カテゴリー: ナラティブ

  • 「Disco Elysiumの後継者」なんてレベルじゃない。TRPG好きが30年待ち続けた”あの感覚”を完全再現した『Esoteric Ebb』

    「Disco Elysiumの後継者」なんてレベルじゃない。TRPG好きが30年待ち続けた”あの感覚”を完全再現した『Esoteric Ebb』

    「Disco Elysiumみたいなゲーム、また出ないかな……」そう諦めかけていた矢先のことだった。

    2026年3月、PC Gamerはこう断言した。「まだ3月だが、断言しよう。『Esoteric Ebb』は2026年最高のRPGであり、Disco Elysiumの真の後継者だ」と。メタスコア88点、OpenCritic89点、Steam評価96%(295件のレビュー)──数字だけ見ても只者ではない雰囲気が漂う本作だが、実際にプレイしてみると、そこにはただの「模倣作」では片付けられない圧倒的な独自性があった。

    本作を手掛けたのは、スウェーデンの開発者Christoffer Bodegård。なんと2018年から8年間、ほぼソロで開発を続けてきたという狂気のプロジェクトだ。途中からイラストレーターや音楽プロデューサーが加わったものの、プログラミング、デザイン、そして75万語以上(指輪物語三部作を超える分量!)に及ぶダイアログの執筆まで、すべて彼一人の手によるものである。

    D&Dルールで動く会話バトル、これぞ「Disco-like」の真骨頂

    『Esoteric Ebb』の舞台は、アルカネパンク・ファンタジー世界「エソテリック・コースト」。魔法大戦の余波が残るこの世界では、ゴブリンが街角で新聞を売り、イデオロギーが死神の囁きを覆い隠している。そしてあなたは「聖職者(The Cleric)」──政府の下っ端として働く、秘儀的事件の専門家だ。

    ゲームは衝撃的なオープニングから始まる。あなたは死体安置所で目覚める。川底から引き上げられ、腐ったリンゴに囲まれ、いくつかの死体とゾンビ一匹と共に。そう、あなたは一度死んでいたのだ。

    そして任務が下る。5日後に控えた史上初の選挙を前に、街の中心でゴブリンの茶店が爆発した。原因は? 犯人は? 政治的動機があるのか? あなたには5日間という制限時間の中で、この謎を解明しなければならない。

    本作の最大の特徴は、D&D第5版ルールをDisco Elysiumスタイルの会話システムに完全統合したことだ。キャラクター作成では、STR(筋力)、DEX(敏捷)、CON(耐久)、INT(知力)、WIS(判断力)、CHA(魅力)という6つの能力値を配分する。そしてこれらの能力値が、Disco Elysiumの「スキル」のように内なる声として語りかけてくるのだ。

    INTは冷徹で時に残酷だ。野心を煽り、世界にはあなたのような指導者が必要だと囁く。それ自体は「秩序にして悪」であり、非政治的だ。一方でWISは共感的で、他者の痛みを理解しようとする。この能力値たちは互いに議論し、時には味方し、時には驚くような発言をする──まるで本当のTRPGセッションで、GMが各プレイヤーの性格を演じ分けているかのように。

    そして重要な選択や行動の多くはダイスロールで成否が決まる。会話中の説得判定、戦闘、さらには「恥ずかしいことを認める」ような場面でさえダイスが振られる──そして失敗すれば死ぬこともある。装備やD&D呪文(「Enhance Ability」や「Charm Person」など)を使えば判定に有利な修正を得られるが、運命の女神は気まぐれだ。

    この「ダイスの不確実性」こそが、本作にリプレイ性緊張感をもたらしている。筆者は初日、リンゴを大量に食べようとして腹痛で死亡した。ゾンビを説得して自殺させることに成功したかと思えば、次の瞬間には天使への口説きに大失敗して恥をかいた。

    本作は「クレリック」という職業の皮を被った自由奔放なロールプレイング

    さて、あなたは「聖職者」のはずだが、実はこれ、まったくの建前である。

    ゲーム開始直後から、あなたは他人に「実は俺、ローグなんだ(Dick-Ass Rogue)」と言い張ることができる。そして驚くべきことに、ゲームはそれを受け入れる。キャラクターシートまで変更される。「アルカナの聖職者」として魔法使い呪文を習得することもできるし、隠しクラスをアンロックすることも可能だ。

    レビュアーたちは口を揃えて言う。「俺は病弱なローグ聖職者でアイデンティティ危機を抱えたキャラを作った」「俺は常にDick-Ass Rogueだと主張し続けた、笑える結果になった」と。そう、本作は「あなたが何者であるか」すら、あなた自身の選択に委ねているのだ。

