カテゴリー: アドベンチャー

  • 「映画の宣伝ゲーム」が本気すぎて笑えない。『Starship Troopers: Ultimate Bug War!』は風刺とB級愛に満ちたレトロFPSだ

    「映画の宣伝ゲーム」が本気すぎて笑えない。『Starship Troopers: Ultimate Bug War!』は風刺とB級愛に満ちたレトロFPSだ

    本作はポール・バーホーベン監督の傑作SF映画『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)の世界観を完璧に再現しつつ、映画の持つ風刺性をゲームという形式で新たな次元へと昇華させた傑作レトロFPSなのだ。

    開発はブーマーシューター(90年代風FPS)『Warhammer 40,000: Boltgun』で高い評価を得たイギリスのAuroch Digital。パブリッシャーはDotemuとGame Source Entertainmentが担当している。

    「連邦公認プロパガンダゲーム」という狂気の設定

    本作の最大の特徴は、ゲーム自体が作品世界内に存在する「連邦政府公認のリクルートツール」として設定されている点だ。オープニングでは、映画でおなじみのジョニー・リコ将軍(俳優キャスパー・ヴァン・ディーンが本人役で出演!)が「このゲームはFedDev(連邦開発局)が制作した訓練シミュレーターだ」と語りかけてくる。

    つまりプレイヤーは「『スターシップ・トゥルーパーズ』の世界で暮らす子供が、軍隊入隊を促すためのゲームをプレイしている」という入れ子構造の中に放り込まれるわけだ。この設定がどれほど皮肉に満ちているか、映画を知る人なら理解できるだろう。

    バーホーベン監督の原作映画は、表面的には「虫を倒す痛快アクション」を装いつつ、その実態はファシズムと軍国主義を徹底的に風刺したブラックコメディだった。本作も同じ構造を持ち、プレイすればするほど「これ、本当に子供に遊ばせていいの?」という不穏な空気が漂ってくる。実に見事だ。

    レトロなのに現代的。絶妙なバランスのゲームデザイン

    ゲームジャンルとしては、90年代後半のFPSを彷彿とさせる「ブーマーシューター」スタイル。ドット絵風の粗いテクスチャ、2Dスプライトで描かれる味方兵士、ヘルスパックでの回復、そしてリロードの概念がない強力な火器の数々。『DOOM』や『QUAKE』の時代を知る人間には懐かしく、若い世代には新鮮に映るだろう。

    ただし本作は単なる懐古主義ではない。マップデザインは現代的なオープンエンド構造で、広大なフィールドに散らばった複数の目標を好きな順番で攻略できる自由度がある。これは『Warhammer 40,000: Boltgun』で培われたノウハウが活きている部分だ。

    戦闘システムも秀逸で、通常の銃撃戦に加えて軌道爆撃や核兵器の要請が可能。画面を埋め尽くすバグの大群に対して、容赦なく大量破壊兵器をぶち込む快感は格別だ。「過剰すぎる武力行使? いいや、これは必要な措置だ!」という連邦のロジックを体現したかのようなゲームプレイである。

    主人公は新キャラクター、しかしストーリーは映画の正統続編

    プレイヤーが操作するのは、機動歩兵のサマンサ・”サミー”・ディーツ少佐(演:シャーロッタ・モーリン)。彼女の戦歴を追体験する形で、全8つのミッションが展開される。

    ストーリーは映画『スターシップ・トゥルーパーズ』の後日談として構成されており、クレンダス星での大敗北から復讐の物語へと続いていく。各ミッション間にはFMV(実写映像)のカットシーンが挿入され、サミーの表情や語り口から血に飢えた新兵が、戦場で心に深い傷を負っていく過程が描かれる。

    このFMVパートの演出が素晴らしい。映画でおなじみのプロパガンダ映像風の演出で、連邦の「輝かしい勝利」を謳い上げるのだが、サミー本人の表情は明らかに疲弊しきっている。「本当はこんなに簡単じゃなかったんだろうな」と観客(プレイヤー)が察してしまう作りになっているのだ。

    「バグになって戦う」モードは賛否両論

    本作にはキャンペーンとは別に、アラクニド(バグ)側を操作して人類を殺戮するモードが存在する。これは『エイリアンVSプレデター』シリーズを思わせる試みだが、正直なところ評価は分かれている。

    海外レビューサイトThe JimQuisitionは「バグ側のゲームプレイが未完成に感じられる」と指摘しており、筆者も同意見だ。本来ならワーカー、ホッパー、タンカーといったおなじみのバグたちを操作したかったのだが、実際に用意されているのは「アサシン・バグ」という映画には登場しない独自種のみ。

    操作感も微妙で、機動歩兵側のプレイに比べると明らかに練り込みが甘い。レビュアーたちが「エビみたいなダンゴムシ」と酷評するのも無理はない。このモードに関しては、今後のアップデートでの改善を期待したいところだ。

    開発スタジオAuroch Digitalの底力

    本作を手掛けたAuroch Digitalは、イギリス・ブリストルに拠点を置く約100名規模の開発スタジオ。2010年設立で、元々はボードゲームのデジタル化や戦略ゲームを得意としていたが、2021年にSumo Groupに買収された後、『Warhammer 40,000: Boltgun』で大きな成功を収めた。

    同スタジオの強みは「レトロスタイルの外見と現代的なゲームデザインの融合」にある。単なる懐古主義ではなく、古き良き時代のゲーム体験を現代の文脈で再構築する手腕は見事だ。

    さらに興味深いのは、Auroch Digitalが「リモートワーク中心のスタジオ」として運営されている点。イギリス全土から才能を集め、多様性を重視した採用方針を掲げている。この柔軟な体制が、短期間で質の高いタイトルを連続リリースする原動力になっているのだろう。

    Steam評価94%「Very Positive」の理由

    2026年3月16日にリリースされた本作は、Steam上で811件のレビュー中94%が好評という驚異的な数字を記録している(記事執筆時点)。Metacriticでも各プラットフォームで70点台後半から80点という高評価だ。

    海外メディアの評価を見ると、以下のような点が絶賛されている:

    CGMagazineは9/10点をつけ、「短いが忘れられない体験。ユーモアがレトロシューターの限界を超えている」と評価。Way Too Many Gamesも9/10点で「長年プレイした中で最も称賛に値するライセンスゲーム」と絶賛している。

    一方で批判的な意見も存在する。The Sixth Axisは「プレゼンテーションは素晴らしいが、バグモードの出来が悪く、『Boltgun』と比べてビジュアルが一段劣る」と指摘。筆者も確かにグラフィック面では前作に及ばないと感じた部分はあるが、それを補って余りあるストーリーテリングと風刺性の高さが本作にはある。

    プレイ時間は短め、だが濃密な体験

    キャンペーンのボリュームは8ミッション、プレイ時間にして6~10時間程度とやや短め。しかし各ミッションには隠し要素や複数のエンディングが用意されており、やり込み要素も存在する。

    「もっと長く遊びたい」という声も理解できるが、逆に言えば余分な水増しが一切ない、研ぎ澄まされた体験とも言える。昨今のオープンワールドゲームに見られるような「やることリストの消化作業」とは対極にある、古き良きゲーム体験だ。

    日本語対応は?

    本作は日本語テキストに対応している。ただし音声は英語のみで、字幕での対応となる。映画『スターシップ・トゥルーパーズ』の日本語吹替版に慣れ親しんだ人には少し残念かもしれないが、原作映画のキャスパー・ヴァン・ディーンが本人役で出演している以上、英語音声で楽しむのが正しい姿だろう。

    テキスト翻訳の質も悪くなく、ストーリーを追うのに支障はない。ただし一部の軍事用語や皮肉めいた表現は、英語で楽しんだ方がニュアンスが伝わるかもしれない。

    『Helldivers 2』との比較は避けられないが…

    本作を語る上で避けて通れないのが、2024年に大ヒットしたCo-opシューター『Helldivers 2』の存在だ。同作も『スターシップ・トゥルーパーズ』から強い影響を受けており、「バグを倒す協力シューター」という点では完全に被っている。

    しかし両者は明確に異なるゲーム体験を提供している。『Helldivers 2』がマルチプレイ前提のライブサービス型ゲームなのに対し、本作はシングルプレイに特化した一本道のストーリー体験だ。どちらが優れているという話ではなく、単純に目指している方向性が違う。

    COGconnected誌が「『Helldivers 2』キラーではないが、十分に差別化されている」と評したのは的を射ている。レトロFPSの枠組みで風刺を描くという試みは、本作独自のものだ。

    欠点もある。でも、それでも遊ぶ価値がある

    正直に言えば、本作には改善の余地がある部分も多い。前述のバグモードの未完成感に加え、マルチプレイが存在しないのも残念だ。『スターシップ・トゥルーパーズ』の世界観なら、分隊制のCo-opモードがあれば完璧だっただろう。

    また、AI味方兵士が驚くほど無能で、プレイヤーの射線に平気で飛び込んでくる。これは意図的な演出(「無能な兵士が大量に死ぬ」という原作再現)の可能性もあるが、フレンドリーファイアでチームキルしまくる状況はやや興ざめだ。

    それでも、である。これほど原作への愛と理解に満ちたライセンスゲームは滅多にない。映画公開から約30年を経て、ようやく「真の『スターシップ・トゥルーパーズ』ゲーム」が登場したと言っても過言ではない。

    90年代FPSの手触り、B級SF映画のチープな魅力、そして現代社会への鋭い風刺。これらすべてが絶妙なバランスで配合された本作は、「ゲームでしか表現できない風刺」の一つの到達点だと筆者は考えている。

    基本情報

    開発: Auroch Digital
    販売: Dotemu / Game Source Entertainment
    リリース日: 2026年3月16日
    価格: 2,800円(Steam)
    プラットフォーム: PC(Steam, GOG.com)
    プレイ人数: 1人
    言語: 日本語テキスト対応(音声は英語のみ)
    ジャンル: アクション, FPS, レトロシューター, ブーマーシューター
    Steam評価: Very Positive(811件中94%が好評) <image>

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2321780/Starship_Troopers_Ultimate_Bug_War/
    GOG.com: https://www.gog.com/en/game/starship_troopers_ultimate_bug_war

    公式リンク

    公式サイト: https://www.dotemu.com/games/starship-troopers-ultimate-bug-war/
    X (Twitter): https://x.com/UltimateBugWar
    YouTube: https://www.youtube.com/@Dotemuofficial/featured

  • 言葉の魔法で世界を救う――亡き友への追悼が紡ぐ『Master Lemon: The Quest for Iceland』

    言葉の魔法で世界を救う――亡き友への追悼が紡ぐ『Master Lemon: The Quest for Iceland』

    「ゲームでここまで泣かされるとは思わなかった」――プレイを終えたとき、筆者は画面を前にしばらく座ったままでいた。

    『Master Lemon: The Quest for Iceland』は、多言語話者として生きた一人の青年への、開発者からの愛に満ちた手紙だ。しかしそれは決して過去だけを見つめる作品ではない。言語が持つ力、文化が織りなす多様性、そして人と人とのつながりが、ゲームを通じてプレイヤーの心に確かに刻まれていく。

    実在の友人への追悼から生まれた物語

    本作の主人公・レモンは、ブラジル人開発者Julio(開発スタジオPepita Digitalの代表)の親友だったAndré Lima――通称”Lemon”――をモデルにしている。現実のLemonは複数の言語を操るポリグロット(多言語話者)で、アイスランド語の習得とアイスランドでの生活を夢見ていた。2015年、彼はついにその夢を叶え、アイスランドに移住しオーロラを見ることができた。しかし2016年、交通事故により帰らぬ人となった。

    『Master Lemon』は、そんな友人の情熱と冒険心を永遠に残すために作られた作品だ。ゲーム内で主人公レモンが習得する言葉の数々――アイスランド語、ポルトガル語、マオリ語、その他10以上の言語――はすべて、現実のLemonが愛し、学んだものたちである。

    アイスランドへ向かうはずが、異世界に?

