥深い。Studio 568が開発する『Calyx』(カリクス)は、2026年1月29日にSteamで早期アクセスを開始したRTS×基地建設ゲームだ。プレイヤーは宇宙採掘基地の管理者となり、凶暴な植物型エイリアン「カリクス」との生存競争に挑む。

    敵は通常のRTSのようにユニットを生産するのではない。植物のように地を這い、刻一刻と領域を拡大し、あなたの電力網を侵食する。放置すれば、数分でマップ全体が緑の悪夢に覆い尽くされる。

    電力管理こそがすべて! ── 一瞬のミスが基地崩壊を招く緊張感

    『カリクス』最大の特徴は、電力ネットワークの構築と維持だ。

    プレイヤーは採掘基地を運営し、鉱石を掘って資金を稼ぎ、防衛施設や軍事ユニットを建造する。ここまでは一般的なRTSと同じだが、本作にはすべての建物に「電力供給」が必要という致命的なルールがある。

    ソーラーパネルで発電し、電力ポールで基地全体にエネルギーを送る。タレットも壁も、電力が途切れれば瞬時に機能停止する。そしてカリクスは、この電力網を優先的に狙ってくる。

    電力ポールが1本破壊されただけで、防衛ラインの半分が沈黙する。そこから雪崩のようにカリクスの根が押し寄せ、気づけば基地が緑の蔓に飲み込まれている──こんな悪夢が日常茶飯事だ。

    筆者も何度、「あと1分あれば勝てたのに!」と悔しい思いをしたかわからない。電力管理という一見地味な要素が、これほど緊張感と戦略性を生み出すとは思わなかった。

    カリクスは「ボス」であり「地形」でもある ── 前例のない敵デザイン

    本作の敵、カリクスは従来のRTSの常識を覆す存在だ。

    通常のRTSでは、敵は拠点から定期的にユニットを生産し、プレイヤーを攻撃してくる。しかしカリクスは違う。マップ上の複数地点に存在する「幹」から根と蔓を伸ばし、まるで生きた地形のように拡散していく。

    放置すればするほど、カリクスは強力になる。レベルアップした根は防御力が上がり、密集した植生は通常兵器では焼き切れない。あるSteamレビューでは「マップ5でカリクスが基本ユニットを一撃で倒すようになった」との報告もあるほどだ。

    つまり、プレイヤーは経済を回しながらも、常にカリクスの拡大を抑制し続けなければならない。のんびり内政に専念している暇はない。タンクと砲兵を編成し、積極的に前線を押し上げ、幹そのものを破壊しなければ勝利はない。

    筆者も最初は防衛重視で戦っていたが、それでは勝てないことに気づいた。カリクスとの戦いは、攻撃こそが最大の防御なのだ。

    テックツリーが戦局を変える ── ゴーリアス戦車と軌道レーザーの破壊力

    本作には充実した研究システムがある。

    データアーカイブを保護してリサーチポイントを獲得し、テックツリーで新技術をアンロックする。特に重要なのが「インフェルノ火炎放射器」と「ゴーリアス戦車」だ。

    インフェルノは植物に特効を持つ兵器で、カリクスの密集地帯を一気に焼き払える。ゴーリアスは複数の砲塔を持つ巨大戦車で、1台で戦況を変えるほどの火力を誇る。さらにホバー技術を研究すれば、その機動力も飛躍的に向上する。

    そして極めつけが「軌道レーザー」だ。宇宙から放たれる光の柱は、カリクスの広範囲を一掃する。初めて使ったときの爽快感は、言葉では表現できない。

    「They Are Billions」や「Creeper World」と比較されることも多い本作だが、カリクスはより攻撃的なプレイを要求してくる。壁に籠もるだけでは勝てない。テクノロジーを駆使し、戦線を押し上げ、敵の幹を一つずつ破壊していく──このダイナミックな攻防が、本作最大の魅力だ。