    そしてこの自由度は選択肢にも表れている。冒頭で出会う移民の村、ドルイド、ゴブリンの三つ巴状況において、あなたは:

    • ドルイドを助けてゴブリンのキャンプから仲間を救出する
    • 移民たちに警告して防衛準備を整える
    • ゴブリンに協力して村を襲撃する

    すべてが可能だ。そしてどの選択をしても、物語は分岐し、意味を持ち、そして進んでいく。あるプレイヤーは友人と4人マルチプレイし、「移民もドルイドもゴブリンも全員虐殺する」というジェノサイドルートを達成したという。モンクのハーフオークが波動拳でゴブリンをナムアミダブツする光景は、きっと忘れられない思い出になっただろう。

    これはDisc──いや、「Discworld」だ

    あるレビュアーが鋭い指摘をしている。「本作の核心はDiscoではなく、Discだ。Discworld、つまりテリー・プラチェットだ」と。

    確かに、本作はD&Dというシステムをプラチェットのようにユーモアと皮肉を込めて扱っている。「Charm Person」呪文や「Speak with Dead」が社会でどう規制されているか、アライメント(属性)システムが形而上学的にどう機能するのか──こうした設定を、登場人物たちは当たり前のこととして受け入れている。狂っているのは、むしろプレイヤーのほうなのだ。「なぜこんな世界なんだ?」と問いかけるのは、我々だけである。

    ノルヴィク市は「ガーズ!ガーズ!」や「ソウル・ミュージック」を思わせる。暗い階級闘争よりも、不条理を受け入れながら「それでも生きていく」人々の姿がそこにはある。

    そして探索要素も素晴らしい。本作には地下都市(City Below)が広がっており、秘密を発見し、パズルを解き、戦闘に挑むダンジョン探索がTRPG的なドラマチックさで展開される。ある時あなたは巨大化しすぎたゼラチナス・キューブに遭遇し、別の時には法律顧問として働く本物の悪魔と契約書の条項について議論する。

    「クエスティング・ツリー」──クエストログ、スキルツリー、マインドマップが融合した革新的システム

    本作独自のシステム「Questing Tree(クエスティング・ツリー)」も見逃せない。これはクエストログであり、スキルツリーであり、マインドマップでもある。

    クエストを完了すると、それが「根を張り」、あなたの心に定着する。そしてFeat(特技)としてゲームプレイに影響を与える。例えば「異性への判定に有利な修正」を得たり、新しいクラスをアンロックしたりできる。クエストは大小さまざまで、茶店爆発という大事件から、猫探し、許可証の問題解決といった小さなものまで多岐にわたる。

    そして本作は時間制限がある。5日後には選挙が行われ、物語は終わる。会話するたびに時間が進み、キャラクターは特定の時間・場所にしか現れない。すべてをこなすことは不可能だ。だからこそ、「今回は何をするか」「次回のプレイで何を試すか」という選択の重みが生まれる。

    技術的な問題はあるが、それを補って余りある魅力

    公平を期すため、欠点も述べておこう。一部のレビューでは技術的な問題が報告されている。画面が緑色のフィルターで覆われる不具合、影が奇妙に伸びるグラフィックバグ、Steam Deckでのパフォーマンス問題などだ。また、UI(特にインベントリ管理)がSteam Deckのゲームパッドでは扱いにくいという指摘もある。

    序盤の会話がやや「チュングス的」(※訳注:「ちょっと個性的すぎる」ニュアンス)で、トーンが安定しない部分もあるとの声もある。そして音声なしであるため、膨大なテキストを読む覚悟が必要だ(日本語は未対応)。

    だが、それでもなお──本作は傑作だ。

    開発者は「75万語以上(ロード・オブ・ザ・リング全三部作より多い)のテキスト」を用意しており、ローカライズには莫大なコストがかかると述べている。しかし、この文章量こそが本作の魅力の源泉でもある。会話の選択肢には「優しく」「冗談っぽく」といったトーン指定があり、主人公になりきって物語を紡ぐ体験は、まさにTRPGそのものだ。

    「これこそTRPGだ」──30年待ち続けた感覚がここにある

    筆者が最も感銘を受けたのは、本作がTRPGの「あの感覚」を完璧に再現していることだ。

    優秀なGMがいるセッション。プレイヤーが無茶な行動をしても、GMはそれを受け止め、即興で対応し、物語を転がしていく。ダイスの出目に一喜一憂し、予想外の展開に笑い、仲間との掛け合いに心温まる──。

    Baldur’s Gate 3が「D&Dの究極のサンドボックス」なら、『Esoteric Ebb』は「史上最高のDMとのキャンペーン」だ。PC Gamerのレビュアーは「これまでTRPGの魔法をここまでゲームに落とし込んだ作品は見たことがない」と絶賛している。