    ゲームは1990年代後半のブラジルから始まる。主人公レモンは長年の夢だったアイスランドへの旅立ちを目前に控え、家族や友人たちに見送られている。しかし飛行機に乗り込もうとしたその瞬間、不思議な霧に包まれ、彼は「バシールの島々」と呼ばれる異世界へと引き込まれてしまう。

    この世界では、記憶を蝕む疫病「闇」が蔓延しており、住人たちは自分たちのアイデンティティや大切な言葉を次々と失いつつある。世界の中心にそびえる「グランドツリー」が枯れかけており、このままでは世界そのものが崩壊してしまう。そんな絶望的な状況の中、レモンは自分が持つ「言語への情熱」という特別な力を使って、バシール族を救い、元の世界に帰る道を探すことになる。

    言葉そのものが”魔法”になるゲームシステム

    本作最大の特徴は、言葉が文字通りの魔法として機能するシステムだ。レモンが習得する言葉の一つひとつに、ゲーム内で実際の効果がある。

    例えば、最初に習得するアイスランド語の「Ratljóst(ラトリョースト)」は「道を照らすのに十分な光」を意味し、ゲーム内では闇を払い、新しいエリアへの道を切り開く力となる。ブラジル・ポルトガル語の「Gambiarra(ガンビアーラ)」は「即興の解決策」を意味し、アイテムを組み合わせてパズルを解くクラフト機能として実装されている。

    言葉を習得するたびに、新しい対話の選択肢が開かれ、隠されたアイテムが見つかり、バシール族のNPCたちが失った記憶を取り戻す手助けができる。言語学習そのものがゲームの進行と密接に結びついている設計は、実にユニークだ。

    バシール族との出会い――文化の多様性

    レモンが旅する島々には、それぞれ異なる文化的背景を持つバシール族のマスターたちが住んでいる。マオリ族をモチーフにしたキャラクター、アラブ文化圏のモチーフを持つキャラクター、北欧神話を思わせる存在――彼らはそれぞれの文化に根ざした言葉と哲学を持っており、レモンはそれらに触れながら世界を理解していく。

    各キャラクターのビジュアルデザインは非常に丁寧で、登場した瞬間にその文化的ルーツが伝わってくる。ピクセルアートでありながらも、衣装や装飾、立ち姿から文化の違いがはっきりと描き分けられているのだ。

    プレイヤーは単にパズルを解くだけでなく、彼らの悩みや喜び、失われた記憶に寄り添いながら、言葉を通じて心を繋いでいく。それは、現実のLemonがさまざまな国の人々と築いた絆そのものの再現でもあるのだろう。

    懐かしさを感じさせるピクセルアートと音楽

    ビジュアル面では、温かみのあるピクセルアート表現が本作の雰囲気を支えている。トップダウン視点で描かれる世界は、往年の『ゼルダの伝説』シリーズを彷彿とさせつつも、現代的なライティングやアニメーションが加わることで、ノスタルジアと新鮮さが同居している。

    各島には独自の色彩とデザインが施されており、探索するたびに新しい発見がある。隠された遺物(全124個)を集めるコレクション要素もあり、隅々まで歩き回る楽しさがある。昼夜のサイクルも存在し、夜になると灯りが灯る街の様子は、どこか郷愁を誘う。

    音楽も素晴らしい。島ごとに異なるアンビエント調のBGMが流れ、静かでありながらも感情を揺さぶる旋律がプレイヤーを包み込む。ナレーションや言葉の発音も丁寧に収録されており、言語学習ゲームとしての側面も妥協がない。

    ストーリーの深さ――運命と選択

    物語が進むにつれ、レモンはゲーム内の友人ルリオ(開発者Julioの分身)との対話を深めていく。二人は夢や未来について語り合い、時には哲学的な問いを投げかけ合う。

    そして終盤、プレイヤーは衝撃的な事実に直面する。ゲームは「運命と選択」というテーマを正面から扱っており、レモンが直面する決断は、プレイヤー自身の人生観を揺さぶるものだ。一部のレビューで「ゲームの終わりが最初から示されているのに、それでも感動する」と評されているのは、まさにこの構造の巧みさゆえだろう。

    複数のエンディングが用意されているが、どのルートを選んでも、このゲームが伝えたいメッセージ――人生は短く、だからこそ夢を追い、大切な人とのつながりを大事にすべきだ――は変わらない。

    Steam評価100%の圧倒的支持

    2025年11月4日にリリースされた本作は、Steam上で100%の高評価(82件のレビュー時点)を獲得している。これは驚異的な数字だ。

    海外メディアからも高い評価を受けており、Game Blastは9/10、Omeleteは4/5、The Escapistは「静かな傑作」と称賛している。Metacriticでも85点を記録し、インディーゲームとしては異例の成功を収めている。

    プレイ時間は4〜5時間程度と短めだが、その中に詰め込まれた情熱と愛情は計り知れない。「短いがゆえに、一つひとつの瞬間が濃密で忘れられない」という声が多く寄せられている。

    日本語対応で誰でも楽しめる

    本作は英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語に加え、日本語にも完全対応している。ただし、一部のレビューでは日本語フォントの表示に中国語フォントが混在する問題が報告されており、開発チームは修正に取り組んでいる。

    操作はキーボードでも可能だが、コントローラーの使用が推奨されている。Steam Deckでも動作確認済みで、携帯モードでゆったりとプレイするのにも適している。

    価格は通常1,476円(Steam)で購入可能だ。Xbox Series X|S、PlayStation 5、Nintendo Switchでも発売されており、各プラットフォームで1,400円〜2,300円程度となっている。

    これは、あなた自身への問いかけでもある

    『Master Lemon: The Quest for Iceland』は、単なるパズルアドベンチャーではない。それは、夢を追うことの尊さ、言語を学ぶことで広がる世界、そして大切な人との絆が人生にどれほどの意味を持つかを、静かに、しかし力強く問いかけてくる作品だ。

    プレイを終えたとき、あなたは自分自身に問うだろう――「自分の夢は何だろう?」「それを叶えるために、どこまで進む覚悟があるだろう?」と。

    レモンの旅は、Andréの旅であり、開発者Julioの旅であり、そしてプレイヤーであるあなた自身の旅でもある。この小さなゲームが心に残した灯火は、きっと消えることはない。

    ゲーム開発者のDraco(劇中のキャラクター)はこう言った――「ゲームとは、コードで書かれた魔法ではないか」と。まさに『Master Lemon』は、そんな魔法のひとつだ。


    基本情報

    開発: Pepita Digital
    販売: Pepita Digital, Mecrew Games, Gixer Entertainment
    リリース日: 2025年11月4日
    価格: 1,480円(Steam)/ 1,400円〜1,980円(各コンソール)
    プラットフォーム: PC(Steam), PlayStation 4/5, Xbox One/Series X|S, Nintendo Switch
    プレイ人数: 1人
    言語: 日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語
    ジャンル: アドベンチャー, パズル, RPG, ナラティブ
    Steam評価: 圧倒的に好評(100% – 82件のレビュー)


    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/3070390/Master_Lemon_The_Quest_for_Iceland/
    Xbox Store: https://www.xbox.com/games/store/Master-Lemon-The-Quest-for-Iceland/9N6T9S4DV3JV
    Nintendo eShop: https://www.nintendo.com/us/store/products/master-lemon-the-quest-for-iceland-switch/


    公式リンク

    公式サイト: https://www.masterlemon.com/
    X (Twitter): https://x.com/masterlemongame
    Discord: https://discord.gg/uSnc7TgM5V

  • 「Minecraftのクローン」? いや、これは悪夢のシミュレーターだ――『Lucid Blocks』が描く、夢と虚無の境界線

    「Minecraftのクローン」? いや、これは悪夢のシミュレーターだ――『Lucid Blocks』が描く、夢と虚無の境界線

    「またMinecraftのパクリゲーか」。そう思った瞬間、筆者は間違っていた。

    2026年3月12日、MITの学生エリック・アルファロ(開発者名:Lucy B. Locks)がSteamにリリースした『Lucid Blocks』は、確かに見た目はボクセルベースのサンドボックスゲームだ。ブロックを積み、敵と戦い、資源を集める――表面的にはMinecraftの文法を踏襲している。

    しかし、プレイ開始から8分後、筆者は気づいた。これは「建設」のゲームではない。これは「彷徨う」ゲームなのだと。

    リリースからわずか2週間で2,000件以上のレビューを集め、94%という驚異的な高評価を獲得した本作は、しかし同時に「理不尽」「不親切」「意味不明」という批判の声も絶えない。万人受けするゲームではない。だが、このゲームが描く「夢のような、悪夢のような」世界には、一度足を踏み入れたら抜け出せない魔力がある。

    目覚めれば、そこは異世界。説明はない。

    『Lucid Blocks』は、チュートリアルを持たない。

    ゲームを起動すると、プレイヤーは突然、薄暗く奇妙な世界に放り出される。目の前には草原や廃墟、プラスチックのような質感の建造物が広がり、遠くには正体不明の生き物がうろついている。何をすればいいのか、どこへ行けばいいのか、自分は何者なのか――すべてが霧の中だ。

    現代のゲームの多くは、開始数分でプレイヤーに剣を持たせ、「あそこの魔王を倒しなさい」と指し示してくれる。しかし本作は違う。プレイヤーに与えられるのは、無限に広がる手続き生成のワールドと、「Apotheosis(アポセオシス)」と呼ばれる謎のクラフトシステムだけ。

    Apotheosisは、従来のレシピベースのクラフトとは一線を画す。プレイヤーは最大6個のアイテムを自由に組み合わせ、その「本質(essence)」に基づいた新しいアイテムを生成できる。レシピは存在しない。同じ素材でも組み合わせ方次第で結果が変わる。これは「推測エンジン」のようなシステムで、プレイヤーは試行錯誤を重ねながら、自分だけの発見を積み重ねていく。

    木の棒と石を組み合わせて斧を作る――そんな定型的な作業ではない。拾ったゴミのようなアイテムを適当に混ぜたら、突然グラップリングフックが出来上がった。蜂に関係するアイテムを集めてみたら、空を飛べるグライダーが完成した。この「何が生まれるかわからない」ワクワク感が、本作の核心だ。

    Minecraftの皮を被った「リミナル・ホラー」

    しかし、この世界はけっして優しくない。

    『Lucid Blocks』が”dreamcore”や”liminal space”と形容される理由は、その独特の不気味さにある。草原、廃墟、倉庫、海底――手続き生成される風景はどこか現実離れしており、まるで誰かの夢の残骸を歩いているような感覚に襲われる。

    そして、敵だ。

    ゲーム内に登場する敵は、従来のサンドボックスゲームのそれとは明らかに異質だ。マネキンのような人形(Manikin)ぬるぬると蠢くゲル状の塊(Squishy Gels)高次元存在を思わせる抽象的なクリーチャー、そして巨大なクモ――彼らはプレイヤーを追い詰め、容赦なく攻撃してくる。

    死んでもアイテムはロストしないが、スタート地点に戻される。ローグライク的な緊張感と、メトロイドヴァニア的な探索が入り混じり、プレイヤーは常に「次は何が待っているのか」という不安とワクワクを抱えながら進む。