    早期アクセスでも充実のボリューム ── キャンペーン16マップ+スカーミッシュ&チャレンジ

    『カリクス』の早期アクセス版は、すでに驚くほど充実している。

    キャンペーンモードにはチュートリアルを含む16マップが用意され、Avaris社の採掘船に乗って惑星に降り立った主人公が、謎のAIとともにカリクスと戦う物語が展開される。マップごとに異なるバイオームや戦略が求められ、飽きることがない。

    スカーミッシュモードでは7つのマップで自由に難易度やシード値を設定してプレイできる。フレンドとシード値を共有し、同じ条件でスコアを競うこともできる。

    チャレンジモードにはさらに9つの特殊マップがあり、制限時間内にクリアを目指す高難度ステージが揃っている。

    Steamレビューでは現在「非常に好評」を獲得しており、90%が肯定的な評価だ。「Dune 2とC&Cを足して植物と戦わせた感じ」という評価も多く、クラシックRTSファンから熱烈な支持を受けている。

    3人のベテラン開発者が贈る、英国発の意欲作

    Studio 568は、ロンドンを拠点とする小規模インディースタジオだ。チームはPhil Clandillon氏、John Duffill氏、Mark Sheehan氏の3名で構成されており、彼らは長年『Calyx』の開発に取り組んできた。

    2023年に設立されたStudio 568にとって、本作はデビュー作となる。しかしその完成度は、新規スタジオとは思えないほど高い。彼らは2025年を通じてプレイテストとアンケートを繰り返し、コミュニティの声を積極的に取り入れてきた。

    公式Discordでは開発陣が直接プレイヤーと対話し、バランス調整やバグ修正を迅速に行っている。早期アクセス開始から2週間で、すでに複数のアップデートが配信されている。

    開発チームは「完成版では、さらに多くのユニット、敵のバリエーション、環境バイオームを追加する」と述べており、今後6〜12ヶ月での正式リリースを目指している。

    マイクロマネジメント必須? それとも戦略重視? ── プレイヤーの意見は分かれる

    本作には賛否両論もある。

    一部のプレイヤーは「ユニットのAIが弱く、手動で標的を指定しないと効率が悪い」と指摘する。特に砲兵ユニットは、放置すると苔ばかり撃って肝心の幹を狙わない。そのため、効率的に戦うにはある程度のマイクロマネジメントが必要だ。

    一方で、「基本ユニット4台だけでクリアできた」というプレイヤーもおり、戦略次第では最小限の兵力でも勝利できる設計になっている。防衛施設を適切に配置し、電力網を保護し、カリクスの拡大ポイントを見極めれば、物量作戦に頼らずとも勝てる。

    この「プレイヤーの腕前と戦略次第で難易度が大きく変わる」点こそ、本作の奥深さだと筆者は感じている。初見では圧倒されるが、システムを理解すれば驚くほどスムーズにプレイできるようになる。その学習曲線が、実に心地よい。

    『カリクス』は、古典的RTSの進化系だ

    「植物と戦うRTS」という一見奇抜な設定だが、その実態は正統派のストラテジーゲームだ。

    電力管理、資源採掘、テックツリー、ユニット編成、前線の押し上げ──これらすべてが絶妙にバランスされ、プレイヤーに常に判断を迫る。カリクスという特異な敵デザインが、従来のRTSにはない緊張感と新鮮さをもたらしている。

    Dune 2やCommand & Conquerを愛したプレイヤーなら、間違いなく楽しめる。They Are BillionsやCreeper Worldのファンにも強く推薦したい。そして何より、「最近のRTSは同じようなものばかり」と感じている人にこそ、この緑の悪夢との戦いを体験してほしい。

    カリクスの根は、あなたの基地を今も侵食しようと這いずり回っている。


    基本情報

    • タイトル: Calyx(カリクス)
    • 開発: Studio 568
    • パブリッシャー: Studio 568
    • 配信日: 2026年1月29日(早期アクセス)
    • 価格: 2,800円
    • 対応プラットフォーム: PC(Steam)
    • 言語: 日本語対応
    • 公式サイト: https://studio568.co.uk
    • 公式Discord: https://discord.gg/EdNejFX8kn