    そしてもう一つ特筆すべきは、本作にバッドエンドは存在しないということだ。どんな選択をしても、それに応じたエンディングが用意されている。50以上のエンディングパターンがあり、仲間の運命、主人公の選択、政治状況の帰結──すべてが複雑に絡み合う。

    「あのとき別の選択をしていたら?」という問いが、次のプレイスルーへの強烈な動機になる。筆者は現在2周目だが、1周目では見落としていたキャラクター、選ばなかった選択肢、気づかなかった伏線──すべてが新鮮だ。

    人生が足りない。だが、それでも遊ぶ価値がある

    冒頭で『バルダーズ・ゲート3』を引き合いに出したが、『Esoteric Ebb』もまた「人生が足りない」ゲームだ。

    1周クリアに約20~30時間。50以上のエンディング、無数の分岐、膨大な会話の組み合わせ──すべてを見ようと思えば、確実に数百時間は必要だろう。そして開発者が「高INT(知力)プレイヤーだけが読むに値する不必要な設定資料」と称する開発ブログまで読み始めたら、もう抜け出せない。

    だが、それでいいのだ。本作は「効率よくクリア」するゲームではない。あなた自身の物語を紡ぎ、選択の重みを感じ、ダイスの出目に運命を委ね、そして笑い、驚き、時には後悔する──そんな体験こそが、本作の真の価値なのだから。

    PC Gamerは「2026年3月の時点で断言する。『Esoteric Ebb』は今年最高のRPGだ」と言った。GameSpotは「ビデオゲームストーリーテリングの到達点であり、最も魅力的で笑える没入型RPG体験のひとつ」と評した。そしてプレイヤーたちは「Disco Elysiumの後に何を遊べばいいか分からなかった。今ならはっきり言える。『Esoteric Ebb』を遊べ」と声を揃える。

    もしあなたがTRPG好きなら、Disco Elysiumファンなら、あるいは単に「他では味わえない物語体験」を求めているなら──迷わず本作を手に取ってほしい。

    ダイスを振ろう。ゴブリンの茶店が爆発した謎を解こう。そして、あなただけの物語を紡ごう。ノルヴィクの街が、あなたを待っている。


    基本情報

    開発: Christoffer Bodegård
    販売: Raw Fury
    リリース日: 2026年3月3日
    価格: 2,800円(発売記念10%オフで2,520円 3月15日まで)
    プラットフォーム: PC (Steam)
    プレイ人数: シングルプレイヤー
    言語: 英語(日本語未対応)
    ジャンル: CRPG、ストーリーリッチ、選択重視、アイソメトリック、ダンジョンズ&ドラゴンズ
    Steam評価: 圧倒的に好評 (96% – 295件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2057760/Esoteric_Ebb/

    公式リンク

    公式サイト: https://esotericebb.com/
    X (Twitter): https://x.com/chrisbodegard
    Discord: https://steamcommunity.com/linkfilter/?u=https%3A%2F%2Fdiscord.gg%2FHsJnXfRXnC
    Bluesky: https://bsky.app/profile/esotericebb.bsky.social

  • 憧れの政府機関オペレーターになれる『The Operator』。現場じゃなくて”椅子に座る男”こそが主役だ

    憧れの政府機関オペレーターになれる『The Operator』。現場じゃなくて”椅子に座る男”こそが主役だ

    映画でよく観る「あのシーン」をついに体験できるぞ!

    Steamで90%という高評価を獲得している『The Operator』。最初に見たときは「政府機関のオペレーター? 地味そうだな」と正直思った。アクション映画では華々しい銃撃戦を繰り広げる現場エージェントばかりが注目され、後方で支援する”椅子に座る男”なんて脇役でしかない。

    しかし、実際にプレイしてみると、その考えは完全に間違いだった。『The Operator』は、オペレーターこそが主役であることを証明する傑作だったのだ。

    二日酔いの新人オペレーター、事件に巻き込まれる

    舞台は架空の政府機関「FDI(Federal Department of Intelligence)」。プレイヤーは新人オペレーターのイーヴァン・タナーとなって、現場のエージェントをサポートする役割を担う。

    ゲーム開始時、主人公は二日酔いで朦朧とした状態。「気持ちを新たにして、二日酔いを乗り越えて初日を迎えろ」という上司の声とともに、慌ただしい一日が始まる。

    最初の印象は「なんだかリアルだな」だった。実際の政府機関のコンピューターシステムのような、無骨で機能的なインターフェース。映画のようなカッコよさはないが、その分だけ本物感が漂っている。