    Gaming.netのレビュアーは、こう述べている。「最初の8分間、これはMinecraftへのラブレターだと思っていた。しかし気づいたとき、私はもう戻れない深淵に引き込まれていた」。

    誰もが同じ世界を見ているわけではない

    本作のもうひとつの魅力は、「Qualia(クオリア)」と呼ばれるパーソナル空間だ。

    プレイヤーは特定のアイテム(Rejuvenation Anchor)を使うことで、自分専用の建築空間を作ることができる。ここではプレイヤーは完全に自由に建築を楽しめる。そして、その作品をゲーム内の「Firmament(ファーマメント)」というコミュニティハブにアップロードすれば、他のプレイヤーと共有できる。

    つまり、『Lucid Blocks』はマルチプレイヤーゲームではないが、プレイヤー同士は間接的につながっている。他人の夢を覗き、自分の夢を見せる――そんなコミュニティが、既に活発に動いている。

    MIT学生が、ゴミから生み出した傑作

    開発者のエリック・アルファロは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生だ。本作は元々、ゲームエンジン「Godot」のテストプロジェクトとして始まった。スプライトの多くは、彼の家にあったゴミや100円ショップで買ったアイテムの写真から作られている。

    そんな即興的な出発点から生まれた本作は、リリースわずか2週間で推定42万ドル(約5,800万円)の売上を記録。Steam上で「圧倒的に好評」を獲得し、現在もアップデートが続けられている。アルファロは2026年夏に大型コンテンツアップデート(新バイオーム、新エンティティ、新ボス、新トライアル)を予定しているが、大学の授業が忙しいため、パッチのリリースには遅れが出る可能性があるとコメントしている。

    学生が片手間で作ったとは思えないクオリティと、細部まで作り込まれた世界観。これが、本作が世界中で支持される理由だ。

    このゲームは、あなたを選ぶ

    しかし、ここまで読んで「面白そう!」と思った人に、ひとつだけ警告しておきたい。

    このゲームは、万人向けではない。

    日本のレビューサイト「さるサルゲームぶろぐ」は、こう断言している。「『Lucid Blocks』は、万人に勧められる良作ではありません。むしろ、多くの人にとっては『10ドル払って苦痛を買う』ような体験になる可能性が高いでしょう」。

    低評価レビューの多くは、「ストーリーがない」「目的がわからない」「理不尽すぎる」といった不満を述べている。確かに、本作は親切ではない。プレイヤーに何も教えず、何も示さない。ただ、世界がそこにあるだけだ。

    だが、それこそが本作の本質でもある。

    「ゲームを攻略する」のではなく、「世界に浸る」。効率ではなく「過程」そのものを楽しむ。理解を拒む不条理な世界だからこそ、そこには「自分だけの発見」という至高の宝が眠っている。

    もしあなたが「意味のない放浪」に価値を感じ、理不尽な喪失さえも「夢の一部」として受け入れられる、一握りの選ばれし……高潔な審美眼の持ち主であるならば、これ以上の体験はない。

    不可解、不気味、でも忘れられない

    『Lucid Blocks』は、不可解だ。不気味だ。優しくない。でも、忘れられない。

    Minecraftのような安心感を求めている人には向かない。だが、夢のような、悪夢のような、どこか懐かしく、どこか恐ろしい世界を彷徨いたい人には、これ以上ない体験が待っている。

    筆者は今もこの世界を歩き続けている。何を見つけるかはわからない。でも、それでいい。

    この街は、あなたを見ている。


    基本情報

    開発: Eric Alfaro (Lucy B. Locks)

    販売: Eric Alfaro (Lucy B. Locks)

    リリース日: 2026年3月12日

    価格: 980円(税込)

    プラットフォーム: PC (Steam) / Windows 10以上

    プレイ人数: 1人(シングルプレイヤー)

    言語: 英語のみ

    ジャンル: サンドボックス、サバイバル、ホラー、探索、クラフト Steam評価: 圧倒的に好評(94% – 2,205件のレビュー)

    システム要件:

    • 最小: Windows 10 (64-bit)、Intel Core i3-8130U、8 GB RAM、Intel UHD Graphics 620(Vulkan必須)、1.1 GB ストレージ
    • 重要: Vulkanサポートが必須。Vulkan非対応システムではクラッシュや深刻なグラフィック不具合が発生します

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/3495730/Lucid_Blocks/

  • 料理で怪物を満腹にせよ!英国・アイルランド民話が織りなす異色デッキビルダー『ハングリー・ホラーズ』

    料理で怪物を満腹にせよ!英国・アイルランド民話が織りなす異色デッキビルダー『ハングリー・ホラーズ』

    「デッキビルダーのローグライトって、結局戦って倒すゲームばかりでしょ?」しかし、『ハングリー・ホラーズ(Hungry Horrors)』は違った。このゲームでは、モンスターを倒すのではなく「満腹にする」のだ。

    英国ブライトンを拠点とする2人組インディースタジオClumsy Bear Studioが開発した本作は、戦闘の代わりに料理でモンスターをもてなすという、ジャンルの常識を覆す斬新なアイデアで2026年1月19日にSteam早期アクセスを開始。わずか1ヶ月で168件のレビューのうち98%が好評という圧倒的な支持を獲得している。

    戦わない、料理で生き残る!

    本作の最大の特徴は、デッキビルダーでありながら「戦闘」が存在しないこと。プレイヤーは英国とアイルランドの伝承料理のカードを駆使して、次々と襲いかかる神話上のクリーチャーたちを満腹にし、こちらに到達する前に満足させなければならない。

    ゲームプレイの核となるのは「味の連鎖(Flavour Combo)」システムだ。各料理には甘味、塩味、酸味、苦味、旨味、淡白という6つの味覚タグが付与されており、これらを連続して組み合わせることで強力なコンボが発動する。例えば「青→黄→茶→青」の順で料理を提供すると、初撃が20ダメージでも5撃目には100ダメージまで跳ね上がるのだ。

    さらに、各モンスターには「大好物」と「嫌いな料理」が設定されている。Black Annisはベイクウェル・タルトを愛するが、フィッシュ&チップスは大嫌い。Jenny Greentteeth、Grendel、Dullahan、Glaistigといった伝承のクリーチャーそれぞれに固有の食の好みがあり、彼らの嗜好を理解しながら最適な料理を提供する戦略性が求められる。

    料理カードの種類も豊富で、ハギス、スターゲイジー・パイ、クラナカン、バラ・ブリス、クレンポグなど、実在する英国・アイルランドの伝統料理が40種類以上登場する。ただし、これらは単なる料理カードではなく、スパイスやハーブ、調理器具といった「バフカード」と組み合わせることでさらに効果を強化できるのだ。

    8つのレルムを探索するローグライトの深み

    本作はローグライトとして、永続的な成長要素を実装している。各ランの後、プレイヤーは城のキッチンに戻り、新しいレシピのアンロック、調理器具のアップグレード、特殊な食材の獲得といった要素を通じてデッキを強化できる。失敗しても「運命ポイント(Fate Points)」が蓄積され、次回プレイ時に有利なアイテムや仲間を初期状態で入手可能だ。

    冒険の舞台となるのは8つのバイオーム──Woods(森)、Bog(沼地)、Meadows(草原)、Town(街)など、それぞれ独自のモンスターとイベントが用意されている。各バイオームには複数のルートがあり、扉を選択することで進路が分岐。道中ではNPCとの出会い、クエストの受諾、アイテムショップでの買い物など、多彩なイベントが待ち受ける。

    特筆すべきは、このゲームのストーリー性の高さだ。主人公は気まぐれな王女で、相棒は皮肉屋の猫。王国に広がった「飢餓の呪い」と、その中心で目覚めたドラゴンの謎を解き明かすため、伝説の怪物たちに料理を振る舞いながら冒険を進めていく。各NPCには固有のクエストラインがあり、最新アップデート(Patch 0.1.16)では、Herne、Wulver、Fear Gorta、Ellen Moreといったキャラクターに新たなクエストが追加された。

    さらに、このアップデートでは「ファミリア(Familiars)」システム、釣り、衣装の染色カスタマイズ、Fear Gortaのスパイスショップなど、ゲームプレイの幅を広げる要素が続々と実装されている。

    2人で紡いだ2年間の情熱

    Clumsy Bear Studioは、Scott FitzsimmonsとJerzy Pilchという実生活でもパートナーである2人組が運営する自己資金型インディースタジオだ。Scottがプログラミング、Jerzy がマーケティングとストーリーを担当し、全てのアート、デザイン、コーディングを内製で制作。音楽はHenry Taylorが手がけている。

    開発には2年以上の歳月を費やし、その間に様々な困難に見舞われた。2025年のロンドン・ゲームズ・フェスティバル直前には、滞在先で地震に遭遇して避難を余儀なくされ、さらに新しい作業場所はゴキブリだらけ。そんな過酷な状況の中、Scottは腕を骨折し、6週間以上コーディングができない状態に陥った。それでも彼らは諦めず、2025年7月にはDevelop:Brighton 2025でIndie Showcase Awardを受賞。そして2026年1月19日、ついに早期アクセス版をリリースした。

    開発ツールはGodot EngineとAseprite。すべてのピクセルアートは手作業でドット打ちされており、Apple IIを思わせるレトロな質感と、丁寧に描き込まれたキャラクターアニメーションが魅力だ。モンスターの目がハートになる演出や、各モンスター固有の「王女の死亡アニメーション」など、細部へのこだわりが随所に見られる。

    リラックスして楽しめる「戦わないデッキビルダー」

    開発者のJerzyは、本作のコンセプトについてこう語っている。「私たちは仕事の後にリラックスして遊べるゲームを作りたかった。だからターン制にして、じっくり考える時間を確保した。料理という要素は、軽いクラフト要素を加えつつ、モンスターを倒すだけではない何かを提供したかったから」

    実際、本作のゲームプレイは驚くほど快適だ。バトルは数分で完結し、テンポよく進行する。Steam Deckとの互換性も完璧で、移動中や寝る前のちょっとした時間に気軽に楽しめる。UIも直感的で、色だけでなくシンボルも併用されているため色覚特性を持つプレイヤーにも配慮されている。

    とはいえ、最初の数バイオームこそ優しいものの、徐々に難易度は上昇していく。フレーバーコンボの仕組み、各モンスターの嗜好、バフカードの効果、デッキ構築の最適化──これらすべてを理解しなければ先に進めない。だが、この絶妙な難易度バランスこそが、プレイヤーを「もう一回だけ」と何度もリトライさせる中毒性の源泉なのだ。

    英国・アイルランド民話への深い敬意

    本作のもう一つの魅力は、民話へのリスペクトだ。登場するモンスターは全て実在する伝承に基づいており、ゲーム内の「Book of Taliesin」では各クリーチャーの詳細な背景を読むことができる。Black Annis(子供をさらう魔女)、Jenny Greenteeth(沼に潜む水の精霊)、Grendel(ベオウルフの怪物)、Puca(いたずら好きの妖精)など、ケルト、イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズの伝説が丁寧に織り込まれている。

    料理もまた然り。登場する40種類以上のレシピは全て実在する伝統料理で、ゲームを通じて英国・アイルランドの食文化に触れることができる。開発者たちは「表面的な参考ではなく、民話と料理をゲームプレイの中核に組み込むこと」にこだわり、その結果、他のデッキビルダーにはない独自の世界観を構築することに成功した。