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  • 放置ゲームなのに心臓がバクバク!?『Horripilant』で味わう狂気のダンジョン潜行

    放置ゲームなのに心臓がバクバク!?『Horripilant』で味わう狂気のダンジョン潜行

    「放置ゲームって、のんびり遊べるやつでしょ?」

     PC(Steam)向けゲーム『Horripilant』は、確かに放置ゲームだ。クリッカーであり、オートバトラーであり、リソース管理ゲームでもある。しかし、このゲームは「のんびり」とは程遠い。むしろ、プレイ中ずっと胃がキリキリするような、不穏で禍々しい雰囲気に包まれ続けるのだ。

     開発はカナダ・モントリオールのAlexandre Declos氏率いるPas Game Studio、パブリッシングはBlack Lantern Collective。2026年2月20日の配信開始から、Steamでは同時接続プレイヤー数4,219人のピークを記録し、ユーザーレビューは425件中91%が好評という「非常に好評」ステータスを獲得している。

     一体、この不気味な放置ゲームの何がプレイヤーを惹きつけるのか。筆者も実際にプレイして、その魅力と狂気を体験してきた。

    ドット絵が生み出す、名状しがたい恐怖

     ゲームを起動すると、まず目に飛び込んでくるのが独特のビジュアルスタイルだ。『Horripilant』のグラフィックは、ディザリングと呼ばれる手法で描かれた粗いドット絵。これが、レトロなコンピューターを思わせる不気味な雰囲気を醸し出している。

     プレイヤーは記憶を失った老騎士となって、忘れ去られたダンジョンの最深部で目を覚ます。腐敗の臭いが立ち込める暗闇。壁がプレイヤーの名前をささやく。そこにあるのは、一本の奇妙な木の芽だけだ。

     「叩け」と、声が命じる。

     筆者が最も感銘を受けたのは、このゲームの「見せ方」の巧みさだ。静止画のドット絵でありながら、各エリアに登場するクリーチャーたちは異様な存在感を放つ。壁の穴に潜む不気味な笑顔の存在、蠢く触手、歪んだ人型の何か。それぞれが一度見たら忘れられないデザインで、プレイヤーの脳裏に焼き付く。

     サウンドデザインも秀逸だ。ひび割れた合成音声、金属的な音、遠くから聞こえる呻き声。これらが相まって、B級ホラー映画的な、しかし確実に背筋が凍るような体験を生み出している。

    クリックこそがすべて! 資源管理の中毒性

     『Horripilant』のコアループは、極めてシンプルだ。木、石、鉄の3つの資源を集め、それを使って装備を強化し、ダンジョンに潜る。これを繰り返すだけ。

     しかし、この「繰り返すだけ」が、恐ろしいほど中毒性が高い。

     資源収集は最初、手動クリックで行う。木の芽をクリックすれば木材が、岩をクリックすれば石が手に入る。だが、ここで重要なのが「キラキラ」の存在だ。資源ノードに時折現れるキラキラをクリックすると、なんと通常の500倍の資源が手に入る。この瞬間の快感が、筆者の指を止めさせなかった。

     もちろん、ずっとクリックし続けるわけにはいかない。そこで登場するのが「ヘルパー」システムだ。お金を払ってヘルパーを雇えば、自動で資源を生成してくれる。ただし、ここに落とし穴がある。ストレージ容量を上げないと、すぐに資源が上限に達して生成がストップしてしまうのだ。

     筆者も最初のプレイで、この罠にハマった。「オフラインでも進むんでしょ?」と思って一晩放置したら、朝起きたときには数分で上限に達していて、ほとんど進んでいなかった。クリック値、ヘルパー、ストレージ、素材レベル。この4つをバランスよく上げていくことが、効率的な成長の鍵となる。