    映像解析から爆弾解除まで、オペレーターの仕事は多岐にわたる

    『The Operator』の魅力は、オペレーターの業務がとにかく多彩なこと。単調な作業ではなく、毎回異なる種類の事件に対応していく。

    監視映像の解析では、ぼやけた映像を「エンハンス」機能で鮮明にして容疑者を特定する。まさに映画で見る「画像を拡大してくれ!」のシーンを自分で体験できるのだ。データベース検索でナンバープレートから車の所有者を割り出したり、化学物質の成分分析を行って証拠を掴んだり。

    特に印象的だったのが爆弾解除のサポート。現場のエージェントから「赤い線と青い線、どっちを切ればいい?」と緊迫した声で連絡が入る。手元の爆弾解除マニュアルと爆弾の写真を見比べて、一刻を争う状況で正しい指示を出さなければならない。

    手が震えそうになるほど緊張した。現場にいないのに、この臨場感はすごい。

    「信用するな」の警告が示す深い陰謀

    ゲームが進むにつれ、単なる犯罪捜査ゲームではないことが明らかになってくる。ストアページにすら「だれも信用するな」という不穏なメッセージが表示されており、これが伏線になっているのだ。

    最初は殺人事件や行方不明者の捜索といった一般的な事件を扱っていたのに、だんだんと政府内部の陰謀に巻き込まれていく。上司からの指示にも疑問を抱くようになり、真実を見極めることが困難になってくる。

    特に中盤以降は、「この情報は本当に正しいのか?」「自分が調べている事件は本当に事件なのか?」と常に疑いながらプレイすることになる。オペレーターとしての判断力が試される場面が増え、緊張感が途切れることがない。

    リアルな技術とインターフェースが没入感を高める

    『The Operator』が他のゲームと一線を画すのは、その技術的なリアリティだ。登場するソフトウェアやデータベースは、実在の政府機関が使用していそうなレベルで作り込まれている。

    顔認識システム、音声分析ツール、GPS追跡システム、化学分析装置など、現代の捜査機関が実際に使用している技術がゲーム内に再現されている。これらのツールを使いこなしていく過程で、本物の政府オペレーターになったような錯覚を覚える。

    また、声優の演技も秀逸だ。現場エージェントとの無線通話は、まさにテレビの犯罪ドラマを見ているかのよう。緊迫した状況での指示や報告のやり取りが、ゲームの臨場感を大幅に向上させている。

    約4時間の濃密な体験、しかし結末は……

    プレイ時間は約4時間と短めだが、その分だけ内容が凝縮されている。ダラダラとした展開は一切なく、最初から最後まで緊張感を保ったまま進行する。

    ただし、エンディングはかなり衝撃的なクリフハンガー。多くのプレイヤーが「続きが気になって仕方ない!」と感じるであろう終わり方をしている。これは賛否両論で、「短すぎる」「結末が不完全」という意見もある一方、「続編への期待が高まる」という声も多い。

    個人的には、このクリフハンガーエンディングも含めて『The Operator』の魅力だと思う。現実の政府機関で働くオペレーターも、日々継続する事件や陰謀に対処しているはず。一つの事件が解決しても、新たな謎が生まれる。そんなリアルな政府機関の日常を体験させてくれる作品だ。

    アルフレッドの方がバットマンより興奮する

    『The Operator』をプレイしていて強く感じたのは、「アルフレッドの方がバットマンより興奮する」ということ。現場で銃を撃ったり格闘したりするよりも、後方で情報を分析し、的確な指示を出すことの方がスリリングだった。

    現場のエージェントが危機に陥ったとき、手元のデータベースから救いの情報を見つけ出せたときの達成感は格別だ。「君のおかげで助かった!」という感謝の言葉を聞くたびに、オペレーターとしての誇りを感じる。

    政府機関で働くことを夢見たことがある人、捜査ドラマが好きな人、パズル的な謎解きが好きな人には特におすすめしたい。Bureau 81が開発した本作は、「椅子に座る男」の魅力を最大限に引き出した傑作だ。

    基本情報

    タイトル: The Operator
    開発: Bureau 81
    パブリッシャー: Bureau 81, indienova
    プラットフォーム: Steam, Epic Games Store
    リリース日: 2024年7月22日
    プレイ時間: 約4時間
    日本語: 非対応
    Steam評価: 非常に好評(90%)
    価格: 1,600円

    購入リンク:

  • ハリウッドの闇に踏み込む衝撃のサイコホラー『Dead Take』。豪華俳優陣が魅せる、映画業界の裏側を暴く恐怖体験

    ハリウッドの闇に踏み込む衝撃のサイコホラー『Dead Take』。豪華俳優陣が魅せる、映画業界の裏側を暴く恐怖体験

    これは単なるホラーゲームじゃない……

    Steam で 88% という高評価を誇る『Dead Take』。最初は「また実写を使ったホラーゲームか」程度の認識だったが、プレイしてみると……これはとんでもない作品だった。