    早期アクセス版の現在、ストーリーはまだ完結していないが、開発チームは「1年以内の正式リリース」を目標に掲げている。ただし、「コミュニティのフィードバック次第では、もう少し時間をかけてでも完璧な1.0を目指す」とのことで、プレイヤーと共にゲームを作り上げていく姿勢を明確にしている。

    『ハングリー・ホラーズ』は、デッキビルダーというジャンルに新しい風を吹き込んだ作品だ。戦闘ではなく料理で、破壊ではなく満足で、相手を倒すのではなく満腹にする──このシンプルながら革新的なアイデアが、驚くほど深いゲームプレイと豊かなストーリーテリングと融合している。

    「モンスターを倒さずに餌付けする」という発想の転換。英国・アイルランド民話への深い愛情。2人の情熱が生んだ手作りのピクセルアート。そして、何よりプレイヤーを思いやる優しい設計思想──これらすべてが組み合わさったとき、『ハングリー・ホラーズ』は単なるゲームを超えた「体験」となる。

    あなたも、伝説の怪物たちに最高の料理でおもてなしをしてみてはいかがだろうか。ただし、料理が口に合わなければ、次の食事はあなた自身になることをお忘れなく。

    基本情報

    開発: Clumsy Bear Studio (Scott Fitzsimmons、Jerzy Pilch)
    販売: Clumsy Bear Studio
    リリース日: 2026年1月19日(早期アクセス)
    価格: 1,520円(通常価格)※発売から2週間は30%オフ
    プラットフォーム: PC (Windows, Mac, Linux), Steam Deck対応
    プレイ人数: 1人
    言語: 英語(日本語未対応)
    ジャンル: ローグライト、デッキビルダー、カードゲーム、ストラテジー、料理
    Steam評価: 圧倒的に好評 (98% – 168件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/3048840/Hungry_Horrors/
    Steam Demo: https://store.steampowered.com/app/3530560/Hungry_Horrors_Demo/
    itch.io: https://clumsy-bear-studio.itch.io/hungry-horrors

    公式リンク

    公式サイト: https://hungryhorrorsgame.com/
    X (Twitter): https://x.com/clumsybeargames
    Discord: Clumsy Bear Studio Discord
    YouTube: @clumsybearstudio

  • 美しくも過酷な宇宙の方舟で、小さなロボットが紡ぐ壮大な物語─『MIO: Memories in Orbit』

    美しくも過酷な宇宙の方舟で、小さなロボットが紡ぐ壮大な物語─『MIO: Memories in Orbit』

    「また、よくあるHollow Knightのフォロワーか」 正直に白状しよう。フランスのDouze Dixièmesが放った本作のトレイラーを見たとき、僕はそう思って斜に構えていた。だが、朽ちゆく宇宙船「Vessel」に足を踏み入れて数時間、僕は自分の浅はかさを呪うことになった。

    2026年1月20日にリリースされ、またたく間にSteamで85%の高評価を叩き出した『MIO』。これは単なる模倣作ではない。圧倒的な「テクノ・マジック」のアートスタイルと、プレイヤーの甘えを一切許さない骨太な設計が融合した、新たな時代の傑作だった。

    崩壊寸前の宇宙船「Vessel」という舞台

    物語の舞台は「Vessel(ヴェッセル)」と呼ばれる巨大な宇宙船。かつては何千もの生命を運ぶ方舟として機能していたこの船は、今や制御不能の植物と暴走した機械に覆われた廃墟と化している。

    プレイヤーが操作するのは、MIOという名の小さなアンドロイド。記憶を失った彼女が目覚めたとき、Vesselは完全なシャットダウンまで残りわずかという状態だった。船を管理していた5つのAI「Pearl(パール)」──The Eye、The Spine、The Blood、The Hand、The Breath──は機能を停止し、船の住人たちは絶望に沈んでいる。

    MIOの使命は明確だ。5つのPearlを再起動させ、Vesselに何が起きたのかを解明し、船と残された住人たちを救うこと。だが、その道のりは想像を絶するほど過酷なものとなる。

    「テクノ・マジック」が生み出す圧倒的な世界観

    本作を語る上で避けて通れないのが、その圧倒的なビジュアルだ。開発チームは自らのアートスタイルを「テクノ・マジック」と呼んでいる。SF的な宇宙船という設定でありながら、そこには魔法のような幻想性が息づいている。

    氷に閉ざされた都市エリア、紫色の植物が生い茂るジャングル、アズールブルーに輝く機械の庭園──各エリアは水彩画のような柔らかなタッチで描かれており、まるで絵本の中を冒険しているかのような感覚を覚える。コミック、絵画、そして日本のアニメーション(特に宮崎駿作品)からインスピレーションを受けたというビジュアルは、フレーム単位で美しく、スクリーンショットを撮る手が止まらなくなるほどだ。

    開発チームの共同創設者であるSarah Hourcade氏は、「最初はSFの世界を作りたかったのですが、制約から解放されるうちに、こうした形になりました」と語っている。手描きのような温かみと、機械的な冷たさが共存するこのアートスタイルこそが、『MIO』最大の武器のひとつだろう。

    サウンドトラックが紡ぐ孤独と希望

    ビジュアルと並んで特筆すべきなのが、独創的なサウンドトラックだ。Lo-fiビート、アンビエント、そして聖歌隊のコーラスが絶妙にブレンドされた楽曲は、Vesselという朽ちゆく世界の孤独感と、それでもなお灯り続ける希望の光を見事に表現している。

    静かなエリアでは心を落ち着かせるような優しいメロディが流れ、ボス戦では緊張感を煽る重厚な音楽へと切り替わる。特に印象的なのは、コーラスパートだ。人の声が持つ感情の豊かさが、ロボットたちの世界に人間味を与えている。

    音楽を手がけたチームは、「船に残された記憶と感情を音で表現したかった」と述べており、その意図は見事に実現されている。プレイ中、筆者は何度もその場に立ち止まり、ただ音楽に耳を傾けた。

    移動と探索の喜びを追求したゲームデザイン

    『MIO』の開発チームが最初に決めたのは、「高速フックショットで画面を一瞬で横切る」という移動システムだった。実際、このゲームの移動システムは極めて気持ちいい。

    MIOは最初からダブルジャンプが使える。これは多くのメトロイドヴァニアでは終盤に解放される能力だが、本作では序盤から与えられる。さらにゲームを進めると、壁登り、グライディング、フックショット、そしてスパイダーのような壁張り付きなど、多彩な移動手段を獲得していく。

    これらの能力を組み合わせることで、Vesselの複雑に入り組んだ構造を縦横無尽に駆け巡ることができる。空中でのダッシュ、壁を蹴ってのジャンプ、フックショットでの急加速──一度慣れると、まるでパルクールのように優雅に移動できるようになる。

    探索においても、本作は独自の哲学を持っている。ゲーム序盤、プレイヤーはマップを持たない。特定のNPCに会うことで初めてマップ機能が解放されるのだが、それまでは自分の記憶と環境認識だけを頼りに進まなければならない。

    開発チームのOscar Blumberg氏は「プレイヤーに探索し、テストし、迷いながらも道を見つけてほしかった」と語る。実際、筆者は最初の数時間、何度も同じ場所をぐるぐる回った。だが、それが苦痛ではなかったのは、環境デザインが非常に優れていたからだ。

    各エリアには明確な視覚的特徴があり、ランドマークとなる建造物や独特の色彩によって、自然と頭の中に地図が形成されていく。そして、マップを手に入れた瞬間の「ああ、ここはこう繋がっていたのか!」という発見の喜びは格別だった。

    プレイヤーを試す、妥協なき難易度設計

    『MIO: Memories in Orbit』は、はっきり言って難しい。Game Informerのレビュアーは「母親の前では言えないような言葉で表現される難易度」と評したほどだ。

    本作の難易度を特徴づけるのは、以下の要素だ:

    長いリスポーン距離:セーブポイント(Overseer)は少なく、死ぬと遠くから再スタートとなる。序盤は特にセーブポイントが1つしかないため、ボスに辿り着くまでの道のりを何度も繰り返すことになる。

    体力の段階的減少:最も物議を醸しているのがこのシステムだ。ストーリーの進行に伴い、「Heart’s Tremor(心臓の震え)」というイベントが発生し、MIOの最大HPが永久に1つ減少する。苦労して手に入れた体力アップグレードが、物語の都合で奪われるのだ。

    厳しい通貨システム:敵を倒すと「Nacre(真珠層)」という通貨を得られるが、死ぬとすべて失う。他のゲームのように死亡地点で回収できるわけではなく、完全に消失する。ただし、マップ上の特定の機械で「結晶化」することで保護できる。

    こうした要素は、確かに人を選ぶ。実際、Steamのレビューでは「QoL(Quality of Life)アップデートが必要」という声も見られる。

    しかし、筆者はこの難易度設計に意図を感じた。本作は「パワーファンタジー」ではない。MIOは最後まで小さく、脆く、か弱いままだ。プレイヤーは強くなるのではなく、上手くなる。それこそが本作の目指したものなのだろう。

    Steamの高評価レビューでは、「この難易度に文句を言う人は期待値を間違えている。これは万人向けのゲームではない。開発者のビジョンを信じてほしい」という意見も多く見られた。

    実際、本作にはアクセシビリティオプションも用意されている。「Eroded Bosses(侵食されたボス)」を有効にすると、死ぬたびにボスのHPが少しずつ減少する。「Pacifist(平和主義者)」モードでは、プレイヤーが攻撃するまで敵が襲ってこない。「Ground Healing(地面治癒)」では、5秒間地面に触れ続けると少しずつ回復する。

    これらのオプションを使うことに恥じる必要はない。筆者も最終ボスで「Eroded Bosses」のお世話になった。大事なのは、自分が楽しめる形でゲームをプレイすることだ。

    コンバットは簡潔、だがボス戦は熱い

    戦闘システムは比較的シンプルだ。MIOは3連続攻撃のコンボ、ダッシュ攻撃、そして回避を持っている。これにフックショットを組み合わせることで、空中を飛び回りながら敵を攻撃する立体的な戦闘が展開される。

    正直なところ、雑魚敵との戦闘は単調になりがちだ。攻撃パターンが少なく、繰り返しプレイすると作業感が出てくる。だが、ボス戦は別格だ。

    各ボスは独自の攻撃パターンと戦闘エリアを持ち、MIOの移動能力をフル活用することが求められる。ドリルで地面を掘り進む巨大モグラ、レーザーガンを振り回す機械人形、空中を飛び回る巨大な蝿──どのボスも視覚的に印象的で、倒したときの達成感は格別だ。

    筆者が特に感銘を受けたのは、ボスの攻撃が「覚えゲー」として成立している点だ。何度も挑戦することで攻撃パターンを学び、回避のタイミングを体で覚え、ついに倒したときの爽快感。これこそが『Dark Souls』系譜のゲームが提供する喜びであり、本作はそれをメトロイドヴァニアの文脈で見事に再現している。

    アップグレードシステム「Modifier」の奥深さ

    本作のキャラクタービルドは「Modifier(モディファイア)」と呼ばれるシステムで管理される。これは一種のパッシブスキルで、装備することでMIOの性能を変化させる。

    例えば:

    • 「Hand’s Greed(手の貪欲)」:すべてのダメージがクリティカルになるが、クリティカル威力が60%減少
    • 「Flowing Striders(流れる歩行者)」:追加の体力を得る代わりに、コンボ攻撃力が低下
    • その他、ドロップ率上昇、スタミナ回復速度向上など多数

    Modifierは敵からのドロップや、Vesselの各所に隠されたコアを集めることで入手できる。装備スロットには限りがあるため、どのModifierを選ぶかがプレイスタイルを大きく左右する。