    オートバトルなのに、目が離せない戦闘システム

     資源を集めて装備を整えたら、いよいよダンジョン探索だ。戦闘はオートバトラー形式で、プレイヤーキャラクターと敵が自動的に攻撃し合う。装備している剣、兜、胸当て、レギンス、ブーツが、ダメージと耐久力を決定する。

     だが、完全放置というわけではない。戦闘中、敵に「ウィークポイント」が出現することがある。これをクリックすると追加攻撃が発動し、大ダメージを与えられる。さらに、敵の体力バーの下にある白いゲージにも注目が必要だ。これが満タンになると敵が攻撃してくるため、タイミングを見計らってウィークポイントを狙う必要がある。

     フロアのボスを倒すと、「ブーン」と呼ばれる一時的なステータスブーストを選択できる。攻撃力アップ、体力増加、クリティカル率上昇など、さまざまなブーンが用意されており、どれを選ぶかで戦略が変わる。ただし、ブーンは現在のランにのみ有効で、リバース(後述)すると消えてしまう点に注意だ。

     また、「ファミリア」と呼ばれる仲間クリーチャーを戦闘に連れて行くこともできる。ファミリアがいると、受けるダメージが自分とファミリアに均等に分散されるため、実質的に耐久力が2倍になる。筆者も、強敵との戦いではファミリアが生命線となった。

    リバースこそが真髄! ヘマライトで永続強化

     『Horripilant』で最も重要なシステムが、「リバース(転生)」だ。

     プレイを進めていくと、必ずどこかで壁にぶつかる。敵が強すぎて、いくら装備を整えても勝てなくなる瞬間が来る。そのとき、リバースの出番だ。

     リバースを実行すると、現在のランの進行状況はリセットされる。装備も、ブーンも、すべて失う。だが、代わりに「ヘマライト」と呼ばれる特殊な通貨を獲得できる。このヘマライトを使って「リバースツリー」のアップグレードを解放することで、次回以降のランが劇的に楽になるのだ。

     ダメージアップ、体力増加、資源生成量アップなど、ヘマライトで得られる永続強化は多岐にわたる。筆者も最初は「せっかく進んだのにリセット?」と躊躇したが、一度リバースを経験すると、その効果に驚愕した。それまで苦戦していた敵が、嘘のようにサクサク倒せるようになったのだ。

     では、いつリバースすべきか。答えは「効率が落ちたとき」だ。1フロアクリアにかかる時間が明らかに長くなり、敵の体力の伸びが自分のダメージ上昇を上回ったと感じたら、それがリバースのタイミング。粘っても得られるヘマライトは増えないため、さっさとリバースして次のランに挑んだほうが効率的なのだ。

    謎解きとストーリー。語られぬ物語の断片

     『Horripilant』には、明確なストーリーラインは存在しない。しかし、ダンジョンの各所に点在する謎めいた存在や、断片的なテキストから、何かしらの物語が見え隠れする。

     壁の穴に潜む不気味な存在に、なぜかカラスの嘴を渡すとリバースができるようになる。モールス信号で書かれたメモを解読すると、ランプの使い道が分かる。天使の像には、特定のアイテムを捧げる必要がある。

     これらの謎解き要素は、ゲーム進行に必須ではないものの、好奇心をくすぐる絶妙な塩梅で配置されている。筆者も、「この紫色の部屋は何だ?」「7つの光を全部点けると何が起こる?」と、次第にゲームの謎に取り憑かれていった。

     Discordコミュニティでは、プレイヤーたちが謎解きのヒントを共有し合っている。開発者のDeclos氏も積極的にコミュニティと交流しており、アップデートで新たな音声効果や調整が加えられている。この「まだ見ぬ何かがある」という感覚が、プレイヤーを飽きさせない要因の一つだろう。

    オートクリッカー禁止令!? 開発者の遊び心

     放置ゲームといえば、オートクリッカーを使いたくなるのが人情だ。しかし、『Horripilant』には面白い仕掛けがある。オートクリッカーを使うと、ジャンプスケアが発動するのだ。