    Surgent Studios が手がけるこの一人称視点サイコホラーは、『バルダーズ・ゲート3』のアスタリオン役で知られるニール・ニューボンと『FF16』のクライヴ役のベン・スターを主演に迎え、ハリウッドの腐敗した権力構造をえぐり出す。

    消えた友人を探して……始まる悪夢

    物語は俳優のチェイス(ニール・ニューボン)が、連絡の取れなくなった友人で同じく俳優のヴィニー(ベン・スター)を探すため、有名プロデューサー、デューク・ケインの豪邸を訪れるところから始まる。

    前夜まで華やかなパーティーが開かれていたはずの邸宅は、今や不気味な静寂に包まれている。紙吹雪が散らばった床、消えた明かり、そして……どこからともなく響く不穏な音。

    「なんでこんなところに来てしまったんだ……」と思いながらも、友人を探すために邸宅の奥へと進んでいく。これが悪夢の始まりだとも知らずに。

    実写×3D の新感覚ホラー体験

    本作最大の特徴は、実写映像と Unreal Engine 5 による 3D グラフィックが絶妙に融合した演出だ。邸宅内の探索は一人称視点で行うが、重要な場面では実写の映像が挿入される。

    特に印象的なのが USB ドライブに保存された映像の数々。オーディション映像、インタビュー、そして……あまりに生々しい告白の映像まで。これらの映像は単なるカットシーンではなく、謎解きの重要な要素として機能する。

    破損した映像ファイルを専用のソフト「SPLAICE」で編集・復元することで新たな手がかりを得られるのだが、この映像編集システムがまた秀逸。まるで本当に映画の編集をしているような臨場感がある。

    エスケープルームを逆転させた発想

    通常のエスケープルームゲームは「脱出」が目的だが、『Dead Take』は正反対。プレイヤーはより深く、邸宅の奥へと踏み込んでいかなければならない。

    パズルの難易度は絶妙に調整されており、「これは解けない……」と思った瞬間に、ふと答えが浮かぶような絶妙なバランス。例えば、ピアノの鍵盤に描かれた謎の記号を頼りに正しい順序で鍵盤を押すパズルや、絵画の制作年月日から金庫の暗証番号を推測する仕掛けなど、どれも論理的でありながら直感的に解ける。

    ただし、いくつかのパズルは少々理不尽で、筆者も一つのパズルに 30分以上悩まされた。これは好みが分かれるところだろう。

    俳優陣の圧倒的な演技力

    何といっても本作の真骨頂は俳優陣の演技だ。ニール・ニューボン演じるチェイスの心の動揺、ベン・スター演じるヴィニーの複雑な感情、そして画面には登場しないものの、その存在感で恐怖を煽るデューク・ケイン。

    特に印象的だったのは、物語後半に登場する女優ジェーン・ペリーの映像。彼女が語る業界の闇は、あまりにもリアルで胸が締め付けられる。制作陣が「実体験に基づいている」と語るだけあって、そのリアリティは他の追随を許さない。

    これらの実写映像があることで、単なるホラーゲームを超えた「体験」として昇華されている。

    短いが濃密な 4時間の恐怖

    プレイ時間は約 4時間と短めだが、その分濃密な体験が詰まっている。無駄な部分を一切削ぎ落とし、恐怖と謎解きに特化した構成は見事としか言いようがない。

    価格も 1,700円と手頃で、「映画を 1本観る感覚で」楽しめる。実際、本作は映画とゲームの境界を曖昧にする新しい体験を提示している。

    Steam Deck でも快適にプレイできるが、一部のシーンで若干重くなることがある。それでも Verified 対応なので、携帯機での恐怖体験を求める人にもオススメだ。

    業界の闇を暴く勇気ある作品

    『Dead Take』が他のホラーゲームと決定的に違うのは、その社会的メッセージ性だ。ハーヴェイ・ワインスタイン事件を彷彿とさせる権力の濫用、性的暴行、精神的な支配……。エンターテインメント業界の暗部を真正面から描いている。

    これは単なる「怖がらせ」ではない。私たちが普段目にする華やかな映画やゲームの裏側に潜む、生々しい現実への告発なのだ。

    制作者のアブバカル・サリム氏自身が俳優であり、この業界で実際に体験したことが作品に反映されているのは間違いない。だからこそ、この作品には他では得られない「真実味」がある。

    まとめ:新時代のホラー体験

    『Dead Take』は間違いなく、2025年最高のホラーゲームの一つだ。実写と 3D の融合、圧倒的な演技力、そして社会派としてのメッセージ性。すべてが高次元でまとまっている。

    ジャンプスケアに頼った安易な恐怖ではなく、人間の心の奥底に潜む闇を描き出す心理的恐怖。これこそが真のホラーではないだろうか。

    ホラーゲーム好きはもちろん、映画好き、そして社会問題に関心がある人にもぜひプレイしてもらいたい作品だ。ただし、扱っているテーマが重いので、心の準備をしてからプレイすることをお勧めする。

    この業界の闇を知った時、あなたは映画を同じ目で見ることができるだろうか?