    しかし一部のレビューでは、「実験する余地が少なく、早い段階で最適解を見つけてしまう」という指摘もある。確かに、Modifierの種類はもう少し多くてもよかったかもしれない。それでも、自分だけのビルドを考える楽しみは確かに存在する。

    隠された秘密とトゥルーエンディング

    『MIO』は一周12〜14時間でクリアできる──と開発チームは述べていた。だが、それは最初のエンディングまでの話だ。

    本作には複数のエンディングがあり、「トゥルーエンディング」に到達するには、Vesselの隅々まで探索し、隠された秘密エリアを見つけ出す必要がある。

    Game Fileのレビュアーは、「12〜14時間でクリアできると聞いて笑った。なぜなら自分は既に15〜20時間プレイしていたし、まだ終わりが見えなかったからだ。結局、最初のエンディングまで30時間、トゥルーエンディングまで44時間かかった」と語っている。

    彼のテキストには、本作の探索の魅力が凝縮されている:

    「困難なプラットフォームエリアを抜けると、精巧な秘密エリアを見つけた。そのエリアはさらに別のクールなエリアにつながっていて、そのエリアはまた別の興味深い場所に続いていた。まるでポケットから次々と20ドル札が出てくるような感覚だ」

    本作のマップの約35%は完全にオプショナルだという。ストーリーのクリアには不要だが、そこには追加のロア(世界観設定)、強力なアイテム、そして印象的なボス戦が待っている。

    筆者はまだトゥルーエンディングには到達していないが、探索の手を止めるつもりはない。次の部屋の向こうに何があるのか──その好奇心が、プレイを続ける原動力になっている。

    フランスのインディーシーンから生まれた傑作

    Douze Dixièmesは、パリ郊外に拠点を置く小さなインディースタジオだ。彼らの前作『Shady Part of Me』は、光と影をテーマにしたパズルゲームとして批評家から高評価を受けたが、商業的には大きな成功とは言えなかった。

    「同じパズルゲームを4年間作り続けるのは疲れる」とSarah Hourcade氏は語る。チームは新しい挑戦を求め、メトロイドヴァニアというジャンルに挑戦することを決めた。

    しかし、彼らは既存のゲームエンジンを使うのではなく、独自のゲームエンジンを一から構築するという大胆な選択をした。『Shady Part of Me』で使用したエンジンのコードの80%以上を破棄し、『MIO』のために最適化された新しいエンジンを作り上げたのだ。

    「チームに2人、ゲームエンジンを作りたい開発者がいたので、作りました」とHourcade氏は軽く言うが、その裏には膨大な労力があったはずだ。

    開発において最も困難だったのは戦闘システムだったという。「プレイヤーに感じてほしい感覚にフィットするシステムとデザインを見つけるのに、非常に苦労しました」とチームは振り返る。

    だが、その努力は報われた。リリース直後から高評価を獲得し、Polygonは「メトロイドヴァニアの技術を完璧に習得している」、GAMINGbibleは「2026年最初の大型作品かもしれない」、Destructoidは「絶対的な驚異」と10点満点中9点を付けた。

    フランスのインディーゲームシーンは近年、『Prince of Persia: The Lost Crown』、『Clair Obscur: Expedition 33』など、国際的に高い評価を受ける作品を次々と生み出している。『MIO: Memories in Orbit』も、その系譜に連なる傑作と言えるだろう。

    誰に勧めるべきか?

    正直に言おう。『MIO: Memories in Orbit』は万人向けのゲームではない。

    高難易度を求めるプレイヤー、探索に何十時間も費やすことを厭わない人、美しいビジュアルとアートに価値を見出す人──そういったプレイヤーには心からオススメできる。

    一方で、気軽に遊べるメトロイドヴァニアを求めている人、難易度の高いゲームが苦手な人、長いリスポーン距離にストレスを感じる人には、正直なところ勧めにくい。

    Game Informerのレビュアーは、「多くの素晴らしいゲームでは、私は屋上から叫んでできるだけ多くの人にプレイしてほしいと思う。『MIO』も心から楽しんだが、経験豊富なプレイヤー以外には推奨を躊躇する」と述べている。

    だが同時に、「もしそういうものが心をときめかせるなら、『MIO』は絶対にプレイすべきリストの上位に来るべきだ」とも語っている。

    筆者も同感だ。このゲームは挑戦的で、時に不公平にすら感じられるかもしれない。だが、その先にある達成感、発見の喜び、そして美しい物語は、努力に見合う価値がある。

    2026年、インディーゲームシーンは幕開けから熱い。そして『MIO: Memories in Orbit』は、間違いなくその筆頭に立つ作品のひとつだ。

    もしあなたが、小さなロボットとともに朽ちゆく宇宙船の謎を解き明かす覚悟があるなら──Vesselは、あなたを待っている。


    基本情報

    開発: Douze Dixièmes
    販売: Focus Entertainment
    リリース日: 2026年1月20日
    価格2,300円(通常価格)※セール時は20%オフで1,840円
    プラットフォーム: PC (Steam)、PlayStation 5、Xbox Series X/S、Nintendo Switch、Nintendo Switch 2
    プレイ人数: 1人
    言語: 日本語、英語、フランス語、その他14言語に対応
    ジャンル: メトロイドヴァニア、アクションアドベンチャー、プラットフォーマー
    Steam評価: 非常に好評(85% – 1,093件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/1672810/MIO_Memories_in_Orbit/

    公式リンク

    公式サイト: https://community.focus-entmt.com/focus-entertainment/mio-memories-in-orbit?utm_source=Steam&amp;utm_medium=StorePage_MIO&amp;utm_campaign=Organic
    X (Twitter): https://x.com/Focus_Entmt
    Discord: https://discord.gg/focusentmt

  • パリングこそが生命線! 手描きの幻想世界で魅せる、緊張と爽快が同居する『ソラテリア』

    パリングこそが生命線! 手描きの幻想世界で魅せる、緊張と爽快が同居する『ソラテリア』

    「パリング特化のメトロイドヴァニアって、正直しんどくない?」 白状すると、遊ぶ前の自分はそう思ってた。『Hollow Knight』のボス戦で指がつるほど死にまくった記憶がフラッシュバックして、「またあのヒリヒリする修行が始まるのか……」と、ちょっと腰が引けた。

    でも、韓国の精鋭スタジオStudio Doodalが放った『ソラテリア』は、僕のそんな偏見を鮮やかに弾き返してくれた。0.15秒の火花に命を懸ける、ひりつくような緊張感と、ため息が出るほど美しい手描きアート。2026年のインディーゲーム界に現れた、最高に尖った新星を語らせてほしい。

    パリングか死か――0.15秒の決断

    本作の戦闘は徹底的にパリングに特化している。敵の攻撃をジャストタイミングで弾き返す瞬間、画面が青く爆発し、スローモーションが発動。その一瞬で繰り出されるカウンター攻撃が、敵のHPを大きく削り取る。この爽快感は、まさに『Sekiro: Shadows Die Twice』の狼が降臨したかのような感覚だ。

    しかし、本作のパリング判定は極めてシビア。約0.12〜0.15秒という瞬き以下の時間枠で成功させなければならない。Steam レビューでも「パリングウィンドウが狭すぎる」という声が散見されるが、これこそが本作の核心だ。敵の攻撃モーションは99%が予備動作で、実際の攻撃は一瞬。つまり、反射神経ではなくパターン記憶が求められる。

    さらに厄介なのが、主人公トットがパリングできるのは一方向のみという制約。多くのボスは体当たりや突進で主人公をすり抜け、背後から攻撃を仕掛けてくる。「今パリングしたのに!」と叫びたくなる瞬間が何度も訪れるが、これも計算されたゲームデザインだ。位置取り、タイミング、敵の行動パターン――すべてを読み切って初めて、真のパリング戦士となれる。

    4段階の難易度設定が救世主

    幸いなことに、本作には4段階の難易度が用意されている。最も簡単な難易度では、通常のガード(パリング失敗)でもある程度のダメージ軽減が可能になり、ストーリーを追いたいプレイヤーにも門戸が開かれている。

    実際、海外レビュアーの中には「通常難易度でボス戦がきつくなり、最終的にはイージーモードに切り替えた」と告白する者もいた。恥じることではない。本作の真髄はストーリーと探索にもあるのだから。

    逆に、難易度最高設定では文字通りの死にゲーと化す。Steam実績統計によれば、本作を100%クリアしたプレイヤーはわずか0.1%。「Five Warriors(五戦士)」ボス戦で難易度を下げざるを得なかったという証言も複数見られる。

    40通りのパーツで紡ぐ、自分だけの戦士

    本作の戦闘カスタマイズは驚くほど奥深い。コアストーンをインフレア(本作のスキルポイント)で強化し、40種類以上のパーツを組み合わせることで、プレイスタイルを自在に変化させられる。

    パーツはHollow Knightの「チャーム」に相当するシステムで、特定の組み合わせで強力なシナジーを生み出す。近接特化、遠距離攻撃重視、回復特化、クリティカルビルドなど、可能性は無限大だ。

    さらに、料理、精製、クラフトといった複数の強化システムも存在。敵が落とすOHN(ゲーム内通貨)は潤沢で、グラインドの必要性はほぼゼロ。セーブポイント(祭壇)でいつでもスキルポイントの再配分が可能なため、ボス戦ごとにビルドを変更する戦略的なプレイも楽しめる。

    手描きの世界が語る、崩壊と希望の物語

    かつて太陽の祝福を受けて繁栄した「ソラテリア」の地。しかし影の疫病が世界を蝕み、守護者である原初の炎(王)さえも姿を消した。記憶を失った小さな炎の戦士・トットとして目覚めたプレイヤーは、消えた王を見つけ、世界を救う旅に出る。

    本作の手描きアートは圧巻だ。Studio Doodalの前作『LAPIN』で93%の高評価を獲得したアートチームが、さらに技術を研ぎ澄ませた。Unity URPとポストプロセッシングを駆使し、各バイオームに独自の質感と雰囲気を与えている。背景の汚れや陰影を個別アセット化し、再構成することで、手描き特有の密度を保ちつつパフォーマンスを最適化したという。

    探索すればするほど、NPCとの会話や記憶の断片から世界の真実が明らかになっていく。サイドクエストをこなすことで、感染したボスたちの悲しい背景や、リットたち(本作の住人種族)の隠された物語に触れられる。儚げで可愛らしいキャラクターデザインと、陰鬱な世界観のコントラストが、プレイヤーの心に深く刻まれる。

    批判も正直に――改善の余地はある

    本作は決して完璧ではない。Steam レビューには以下のような批判も寄せられている:

    • パリング方向が一方向のみで、敵の位置取りによっては理不尽な被弾が発生
    • バリア持ち敵の仕様が未調整で、チャージアタックのメカニクスが破綻している
    • プラットフォーミングの難易度がボス戦より高いという声も
    • ごく稀に、ワールドに落下してリスタートを強いられるバグが報告されている

    しかし、開発チームは非常に誠実だ。Steam コミュニティハブでは、プレイヤーからのフィードバックに丁寧に応答し、パッチv1.0.22では複数のバグ修正と調整が行われた。今後のアップデートで、さらなるブラッシュアップが期待できる。

    Studio Doodalという希望

    開発元のStudio Doodalは、韓国の6人の大学生が2019年に『LAPIN』の開発を目標に集まったことから始まった。2023年に法人化し、前作『LAPIN』でSteam評価94%「非常に好評」、Unity Korea Award グラフィック賞、GIGDC大賞を受賞。わずか数年で、世界に通用するインディースタジオへと成長した。