     海外フォーラムで、あるプレイヤーが「デモ版で雰囲気が気に入って、いつものようにオートクリッカーを起動したら、突然のジャンプスケアで心臓が止まりかけた」と報告している。開発者のDeclos氏はこれに対し、にっこりと返信するのみ。

     この遊び心満載の仕掛けも、『Horripilant』の魅力の一つだ。プレイヤーを驚かせ、笑わせ、そして恐怖させる。すべてが計算されたデザインなのだ。

    1000フロア、そしてその先へ

     『Horripilant』のダンジョンは1000フロア以上続く。筆者も現時点で25フロアまで到達したが、まだまだ先は長い。敵の種類は16種類と決して多くないが、フロアが進むにつれて、敵の配色や挙動が変化し、新たな脅威となって立ちはだかる。

     Steam実績は57個用意されており、やり込み要素も充実している。「一度も攻撃を外さずにボスを倒す」「特定のアイテムを集める」など、チャレンジングな実績が多数存在する。

     また、サポーターパック(別売)を購入すると、ディザリングシェーダーをオフにして、本来の高解像度グラフィックを楽しめる機能や、カスタムポートレート機能が解放される。自分だけの騎士で、ダンジョンに挑めるのだ。

    結論:放置ゲームの皮を被った、中毒性MAXのホラー体験

     『Horripilant』は、放置ゲームとしても、クリッカーとしても、ホラーゲームとしても一級品だ。

     シンプルなゲームループながら、資源管理の戦略性、リバースシステムの爽快感、そして何より、この独特の不穏な雰囲気が、プレイヤーを虜にする。筆者も気が付けば5時間以上プレイしており、「もう一回だけリバースしよう」「次のフロアまで進もう」と、辞め時が分からなくなっていた。

     唯一の欠点は、進行速度の遅さだ。特に序盤は1フロアクリアに数分かかることもあり、「もっとサクサク進みたい」と感じる瞬間もあった。また、敵の種類が16種類と少なめで、長時間プレイすると飽きを感じる可能性もある。

     しかし、それを補って余りあるのが、このゲームの独特な魅力だ。ポッドキャストを聞きながら、音楽を流しながら、あるいはSteam Deckで寝転びながら。『Horripilant』は、どんなプレイスタイルにも対応する懐の深さを持っている。

     定価920円(現在10%オフで828円)という価格も魅力的だ。この価格で、何十時間も遊べる中毒性の高いゲーム体験が手に入る。

     「放置ゲームって、のんびり遊べるやつでしょ?」と思っているあなた。『Horripilant』は、その常識を覆すだろう。禍々しいダンジョンで、あなたも狂気の放置体験を味わってみてはいかがだろうか。


    基本情報

    ゲーム名: Horripilant
    開発: Alexandre Declos, Pas Game Studio
    パブリッシャー: Black Lantern Collective
    プラットフォーム: PC (Steam)
    発売日: 2026年2月20日
    価格: 920円(10%オフで828円、3月7日まで)
    日本語対応: あり
    プレイ時間: 10時間以上(1000フロア到達まで)
    難易度: 中程度
    Steam評価: 非常に好評(425件中91%が好評)


    購入リンク

    Steam:
    https://store.steampowered.com/app/3525970/Horripilant/

    サポーターパック(DLC):
    https://store.steampowered.com/app/4326710/Horripilant__Supporter_Pack/


    公式リンク

    公式サイト(itch.io):
    https://pasgame.itch.io/horripilant

    開発者Twitter/X:
    https://x.com/PasGameStudio

  • 友情を破壊するエイリアン頭脳爆発カードゲーム『Bogos Binted?』──月面で繰り広げられる嘘と策略のパーティーゲーム

    友情を破壊するエイリアン頭脳爆発カードゲーム『Bogos Binted?』──月面で繰り広げられる嘘と策略のパーティーゲーム

    Steamを漁っていたら、またしても奇妙なタイトルに遭遇してしまった。その名も『Bogos Binted?』。何だこのタイトル……と思いながらストアページを開くと、そこには大きな目をしたエイリアンたちが月面のテーブルを囲み、カードゲームに興じている様子が映し出されていた。