    基本情報

    ゲームタイトル: Dead Take / デッドテイク
    開発: Surgent Studios
    販売: Pocketpair Publishing
    プレイ人数: 1人
    対応機種: PC (Steam)
    価格: 1,700円
    日本語: 対応
    Steam評価: 非常に好評 (88%)
    プレイ時間: 約4-5時間
    リリース日: 2025年7月31日

    購入はこちら: Steam ストアページ

  • 訪問者は人間か?化け物か?疑心暗鬼が支配する終末世界『No, I’m not a Human』

    訪問者は人間か?化け物か?疑心暗鬼が支配する終末世界『No, I’m not a Human』

    人を信じることが命取りになる世界

    最近のインディーホラーゲーム界隈では、『Mouthwashing』で注目を集めたCRITICAL REFLEXがパブリッシャーを務める『No, I’m not a Human』が大きな話題を呼んでいる。Steamでの評価は驚異の91%という高評価を記録し、体験版だけで97%もの圧倒的好評を獲得しているのだ。

    なぜこれほどまでに注目されているのか?それは、このゲームが単なるホラーゲームを超えた「疑心暗鬼」という人間の本質的な恐怖に迫っているからだろう。

    太陽が人類の敵となった終末世界

    舞台となるのは、太陽の異常により昼間の外出が死を意味する終末世界。街には黒焦げの死体が積み重なり、太陽光を一瞥するだけで目が焼けてしまう。人々は夜にのみ活動できるようになった世界で、プレイヤーは郊外の一軒家に独り暮らしている。

    そんな絶望的な世界に現れたのが「来訪者(Visitor)」と呼ばれる異形の存在だ。彼らは人間そっくりに擬態し、避難を求めて家を訪れる。見た目も話し方も人間と変わらない彼らだが、その正体は人を殺す化け物なのだ。

    この設定だけで既に『Papers, Please』や『That’s Not My Neighbor』を思い起こさせる。しかし、本作の恐怖はより深いところにある。

    恐怖の本質は「判断」にある

    ゲームの基本的な流れはシンプルだ。夜になると避難を求める人々が家の扉を叩く。プレイヤーは彼らとドア越しに会話をし、人間なのか来訪者なのかを判断して、家に入れるか否かを決める。

    ここで重要なのは、誰も入れなければ強制的に侵入される、ということだ。完全な引きこもりは許されない。最低でも誰かは信用して家に入れなければならないのだ。

    そして、もし来訪者を入れてしまえば、家にいる人間の誰かが殺される。グロテスクな描写と共に、ゴミ袋に詰められた死体が発見される。この時の絶望感と罪悪感は、プレイヤーの心に深く刻まれるだろう。

    判断材料となるのは、ニュースで流される「来訪者の特徴」だ。体毛がない、瞳が異常、歯の形がおかしい、など日々変化する判別方法が示される。しかし、これらの情報も完全に信用できるとは限らない。疑心暗鬼がプレイヤーの判断を狂わせていく。

    身体検査という苦渋の選択

    本作で最も印象的なのが「身体検査」のシステムだ。疑わしい相手に対しては、脇の下をチェックして体毛の有無を確認したり、口の中を覗いて歯の異常を調べたりできる。

    しかし、これは明らかに人権侵害的な行為だ。相手が本当に人間だった場合、どれほど屈辱的な思いをさせているかを考えると心が痛む。それでも生きるためには、この選択をせざるを得ない。

    そして最終的に来訪者だと判断した場合、プレイヤーはショットガンで相手を射殺することになる。たとえ相手が化け物であっても、人の姿をしている存在を殺すことの重さは計り知れない。

    ビジュアルが演出する不気味さ

    本作のビジュアルデザインは秀逸だ。3Dの家屋に2Dの人物という組み合わせが、現実と非現実の境界を曖昧にしている。特に印象的なのが、覗き穴から見る来訪者たちの顔だ。