    共同CEOのMinjeong KimとGyuwon Leeは語る。「大学時代に結成したチームで、『LAPIN』開発中に『自分たちのチームが最も得意とするアート』は何かを考え抜いた。当時、アートチームの独自の手描きイラストスタイルが、自然とゲームの特徴になっていった」

    その美学を『ソラテリア』でさらに進化させ、より美しく多様な世界を描き出した。技術面でも妥協せず、手描きアートの質感とゲームパフォーマンスの両立に成功した彼らの姿勢には、深い敬意を覚える。

    パリングの向こう側へ

    『ソラテリア』は、パリングというたった一つのメカニクスを極限まで突き詰めた作品だ。その選択は賛否を呼ぶだろう。しかし、その先にあるのは、他では味わえない緊張感と達成感、そして美しい手描きの世界に没入する至福の時間だ。

    『Hollow Knight』のファンなら、懐かしさと新鮮さを同時に感じるはず。『Sekiro』でパリングの快楽に目覚めた者なら、新たな挑戦の場がここにある。そして『Nine Sols』や『MIO: Memories In Orbit』で物足りなさを感じたプレイヤーにも、本作は新たな選択肢となるだろう。

    Steam評価73%「やや好評」という数字は、本作の尖った性質を物語っている。万人受けはしないかもしれない。しかし、その尖った部分こそが、『ソラテリア』を唯一無二の体験にしているのだ。

    パリングの瞬間、世界が止まる。青い光が爆ぜる。カウンターが炸裂する。

    その一瞬に、すべてがある。


    基本情報

    開発: Studio Doodal
    販売: SHINSEGAE INFORMATION and COMMUNICATION Inc.
    リリース日: 2026年3月12日
    価格: 2,300円(通常価格)/ 2,070円(10%オフ・期間限定)
    プラットフォーム: PC(Steam)、Nintendo Switch(近日発売予定)
    プレイ人数: 1人
    言語: 日本語、英語、韓国語、中国語(簡体字・繁体字)、ドイツ語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語の9言語対応
    ジャンル: アクション、メトロイドヴァニア、ソウルライク、2Dプラットフォーマー
    Steam評価: やや好評(73% – 114件のレビュー)※2026年3月16日時点

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2947280/_/

    公式リンク

    X (Twitter): https://x.com/SolateriaGame
    Discord: https://discord.gg/xkWM3mDPdQ
    開発元公式サイト: http://studiodoodal.com/

  • 「打てば死ぬ」の絶望。タイピングが凶器に変わるメタホラー『Dyping Escape』

    「打てば死ぬ」の絶望。タイピングが凶器に変わるメタホラー『Dyping Escape』

    画面に現れた不気味な目玉に促されるまま「Please kill me(私を殺してください)」と打ち込んだ瞬間、ゲームオーバー。打った言葉が現実になる。この恐怖を、あなたは想像できるだろうか。

    無料ゲーム投稿サイト「unityroom」で50万回以上プレイされた『DYPING』が、大幅にパワーアップしてSteamに登場。開発元はHeaviside Creations、パブリッシャーはPLAYISMが担当してい

    る。2026年3月13日にリリースされたばかりのこの作品は、Steam評価92%(108件のレビュー中)という高評価を獲得している。

    「打てば現実になる」恐怖のタイピングシステム

    本作の核心は、プレイヤーが打ったテキストがそのままゲーム内の現実として襲いかかってくるという、極めてメタ的なホラーメカニクスにある。

    ゲームマスターを名乗る不気味な目玉の指示に従い、プレイヤーは画面に表示される文章をそのまま打ち込んでいく。最初は「言われた通りにキーを打てばいいですからね。頭を使う必要はまったくありません」という親切な(?)言葉に導かれ、単純なタイピング練習かと思いきや、やがて不穏な契約書への署名を強要される。

    そして恐怖の本番が始まる。「Please kill me」と打てば即死。「I offer you my left eye(私の左目を捧げます)」と打てば……何が起こるかは想像に難くない。打たなければ先に進めない。しかし打てば破滅が待っている。この理不尽な絶望こそが『Dyping Escape』の真骨頂だ。

    メタ的恐怖が第四の壁を破壊する

    本作が秀逸なのは、単なるテキストベースホラーに留まらず、プレイヤーのPC環境そのものをゲームの一部として取り込む点にある。

    ゲーム内では、あなたのPC環境から取得した情報が表示されることがある。システム時刻を変更しなければ進めない謎解き、PCのファイルシステムを操作させられる悪夢、そして自分のコンピュータが徐々に壊れていくかのような演出。ゲームと現実の境界が曖昧になり、「本当に自分のPCは大丈夫なのか?」という不安が頭をよぎる。

    このため、配信者向けには「ストリーマーモード」が用意されており、個人情報の表示を防ぐ配慮がなされている。逆に言えば、それほどまでにゲームは現実に介入してくるということだ。

    実際、Steamコミュニティでは「システム時刻変更後、ゲームを再起動しないと認識されない」といった技術的な壁に阻まれるプレイヤーも。ゲームは容赦なく、プレイヤーに「ゲームの外」での行動を要求する。BioShockの「Would you kindly?」を彷彿とさせる、指示に従う行為そのものへの問いかけがここにはある。

    猫との協力で脱出を目指せ

    絶望的な状況の中、唯一の希望となるのが、古代のゲームから目覚めた謎の猫だ。この猫はプレイヤーの味方となり、目玉の悪意に対抗する手段を教えてくれる。

    ゲームは全3章構成で、各章ごとに異なるエンディングが用意されている。プレイヤーの選択や行動次第でストーリーが分岐し、タイピングゲームのスコアシステムまで搭載。Sランクを目指すやり込み要素もある。

    さらに、ローグライク要素として「フラグメント」と呼ばれるカードシステムが存在する。これは文字や単語を改変できるアイテムで、目玉が課す理不尽な死を回避するための切り札となる。プレイごとに異なるフラグメントが手に入るため、毎回新しい戦略を考える楽しみがある。

    レトロなビジュアルと不穏なサウンド

    本作のビジュアルは手描きのピクセルアート。2Dのドット絵で描かれたキャラクターやUI要素は、一見するとカジュアルな印象を与えるが、その裏に潜む狂気が徐々に滲み出てくる。

    サイケデリックな色使いと不協和音が混ざり合ったBGMは、プレイヤーの精神を徐々に削っていく。ジャンプスケアや流血表現に頼らない、じわじわと迫りくる心理的恐怖が本作の持ち味だ。

    開発者Heaviside Creationsの情熱

    開発を手がけたHeaviside Creationsは、日本の個人開発者。前作『DYPING』がunityroomで大きな支持を集めたことを受け、PLAYISMとタッグを組んで本作を完成させた。

    無料版から有料版への進化は単なる拡張ではなく、ストーリーの大幅な追加、新メカニクスの実装、より深いホラー体験の構築という形で結実している。Indieゲームシーンにおけるメタフィクションホラーの新たな地平を切り開いた作品と言えるだろう。

    本作は「INDIE Live Expo 2025.4.13 Official Selection」や「BitSummit the 13th AWARD – Innovative Outlaw Award」のノミネート作品でもあり、業界内でも高い評価を受けている。

    まとめ:タイピングの先にある恐怖

    『Dyping Escape』は、タイピングという日常的な行為を恐怖の源泉に変えた野心作だ。ゲームと現実の境界を曖昧にし、プレイヤーの意思決定そのものを問いかけるメタホラー体験は、従来のホラーゲームとは一線を画している。

    日本語・英語・簡体字中国語に対応しているため、言語の壁も低い。ただし、ゲームの性質上、タイピングスキルがある程度必要となる点は留意してほしい。

    現在、発売記念セールとして10%オフの990円で購入可能(セール期間は3月28日まで)。通常価格1,100円という手頃な価格で、この濃密なホラー体験を味わえるのは大きな魅力だ。

    無料デモ版も配信されており、セーブデータは製品版に引き継ぎ可能。気になる方はまずデモ版から試してみることをオススメする。

    「打ちたくない言葉を打たされる恐怖」。それは、あなたがキーボードに触れるたびに蘇る悪夢となるだろう。


    基本情報

    開発: Heaviside Creations
    販売: PLAYISM
    リリース日: 2026年3月13日
    価格: 通常1,100円/ 発売記念セール990円(3月28日まで)
    プラットフォーム: PC(Windows)
    プレイ人数: 1人
    言語: 日本語、英語、簡体字中国語
    ジャンル: タイピングホラー、心理的ホラー、インタラクティブフィクション
    Steam評価: 非常に好評(92% – 108件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/3406810/Dyping_Escape/
    Steam(デモ版): https://store.steampowered.com/app/4080380/Dyping_Escape_Demo/

    公式リンク

    公式サイト: https://playism.com/en/game/dyping-escape/
    X (Twitter): https://x.com/HeaviCre
    YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCno9JtoeBA2Lev5x8y34hIQ

  • 言葉なき絆が紡ぐ、手描きの惑星冒険譚。『Planet of Lana II: Children of the Leaf』は前作を超える感動作だった

    言葉なき絆が紡ぐ、手描きの惑星冒険譚。『Planet of Lana II: Children of the Leaf』は前作を超える感動作だった

    前作から2年後の世界を舞台に、少女ラナと謎めいた相棒ムイの絆を描く本作は、単なる続編の枠を超えて、より深く、より広く、より感動的な物語へと進化を遂げていたのです。

    2026年3月5日にリリースされた本作は、スウェーデンの開発スタジオWishfullyが手がけるシネマティック・パズルプラットフォーマーの第2作。前作『Planet of Lana』(2023年)で高い評価を獲得した同スタジオが、「実現できなかったアイデア」をすべて詰め込んだ意欲作として登場しました。Steamでの評価は92%という圧倒的好評、Metacriticスコアは82点。評価だけ見ても、これは只者ではない雰囲気が漂っています。

    成長したラナ、深まる絆、そして惑星ノヴォの秘密

    本作の舞台は、前作から2年が経過した惑星ノヴォ。かつて侵略してきたロボット軍を退けたラナとムイですが、平和は長く続きませんでした。新しい技術が部族間に広がり、進歩をもたらす一方で、それは同時に欲望と不均衡をも生み出していたのです。

    特に注目すべきは「ディジンガーラ」と呼ばれる人間の派閥。彼らは謎の鉱石を採掘し、技術を武器として乱用しています。ある日、その鉱石が原因で村の子供が病に倒れ、ラナの姉エロは警備隊を率いてディジンガーラに立ち向かうことに。一方、ラナとムイには「薬の材料を集める」という一見地味な任務が与えられます。

    しかし、その探索は凍てつく山岳地帯、熱帯の海岸、深海、古代遺跡へと広がり、やがて惑星の隠された真実と、ムイの起源にまつわる謎へと繋がっていくのです。前作が「救出劇」だったのに対し、本作は「探求の旅」。物語の構成も前作より洗練され、複数の登場人物の視点が交錯しながら展開していきます。

    進化したアクション、深化したパズル、圧倒的なビジュアル

    前作をプレイした人なら、ラナの動きの違いに即座に気づくでしょう。2年間で成長したラナは、より俊敏で自信に満ちています。壁ジャンプ、ダッシュ、スライディング、そして慣性を活かした流れるような移動が可能になり、プラットフォーマーとしての完成度が大きく向上しました。