    本作は、最大4人で遊べるオンラインマルチプレイヤーのパーティーゲームだ。プレイヤーは月面に降り立ったエイリアンとなり、4種類のユニークなテーブルゲームモードで勝利を目指す。そして最大の特徴は、負けると文字通り「頭が爆発する」という、なんともシュールな設定である。

    嘘つきエイリアンの月面カードバトル

    『Bogos Binted?』には現在4つのゲームモードが収録されている。基本となる「Zogblorp」モードでは、プレイヤーは数字カードと特殊カードからなるデッキを持ち、順番にカードを出して合計値を調整していく。目標数値を超えてしまうと、プレイヤーの頭部に接続されたコンプレッサーが作動し、頭が膨張。複数回の失敗で文字通り頭が爆発し、そのラウンドから脱落となる。

    「Zinky Zoogle」は嘘つきゲームの一種で、各ラウンドでテーブルに選ばれたカードと同じカードを伏せて出していく。ここでプレイヤーは嘘をついてもよい。疑われて嘘がバレれば頭が膨らむが、うまく嘘をつき通せば相手を出し抜ける。ブラフと心理戦が重要な、まさに友情破壊ゲームだ。

    「Beeble Meep」と「Vorp」もそれぞれ独自のルールを持ち、どのモードも一筋縄ではいかない。特に「Vorp」は、ランダムに選ばれた単語を知らない「VORP」役のプレイヤーを見つけ出すゲームで、議論と投票を通じて裏切り者を暴き出す、マフィアゲーム的な要素が楽しめる。

    奇妙な魅力とコミュニティの熱狂

    開発はインディースタジオのunderbadgerが担当。当初はゲームジャムのサイドプロジェクトとして始まった本作だが、2025年7月のアーリーアクセス開始から正式リリースまでの半年で10万本の販売を達成している。Steamでの評価は「非常に好評」(92%)で、プレイヤーからは「友達と遊ぶと最高に面白い」「笑いが止まらない」といったレビューが寄せられている。

    本作の大きな魅力は、そのシンプルながら奥深いゲーム性にある。ルール自体は簡単で誰でもすぐに理解できるが、プレイヤー同士の駆け引きや心理戦が加わることで、毎回異なる展開が生まれる。特殊カードを使ったトリッキーなプレイや、最後の最後で形勢が逆転する瞬間は、プレイヤーを興奮させる。

    一人称視点で描かれるエイリアンたちの表情やリアクションも秀逸だ。互いに睨み合い、身振り手振りで疑いをかけ、時には絶望の表情を浮かべる──このコミュニケーションの妙が、本作を単なるカードゲームから「体験」へと昇華させている。

    気軽に楽しめる価格設定と今後の展開

    現在、本作は642円(税込)で販売中だ。この価格帯で4つのゲームモードを楽しめ、しかもオンラインマルチプレイに対応しているのは非常にコストパフォーマンスが高い。開発チームは今後も新しいテーブルゲームモードやカスタマイズ要素の追加を予定しており、長く遊べる作品になりそうだ。

    週1回のアップデートも精力的に行われており、クイックモードの追加やバランス調整、バグ修正など、コミュニティの声に真摯に耳を傾ける姿勢が見られる。小規模な開発チームながら、プレイヤーとの距離が近いインディーゲームならではの良さが感じられる。


    『Bogos Binted?』は、友人と集まってワイワイ遊ぶのに最適なパーティーゲームだ。真面目なゲームに疲れたとき、気軽に笑いたいとき、あるいは友情を試したいとき(?)──そんな瞬間にぴったりの一本である。月面でエイリアンになって、頭を爆発させながらカードゲームに興じる。なんともシュールだが、それがこのゲームの最大の魅力なのだ。