    どの顔も微妙に「普通」ではない。写実的でありながら、どこか歪んでいる。人間らしさを保ちつつも、見る者に違和感を抱かせる絶妙なバランスが恐怖を演出している。

    夜の暗い色調と相まって、プレイヤーは常に不安にさいなまれることになる。「この人は本当に人間なのか?」という疑念が頭から離れなくなる。

    多様な来訪者との心理戦

    本作には数十人もの来訪者が登場し、それぞれ異なる背景や性格を持っている。老人、子供、女性、男性……見た目だけでは判断がつかない多様性がある。

    中でも印象的なのが「リトルガール」の存在だ。彼女は子供であるため、たとえ来訪者だと分かっても殺すことができない。この設定は、プレイヤーの道徳観と生存本能の間で激しい葛藤を生み出す。

    また、来訪者たちの会話も巧妙だ。助けを求める切実な声、家族の話、人間らしい感情……これらすべてが演技である可能性を考えると、人間不信は極限まで高まっていく。

    リプレイ性を高める多数のエンディング

    本作には10種類ものエンディングが用意されている。プレイヤーの選択によって物語の結末は大きく変化し、何度もプレイしたくなる作りになっている。

    来訪者の出現パターンも一定ではなく、毎回異なる緊張感を味わえる。「前回は人間だったあの人が、今回は来訪者かもしれない」という疑念が、リプレイのたびに新鮮な恐怖をもたらす。

    短時間でクリアできるゲームながら、その密度は極めて高い。1~3時間程度のプレイ時間の中に、濃密な恐怖体験が詰め込まれている。

    Steam Deckでの携帯ホラー体験

    本作はSteam Deckにも対応しており、携帯ゲーム機での恐怖体験が可能だ。ただし、覗き穴を覗くシーンなど一部の場面でバッテリー消費が激しくなるため、フレームレートを45FPSに制限することが推奨されている。

    ベッドの中でプレイするホラーゲームは、また格別な恐怖をもたらしてくれるだろう。暗闇の中で疑心暗鬼に陥りながら、次の来訪者を待つ体験は忘れがたいものになるはずだ。

    現代社会への警鐘

    『No, I’m not a Human』は単なるホラーゲームを超えて、現代社会への鋭い問題提起を含んでいる。「見た目で人を判断すること」「恐怖に基づく差別」「生存のためなら何でも許されるのか」といった重いテーマが根底に流れている。

    終末世界という極限状況の中で、人間の本性がむき出しになる。プレイヤー自身も、いつの間にか疑心暗鬼に支配され、偏見に基づいた判断を下していることに気づくだろう。

    この体験は、現実世界での私たちの行動についても考えさせられる深い内容となっている。

    総評:恐怖の新たな形

    『No, I’m not a Human』は、ジャンプスケアに頼らない新しいタイプのホラーゲームだ。恐怖の源泉は「疑心暗鬼」という人間の根源的な感情にあり、プレイ後も長く心に残る作品となっている。

    CRITICAL REFLEXというパブリッシャーの目利きの確かさを改めて感じさせる一作だ。『Mouthwashing』に続いて、またしても話題作を世に送り出した。

    体験版も用意されているので、興味のある方はまずそちらから試してみることをオススメする。ただし、一度始めたら最後、疑心暗鬼の世界から抜け出すのは容易ではないことを覚悟しておいてほしい。


    基本情報

    タイトル: No, I’m not a Human
    開発: Trioskaz
    販売: CRITICAL REFLEX
    配信日: 2025年9月15日
    定価: 1,700円(Steam・発売記念10%OFFで1,530円)
    日本語: 対応
    プラットフォーム: PC(Steam)
    プレイ時間: 1-3時間
    Steam評価: 非常に好評(91%)

    購入リンク: Steam

  • 挫折した女戦士がティーハウスで見つけたもの──『The Stanley Parable』クリエイターが描く「不快なコージーゲーム」『Wanderstop』の深すぎる魅力

    挫折した女戦士がティーハウスで見つけたもの──『The Stanley Parable』クリエイターが描く「不快なコージーゲーム」『Wanderstop』の深すぎる魅力

    癒し系ゲームの常識を覆す異色作

    「癒し系ゲーム」と聞いて思い浮かべるのは『あつまれ どうぶつの森』や『Stardew Valley』のような、ほんわかとした世界で穏やかに過ごすゲームだろう。しかし、2025年3月11日にAnnapurna Interactiveからリリースされた『Wanderstop』は、そんな既成概念を根底から覆す。

    「不快なコージーゲーム」──この矛盾した表現こそが、本作の本質を物語っている。

    IGNが9点、Shacknewsが満点の10点をつけ、「最も居心地の悪い癒し系ゲーム」と評されたこの作品。Steam評価も92%と高評価だが、その正体は決して安易な癒しではない。

    豪華すぎる開発陣が仕掛けた心理的実験

    開発を手がけたのは、あの『The Stanley Parable』『The Beginner’s Guide』で知られるDavey Wreden率いるIvy Road。さらに『Gone Home』『Tacoma』のKarla Zimonja、『Minecraft』の音楽を担当したDaniel “C418” Rosenfeldという豪華すぎる布陣だ。