    パズル要素も大幅に進化しています。ムイの能力はより多彩になり、機械をハッキングしたり、生物をテレパシーで操ったりと、前作以上に複雑な謎解きが展開されます。特に印象的だったのは、ラナとムイを交互に操作しながら解く大型パズル。片方が水中を探索している間に、もう片方が陸上でスイッチを操作する——そんな協力プレイのような感覚が、一人プレイでも味わえるのです。

    「観察」「タイミング」「協力」を重視したパズルデザインは健在で、複雑なロジックパズルではなく、環境と一体化した自然な謎解きが心地よい。難易度カーブも絶妙で、チュートリアルなしでも直感的に理解できる設計になっています。

    そして何より、このゲームの最大の魅力はそのビジュアルでしょう。手描きのアートスタイルは前作から引き継がれていますが、本作ではバイオームの多様性が格段に増しています。雪山、熱帯の島、水中世界、ロボットの墓場、ディストピア的な都市部——それぞれが独自のビジュアルアイデンティティを持ち、2.5Dの横スクロールでありながら奥行きと深みを感じさせる構図が秀逸です。

    スタジオジブリの影響を公言する開発チームの手腕が遺憾なく発揮されており、特に光の表現や色彩設計は映画のような美しさ。2分おきにスクリーンショットを撮りたくなる、そんな風景が次々と現れます。

    言葉なき物語が紡ぐ、普遍的な感動

    本作の最も独創的な要素は、「セリフがない」ことです。登場人物たちは架空の言語で会話し、プレイヤーには翻訳されません。しかし、だからこそ普遍的な感情が伝わってくるのです。

    声優の表現力、キャラクターのアニメーション、表情、そして環境のストーリーテリング——これらすべてが組み合わさることで、言葉を超えた物語が展開されます。特にBAFTA候補にもなった作曲家・古川岳士のオーケストラスコアが素晴らしく、静かな瞬間にも、緊張感あふれる場面にも、完璧にマッチした楽曲が流れます。

    前作『The Last Guardian』でも手腕を発揮した古川氏の音楽は、本作でもその真価を発揮。メロディーは前作のテーマを継承しつつ、より壮大で感情的な展開を見せます。「ゲーム音楽」というより「映画音楽」と呼ぶべき完成度で、プレイ後も耳に残り続けるでしょう。

    ちなみに、サポーターパックには「ノヴォ語コンパニオン」が付属しており、ゲーム内言語の基礎フレーズや選ばれたセリフの意味を知ることができます。深く世界観に浸りたい人には必携のアイテムです。

    前作との比較、そして新規プレイヤーへの配慮

    レビュアーたちの評価を見ると、「前作より断然良い」という意見が目立ちます。前作はビジュアルとストーリーテリングで高評価を得た一方、パズルの単調さやゲームプレイの物足りなさが指摘されていました。本作はその弱点をすべて克服し、ゲームとしての完成度を大きく高めています。

    プレイ時間は6〜8時間と、前作のほぼ2倍。コンパクトながら密度の高い体験で、「もっと遊びたい」と思わせる絶妙な長さです。また、前作未プレイでも十分楽しめるよう配慮されており、冒頭でラナが前作の出来事を簡潔に説明してくれます(もちろん、架空言語ですが、ビジュアルで十分理解できます)。

    一部のレビューでは「テレポート移動により連続した旅の感覚が薄れた」「若干の物理バグがある」といった指摘もありますが、全体の体験を損なうほどではありません。むしろ、開発チームの野心と実力が遺憾なく発揮された、続編の理想形と言えるでしょう。

    基本情報

    開発: Wishfully
    販売: Thunderful Publishing
    リリース日: 2026年3月5日
    価格: ¥2,200円(発売記念10%オフ実施中)
    プラットフォーム: PC(Steam)、Xbox Series X|S、Xbox One(Game Pass対応)、PlayStation 5、PlayStation 4、Nintendo Switch、Nintendo Switch 2
    プレイ人数: 1人
    言語: 日本語字幕対応(ただし、ゲーム内セリフは架空言語のため字幕なし)
    ジャンル: シネマティック・パズルプラットフォーマー、アドベンチャー
    Steam評価: 圧倒的に好評(92% – 139件のレビュー)
    Metacriticスコア: 82点
    Steam Deck: 認証済み

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2997230/Planet_of_Lana_II/

    公式リンク

    公式サイト: https://www.planetoflana.com/
    X (Twitter): https://x.com/PlanetofLana

  • 「RPGは戦わなくてもいい」——100万語を超える圧倒的文章量で描く、記憶喪失刑事の魂の物語『Disco Elysium ‐The Final Cut』

    「RPGは戦わなくてもいい」——100万語を超える圧倒的文章量で描く、記憶喪失刑事の魂の物語『Disco Elysium ‐The Final Cut』

    「あなたは誰ですか?」

    目が覚めると、ホテルの部屋だった。何もかもが痛い。頭も、胃も、心も。鏡を見ても、自分が誰なのかわからない。名前も、職業も、何をしていたのかも、すべてが空白だ。窓の外には凍てついた街並み。そして、ホテルの裏庭には首を吊られた男の死体が──。

    これが『Disco Elysium – The Final Cut』の幕開けだ。

    本作は2019年にZA/UMが開発・販売した、「戦闘のないRPG」という革新的なコンセプトで世界を驚かせた傑作の完全版である。オリジナル版で獲得した数々のゲーム・オブ・ザ・イヤー(Game Awards、BAFTA、D.I.C.E. Awardなど)に加え、The Final Cutでは全編フルボイス化、新規クエスト追加、コンソール版展開を実現。Steam評価は92%という驚異的な数字(55,064件のレビュー)を叩き出し、「ビデオゲーム史上最高の文章」との呼び声も高い。

    筆者が本作を初めてプレイしたのは、友人から「これはゲームじゃない、文学だ」と強く勧められたからだ。正直「また大げさな」と半信半疑だったのだが……プレイ開始から数時間で、その言葉の意味を理解することになった。

    戦闘ゼロ、会話100%——革新的なRPGシステム

    『Disco Elysium』最大の特徴は、一切の戦闘が存在しないことだ。代わりにあるのは、膨大な量の会話と選択肢。プレイヤーは記憶を失った刑事ハリー・デュボアとして、相棒のキム・キツラギとともに殺人事件の捜査を進めていく。

    しかし、この「会話」が尋常ではない。本作には24種類のスキルが存在し、それらすべてが「内なる声」としてプレイヤーに語りかけてくるのだ。論理(Logic)、共感(Empathy)、内陸帝国(Inland Empire)、身体的器用さ(Physical Instrument)……これらのスキルは単なるステータスではなく、まるで多重人格のように、それぞれ独自の視点でハリーにアドバイス(または妨害)をする。

    例えば、ある人物と話しているとき。論理は「この証言には矛盾がある」と冷静に分析し、共感は「彼は何かを隠している、怯えているんだ」と感情を読み取り、内陸帝国は「この部屋の壁紙には意味がある……過去の記憶が……」と超感覚的な洞察を囁く。プレイヤーは、これら複数の声を聞きながら、どの選択肢を選ぶかを決めることになる。

    この「思考キャビネット(Thought Cabinet)」システムも秀逸だ。ハリーが考えついた思想や哲学を「研究」することで、新たな視点やボーナスを得られる。「共産主義者になる」「ファシストを気取る」「超自由主義者として生きる」「中道主義者として無難に立ち回る」……政治的立場さえも、プレイヤーの選択次第で形成されていくのだ。

    ダイスロールが決める運命——TRPGの魂

    本作のシステムは、テーブルトークRPG(TRPG)の『Dungeons & Dragons』を強く意識している。重要な行動には必ず「スキルチェック」が発生し、2つのダイスを振って判定が行われる。

    成功率は表示されるが、100%でない限り失敗の可能性がある。そして失敗もまた、ストーリーの一部なのだ。筆者は初回プレイで、重要な証拠を発見するチェックに失敗し、まったく別の展開に進んでしまった。しかし、それが「間違い」ではなく、「もうひとつの物語」だったのだ。

    この偶然性こそが、本作に深いリプレイ性をもたらしている。同じ場面でも、ダイスの目次第で展開が変わる。セーブ&ロードで最適解を探すこともできるが、本作はむしろ「失敗を受け入れる」プレイを推奨している。完璧な刑事ではなく、欠陥だらけの人間としてハリーを演じる——それこそが、このゲームの真髄だ。

    言葉の力だけで殺人事件を解決する

    捜査の舞台となるのは、レヴァショルという架空の都市の一角、マルティネーズ地区だ。かつて世界の首都として栄えたレヴァショルは、革命と戦争を経て廃墟と化し、今は外国の連合体による統治下にある。労働者のストライキ、貧困、絶望——この街は「失われたもの」の象徴だ。

    プレイヤーはこの街を自由に探索し、住民たちと会話を重ねて情報を集めていく。印象的なのは、登場人物たちの深い造形だ。クレーンの上のコンテナに住む巨漢、教会で空中ブランコに興じる麻薬中毒者、レイシズムに染まったボディビルダー、自宅から締め出されてホームレスになった男……誰ひとりとして「その他大勢」ではない。全員に物語があり、信念があり、弱さがある。

    そして、彼らとの会話を通じて、プレイヤーは事件の真相に迫っていく。武器は言葉だけ。説得、脅迫、共感、論破——すべては選択肢とダイスロールで決まる。殺人事件の謎を解くだけでなく、ハリー自身が「何者であったか」「何者になるのか」を探る旅でもある。

    フルボイス化で蘇る、100万語の物語

    The Final Cut最大の追加要素は、全編フルボイス化だ。オリジナル版では一部のキャラクターのみ音声があったが、The Final Cutでは登場人物全員、さらにはナレーションまでもが声優によって演じられている。

    この声の力は絶大だった。特にハリーの内なる声たち——24のスキルそれぞれが異なる声優によって演じられている——は、まるで本当に頭の中で複数の人格が議論しているかのような臨場感をもたらす。論理の冷静な男性ボイス、共感の優しい女性ボイス、内陸帝国の神秘的な囁き……これらが同時に語りかけてくる体験は、ゲームというメディアでしか味わえないものだ。

    また、The Final Cutでは4つの新規政治クエストも追加された。共産主義、ファシズム、超自由主義、中道主義——それぞれの思想を深掘りするクエストで、プレイヤーの政治的選択に応じて解放される。ただし、1周で体験できるのは1つだけ。すべてを見るには、複数回のプレイが必要だ。

    エストニアの魂が生んだ、政治と哲学のRPG

    本作を語る上で欠かせないのが、開発チームの背景だ。リードデザイナーのロバート・クルヴィッツはエストニア出身の小説家で、本作の舞台となるエリュシウム世界は彼が15歳から構築してきたものだという。

    クルヴィッツは自身を共産主義者と公言しており、執筆デスクにはレーニンの胸像が置かれている。しかし、本作は単純なプロパガンダではない。むしろ、あらゆる政治思想を平等に風刺し、解体する作品だ。

    共産主義者として振る舞えば、理想主義の虚しさを突きつけられる。ファシストを選べば、憎悪と恐怖の源泉を掘り下げられる。超自由主義者なら、資本主義の冷酷さを体感する。中道主義者であっても、無関心の罪を問われる。本作は、どの立場も美化せず、すべてを問いかけの対象とするのだ。

    この深い政治性こそが、本作を「大人のゲーム」たらしめている。表面的な善悪ではなく、グレーゾーンでの葛藤。正解のない問いへの向き合い方。ゲームとして楽しみながらも、プレイ後には必ず「自分はどう思うか」を考えさせられる——それが『Disco Elysium』の魔力だ。