    基本情報

    • タイトル: Bogos Binted?
    • 開発: underbadger
    • 販売: GameDev.ist, underbadger
    • プラットフォーム: PC(Steam)
    • リリース日: 2026年1月28日(アーリーアクセス: 2025年7月24日)
    • 価格:642円(税込)
    • プレイ人数: 1~4人(オンラインマルチプレイ対応)
    • 日本語対応: あり(12言語対応)
    • Steam評価: 非常に好評(92%、879件のレビュー)

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  • たかがゴルフ、されどゴルフ――『Super Battle Golf』は友情を破壊する最高のパーティーゲームだった

    たかがゴルフ、されどゴルフ――『Super Battle Golf』は友情を破壊する最高のパーティーゲームだった

    「これはゴルフではない」そう思った瞬間、カートに轢かれた

    ゴルフゲームと聞いて、何を想像するだろうか。静かなグリーン、丁寧なパッティング、紳士的なマナー。そんな常識は、『Super Battle Golf』では一切通用しない。なぜなら、このゲームにおいて「ゴルフ」とは、あくまでベースとなるルールに過ぎないからだ。

    筆者が初めてこのゲームをプレイしたとき、まず驚いたのは「打順」という概念が存在しないことだった。通常のゴルフゲームであれば、一人ずつ順番にショットを打ち、スコアを競う。しかし本作は違う。全員が同時にティーショットを放ち、同時にカップを目指して走り出す。そう、「走る」のだ。

    ボールを打った後、プレイヤーキャラクターは全速力でボールを追いかける。その姿はまるでマラソンランナーのようで、優雅さのかけらもない。そして次の瞬間、筆者は仲間の一人が運転するゴルフカートに轢かれた。

    「え、待って、これゴルフだよね?」

    そう呟く間もなく、別のプレイヤーが地雷を設置し、さらに別のプレイヤーが軌道上レーザーを発射した。コース上は完全な戦場と化していた。

    カップインよりも先に、友達を妨害せよ

    『Super Battle Golf』の目的は、誰よりも早くカップインすることだ。打数は関係ない。スコアカードに記録されるのは、到達順位によるポイントのみ。1位になれば最大ポイント、最下位なら0ポイント。極めてシンプルなルールだが、ここに「アイテムシステム」が加わることで、ゲームは一気にカオスへと変貌する。

    コース上には10種類のアイテムが配置されており、プレイヤーはこれらを拾って使用できる。ロケットランチャーでライバルを吹き飛ばし、地雷を設置して進路を妨害し、エレファントガンで複数の敵を同時に攻撃する。さらには、ゴルフカートに乗って他のプレイヤーを轢き殺すことさえ可能だ。

    筆者が特に気に入ったのは「軌道上レーザー」である。マップの反対側にいる敵を、ピンポイントで狙撃できるこのアイテムは、まさにチート級の性能を誇る。ただし、発射までに若干のタイムラグがあるため、動き回る相手には当てにくい。そのため、地雷やエアホーンで相手の動きを止めてから発射する、という連携プレイが有効だった。

    アイテムの使用タイミングは、戦略の核心だ。序盤で使い切ってしまうと、終盤で逆転のチャンスを失う。かといって温存しすぎると、他のプレイヤーに先行を許してしまう。このバランス感覚が、本作の面白さを際立たせている。

    27コース、3バイオーム――多様性が生む戦術の幅

    本作には27のコースが用意されており、それらは3つのバイオームに分かれている。各バイオームには9ホールずつ存在し、それぞれ異なる地形やハザードが設置されている。

    砂場に入ればボールの速度が落ち、水に落ちれば大幅なタイムロスとなる。さらに、植物や岩などの障害物も配置されており、正確なショットが求められる場面も多い。だが、正確性よりも重要なのは「速さ」である。多少コースアウトしても、他のプレイヤーを妨害して遅らせれば、十分に勝機はある。

    開発元のBrimstoneによれば、今後のアップデートで新バイオームが追加される予定だという。さらに、「風」の要素も実装予定とのことで、戦術の幅はさらに広がるだろう。