    この開発陣を見れば納得できる。単純な癒し系ゲームを作るはずがない。彼らが手がけるのは、プレイヤーの心を揺さぶる深層的な体験なのだ。

    アルタの物語──右に出る者がいなかった戦士の燃え尽き

    主人公は「アルタ」という女戦士。かつては無敗の記録を誇る世界最強の戦士として君臨していた彼女が、ある日突然力を失い、剣すら持ち上げられなくなってしまう。現代で言うところの「バーンアウト(燃え尽き症候群)」だ。

    森で力尽きた彼女を発見したのは、ティーハウスのオーナー「ボロ」。彼の提案で、回復するまでの間ティーハウスを手伝うことになったアルタ。しかし彼女の本音は違う──「早く回復して、ここから去りたい」

    この設定だけで、本作がただの癒し系ゲームではないことが分かる。プレイヤーは嫌々ながらティーハウス経営をする主人公を操作するのだ。なんという皮肉。

    お茶作りという名の心の修復作業

    ゲームプレイは一見シンプルだ。お茶の材料を栽培し、収穫し、不思議な製法で配合してお茶を淹れる。訪れた旅行者たちと会話し、彼らの境遇を知り、それぞれにふさわしいお茶を提供する。

    しかし、ここに『The Stanley Parable』チームらしい仕掛けが隠されている。アルタは最初、この作業を義務的にこなす。お客との会話も表面的で、「早く終わらせたい」という気持ちが滲み出ている。

    だが、少しずつ変化が訪れる。

    材料を育てる過程で土に触れ、お茶を淹れる過程で香りを感じ、お客の話を聞く過程で他者の痛みを知る。アルタの心境の変化は、プレイヤー自身の体験と重なっていく。

    VA-11 Hall-Aとの違い──「寄り添う」ことの限界

    本作はしばしば『VA-11 Hall-A』と比較される。確かに、飲み物を作って客に提供し、会話を楽しむという基本構造は似ている。しかし決定的な違いがある。

    『VA-11 Hall-A』のジルは職業として、ある種の距離感を保ちながらバーテンダーを務めている。一方、アルタは自分自身が傷ついた状態で、他者の痛みと向き合わなければならない。

    「他者の問題を解決してあげたい」という欲求と、その限界。

    ティーハウスに訪れる客たちの悩みを、アルタは時に「解決」したいと思う。しかし、その全てを背負うことは不可能であり、時にはただ寄り添うことの大切さ、そして健全な距離感の重要性が示される。

    時間制限なし、失敗なし──それでも感じる重圧

    本作には一般的なゲーム要素──タイマー、期限、スコア、失敗のペナルティ──が一切ない。プレイヤーは自分のペースで淡々と作業を行うことができる。

    しかし、それが逆に重い。

    ノルマがないからこそ、アルタの内面と向き合わざるを得ない。競争がないからこそ、自分自身との対話が避けられない。これこそが「不快なコージーゲーム」たる所以だ。

    現代社会への鋭い問いかけ

    一見ファンタジー世界を舞台にしているが、そのテーマは痛いほど現代的だ。

    自己価値と職業的アイデンティティの分離、他者からの手助けの受け入れ方、「休息」というスキルの習得、メンタルヘルスとセルフケア…

    これらは現代社会で多くの人が直面している課題そのものだ。特に、常に強さを求められ続けた女戦士アルタの設定は、現代の「常に成果を求められる」働き方との類似点が多い。

    表面的な癒しを超えた先にあるもの

    『Wanderstop』は、現代社会に生きる多くの人にとって必要な体験を提供している。それは決して心地よいものではないかもしれない。アルタのように、私たちも時として立ち止まり、自分自身と向き合う時間が必要なのだ。

    Davey Wredenらしい実験的なアプローチと、Annapurna Interactiveらしい丁寧な作り込みが融合した本作は、「コージーゲーム」というジャンルに新たな可能性を示した。単なる現実逃避ではなく、現実と向き合うための休息。それこそが、真の意味での「癒し」なのかもしれない。

    忙しい日常に疲れた時、成果を求められ続けることに疲弊した時、ぜひアルタと一緒にお茶を淹れてみてほしい。きっと、あなた自身の心の声が聞こえてくるはずだ。

    基本情報

    タイトル: Wanderstop
    開発: Ivy Road
    パブリッシャー: Annapurna Interactive
    配信日: 2025年3月11日
    プラットフォーム: Steam, PlayStation, Nintendo Switch
    価格: 2,050円
    日本語: 対応済み
    プレイ時間: 6-10時間
    ジャンル: コージーゲーム, ナラティブ, シミュレーション

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