    開発スタジオの崩壊と、残された遺産

    しかし、本作の成功の裏には、悲劇的な物語がある。2022年、クルヴィッツを含む主要クリエイター3名がZA/UMから解雇された。公式発表では「不正行為」が理由とされたが、当事者たちは「投資家による乗っ取り」だと主張している。

    その後、元メンバーたちは3つの新スタジオ(Longdue Games、Dark Math Games、Summer Eternal)を立ち上げ、それぞれ『Disco Elysium』の精神的後継作を開発中だ。一方、ZA/UM本体は新作『ZERO PARADES: For Dead Spies』を2026年リリース予定としているが、オリジナルチームがいないZA/UMに何ができるのか、ファンの間では懐疑的な声も多い。

    だが、『Disco Elysium – The Final Cut』という作品自体は、永遠にそこにある。17,000パターンのエンディング、174時間のイベントシーン、100万語を超えるテキスト——人生を費やしても遊び尽くせない、圧倒的な物語がそこにはある。

    人生が足りない。だから、今すぐ始めよう

    正直に言おう。『Disco Elysium』は万人向けではない。戦闘がなく、アクションもなく、ひたすら文章を読み、選択肢を選ぶゲームだ。人によっては「退屈」と感じるかもしれない。

    しかし、もしあなたが物語を愛し、言葉の力を信じ、人間の複雑さに興味があるなら——このゲームは、あなたの人生を変えるかもしれない。

    筆者は初回プレイで約25時間を費やし、2周目では全く異なる政治思想とキャラクタービルドで約30時間プレイした。そして今、3周目を始めようとしている。なぜなら、まだ見ぬ物語があるからだ。まだ話していないNPCがいるからだ。まだ選んでいない選択肢があるからだ。

    「人生が足りない」——その言葉の意味が、今ならわかる。

    『Disco Elysium – The Final Cut』は、PC(Steam)、PlayStation 5、Xbox Series X|S、Nintendo Switch、Android、iOSで発売中。日本語完全対応。価格はSteam版で4,100円。

    さあ、レヴァショルへ。あなた自身の物語を見つけに。


    基本情報

    開発: ZA/UM
    販売: ZA/UM
    リリース日: 2019年10月15日(オリジナル版)/ 2021年3月30日(The Final Cut)
    価格: 4,100円(Steam)
    プラットフォーム: PC(Steam)、PlayStation 5、PlayStation 4、Xbox Series X|S、Xbox One、Nintendo Switch、Android、iOS
    プレイ人数: 1人(シングルプレイ)
    言語: 日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語など
    ジャンル: RPG、アドベンチャー、推理、CRPG
    Steam評価: 圧倒的に好評(92% – 55,064件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/632470/Disco_Elysium__The_Final_Cut/

    公式リンク

    公式サイト: https://zaumstudio.com/
    X (Twitter): https://x.com/studiozaum

  • ダイスとカードが織りなす奇跡のボードゲームRPG『Viractal(ヴィラクタル)』――運と戦略の狭間で生まれる唯一無二の冒険を体験せよ

    ダイスとカードが織りなす奇跡のボードゲームRPG『Viractal(ヴィラクタル)』――運と戦略の狭間で生まれる唯一無二の冒険を体験せよ

    『Viractal(ヴィラクタル)』は、2025年9月のアーリーアクセス開始から約4ヶ月、プレイヤーの声を丁寧に拾い上げながら完成させた本作。ダイスロールとデッキ構築という一見相反する要素を見事に融合させた、まさに”奇跡のハイブリッド作品”だったのだ。

    Steamでの評価は非常に好評(89%)、レビュー数は200件を超え、プレイ時間2〜3時間という手頃さとリプレイ性の高さで多くのプレイヤーを虜にしている。『Dokapon Kingdom』を生み出したStingの新作ということで注目を集めていたが、実際にプレイしてみると、それは単なる”Dokaponの後継”ではなく、『Slay the Spire』的なデッキ構築と協力プレイの楽しさを掛け合わせた、全く新しいゲーム体験だった。

    ダイス運に翻弄されない! DPシステムこそがすべて!

    本作の最大の特徴は「ダイスロールで移動」という一見運任せなシステムを、「DP(ダイスポイント)システム」で戦略的な選択肢に昇華させた点だ。

    ダイスを振って出た目の分だけマップを移動する――これだけ聞くと完全に運ゲーに思えるが、ここが『Viractal』の素晴らしいところ。使わなかった移動ポイントは「DP」として蓄積され、イベントでの選択肢を増やしたり、戦闘で強力なバフをかけたりできるのだ。

    つまり、「6が出たけど1マスしか進みたくない」という状況でも、残りの5ポイントはDPとして保存され、後々の冒険で活きてくる。この仕組みのおかげで、ダイスの出目が悪くてもガッカリすることがない。むしろ「あえて移動せずにDPを溜める」という戦略すら成立するのだ。

    Steamのレビューでも「運要素があるのに運ゲーじゃない絶妙なバランス」と評されており、この設計の巧みさがプレイヤーから高く評価されている理由のひとつだろう。

    プロシージャル生成が生む、毎回違う冒険

    『Viractal』の舞台となる箱庭世界「ヴィラクタリア」は、プレイするたびにマップがランダム生成される。同じステージでも配置が変わるため、毎回異なる戦略が求められるのだ。

    正式版では全4つのステージが用意されており、それぞれ「ドラゴンの庭園」「雲と氷のスカイハーモニア」「溶岩と魔王城」、そして3つのステージを統合した最終章「旅の記憶」という構成になっている。各ステージは約2〜3時間でクリアできるため、仕事や学校で忙しい人でも気軽に1周できる絶妙な長さだ。

    特に「旅の記憶」ステージでは、パーティーメンバーが分かれて別々のクエストに挑み、最終的に3つのボスと連戦するという熱い展開が待っている。まるでTRPGのキャンペーンを体験しているかのような没入感があり、フレンドと協力プレイすれば興奮は倍増する。

    カードバトルは軽量級『Slay the Spire』!? でも奥深い!

    戦闘システムはカードバトル形式で、手札から選んだカードを使って敵を倒していく。『Slay the Spire』のようなヘビーなデッキ構築ゲームと比べるとシンプルだが、それゆえに戦略の幅が広い。

    カードは攻撃、防御、バフ・デバフ、特殊効果など多岐にわたり、冒険中に手に入れたカードをデッキに追加したり、不要なカードを削除したりできる。さらに、キャラクターごとに固有のスキルカードがあり、レベルアップ時に獲得できるアビリティと組み合わせることで、自分だけのビルドを構築できる。

    正式版で追加された新キャラ「ムギ(コボルト)」は、同じカードを連続使用することでボーナスダメージを得られる攻撃的なプレイスタイルが特徴。既存のキャラクターとは一線を画す戦い方ができるため、プレイの幅がさらに広がった。

    また、戦闘中にDPを消費することで強力なバフを発動できるため、「ここぞ」という場面でのリソース管理が勝敗を分ける。このシステムのおかげで、運だけでなくプレイヤーの判断力が試される戦略性の高いバトルが楽しめるのだ。

    協力プレイが生む”友情と裏切り”のドラマ

    『Viractal』は最大3人までのオンライン協力プレイに対応しており、ソロプレイとは全く異なる体験ができる。フレンドと一緒に冒険すれば、難敵も協力して倒せるし、アイテムを融通し合うこともできる。

    しかし、本作には「悪魔のささやき」という特殊なシステムが存在する。これは一部のイベントで発動し、仲間を裏切ることで自分だけが利益を得られるという……まさに友情破壊装置のような仕組みだ。ボイスチャットをしている場合、契約が成立すると声が変化するという演出まであり、プレイヤー同士の駆け引きが熱い。

    Steamのレビューでも「友達と遊んで3時間があっという間に過ぎた」「協力しているつもりが気づいたら騙されていた」といった声が多く、マルチプレイの評価は非常に高い。特に『Dokapon Kingdom』のような対戦要素ではなく、あくまで”協力”がベースになっている点が好評だ。

    アーリーアクセスから正式版へ――開発者の誠実な姿勢

    『Viractal』は2025年9月にアーリーアクセス版としてリリースされ、約4ヶ月間でプレイヤーからのフィードバックを丁寧に反映してきた。初期は「バグが多い」「バランスが悪い」といった厳しい意見もあったが、開発チームは定期的にアップデートを重ね、UIの改善、バトルバランスの調整、新コンテンツの追加を着実に進めてきた。

    特に2025年10月の「スカイハーモニア」アップデート、12月の「魔王城」アップデートでは新ステージと新キャラクターが追加され、プレイヤーからは「開発が本気で作り込んでいる」と高く評価された。そして2026年1月の正式版リリースでは、最終ステージ「旅の記憶」と新キャラ「ムギ」が実装され、ついに完成形となった。

    Steamのレビューを見ると、アーリーアクセス初期の低評価レビューと正式版後の高評価レビューで明確に温度差があり、開発チームの努力がしっかりと実を結んでいることがわかる。「最初は不満もあったが、今では自信を持っておすすめできる」という声も多く、誠実な開発姿勢が信頼を勝ち取った好例と言えるだろう。

    立体音響とボイスチャットが生む没入感

    本作のもうひとつの特徴が、ヤマハの仮想立体音響ソリューション「Sound xR Core」とCRI TeleXusを活用した音響システムだ。

    ヘッドフォンでプレイすると、川のせせらぎや風の音が立体的に聞こえ、戦闘シーンではキャラクターの位置に応じて音が変化する。まるでその場にいるかのような没入感があり、特にマルチプレイ時のボイスチャットでは「悪魔のささやき」イベントで声が変化する演出が非常に面白い。

    技術的な話になるが、CRI TeleXusはゲーム内ボイスチャットを簡単に実装できるミドルウェアで、『Viractal』ではこれを使って特殊な音声エフェクトを実現している。開発チームの技術力の高さが垣間見える部分だ。

    “万人向け”ではないが、ハマる人には刺さりまくる

    正直に言おう。『Viractal』は万人におすすめできる作品ではない。

    1プレイが2〜3時間と長めなこと、ダイスロールという運要素があること、協力プレイ前提のバランスになっている点など、人によっては合わない要素もある。実際、Steamのレビューでも「ソロプレイだとちょっと厳しい」「理不尽な展開が多い」といった意見も見られる。

    しかし、逆に言えば「2〜3時間でひとつの冒険を完結させたい」「運と戦略のバランスが絶妙なゲームが好き」「フレンドとワイワイ遊びたい」という人には最高にマッチする作品だ。特に『Dokapon Kingdom』や『Slay the Spire』、ボードゲームが好きな人なら、間違いなくハマるだろう。

    筆者も最初は「どうせすぐ飽きるだろう」と思っていたが、気づけば50時間以上プレイしていた。毎回違うマップ、毎回違うカード、毎回違う展開――この中毒性は他のゲームではなかなか味わえない。

    基本情報

    開発: Sting
    販売: Sting
    リリース日: 2026年1月25日(正式版)
    価格: 3,960円(税込)
    プラットフォーム: PC(Steam)
    プレイ人数: 1〜3人(オンライン協力プレイ、ローカル協力プレイ、LAN対応)
    言語: 日本語、英語、韓国語、繁体字中国語、簡体字中国語
    ジャンル: ボードゲーム型RPG、デッキ構築、ローグライク、協力プレイ
    Steam評価: 非常に好評(89% – 200件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2909580/Viractal/

    公式リンク

    公式サイト: https://www.sting.co.jp/
    X (Twitter): https://x.com/sting_pr
    Discord: https://steamcommunity.com/linkfilter/?u=https%3A%2F%2Fdiscord.gg%2FxCPzGEtmbe