    ボイスチャットが生む、笑いと叫びの連鎖

    『Super Battle Golf』の魅力を語る上で、ボイスチャット機能は欠かせない。本作には標準でボイスチャットが実装されており、マッチ中の会話がゲーム体験を大きく左右する。

    仲間がゴルフカートで轢かれた瞬間の悲鳴、地雷を踏んだときの絶叫、軌道上レーザーで狙撃されたときの罵声。これらすべてが、ゲームの一部として機能する。特に、仲の良い友人同士でプレイすると、その盛り上がりは尋常ではない。

    筆者が最も印象に残っているのは、ある友人が最終ホールで1位を独走していたときのことだ。あと少しでカップイン、というタイミングで、筆者が設置した地雷を踏んでしまった。その瞬間、ボイスチャット越しに聞こえた絶叫は、今でも脳裏に焼き付いている。

    もちろん、その後しばらく口を利いてもらえなかったが、それもまた『Super Battle Golf』の醍醐味である。

    キャラクターカスタマイズで、個性を主張せよ

    本作には豊富なキャラクターカスタマイズ要素が用意されている。帽子、眼鏡、髪型、表情、ゴルフクラブなど、多種多様なアイテムを組み合わせることで、自分だけのゴルファーを作り上げることができる。

    特にユニークなのは、ゴルフクラブの代わりに「チキンレッグ」や「魚」を装備できる点だ。見た目は完全にふざけているが、性能に差はないため、純粋に個性の表現として楽しめる。

    筆者は、ピンク色の髪に巨大なサングラス、そしてチキンレッグを装備したキャラクターを作成した。見た目のインパクトは抜群で、マッチ中に何度も「そのキャラ、何なの?」と笑われた。

    たった4.5ヶ月で生まれた傑作

    『Super Battle Golf』は、開発期間わずか4.5ヶ月で完成したという。これは驚異的な速さだが、それ以上に驚くべきは、そのクオリティの高さだ。

    開発元のBrimstoneは、ヨーロッパと東南アジアに拠点を置くリモートワーク型のインディーチーム。過去には『Overthrown』などのマルチプレイゲームを手がけてきた実績があり、その経験が本作にも活かされている。

    本作は2026年2月19日にリリースされ、わずか48時間で10万本を売り上げた。1週間後には40万本に到達し、Steamのユーザーレビューでは「圧倒的に好評」(95%好評)を獲得している。この成功を受けて、開発チームはSteam Workshopの実装や、コンソール版のリリースも計画しているという。

    友情を破壊する、最高のパーティーゲーム

    『Super Battle Golf』は、間違いなく2026年序盤のインディーゲーム界における大ヒット作だ。そのシンプルなルール、混沌としたゲームプレイ、そして笑いと叫びが絶えないマルチプレイ体験は、多くのプレイヤーを虜にしている。

    ただし、一つだけ注意がある。このゲームは、確実に友情を破壊する。地雷で仲間を吹き飛ばし、ゴルフカートで轢き殺し、軌道上レーザーで狙撃する。これらすべてが、友人関係に亀裂を生む可能性がある。

    だが、それでも筆者は自信を持って言える。『Super Battle Golf』は、最高のパーティーゲームだと。なぜなら、このゲームで失われる友情よりも、得られる笑いと楽しさの方が、圧倒的に大きいからだ。

    もし、あなたが仲の良い友人グループを持っているなら、ぜひこのゲームをプレイしてほしい。そして、友情が破壊される瞬間を、存分に楽しんでほしい。


    基本情報

    タイトル: Super Battle Golf
    開発元: Brimstone
    パブリッシャー: Oro Interactive
    リリース日: 2026年2月19日
    プラットフォーム: PC (Steam)
    価格: ¥950(通常価格)
    プレイ人数: 1-8人(オンラインマルチプレイ)
    対応言語: 日本語対応
    Steam評価: 圧倒的に好評 (95% / 2,500件以上のレビュー)

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