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  • 「マネージャー解雇システム」が最高すぎる。ハム工場が大混乱の協力ゲーム『HAM: The Game』

    「マネージャー解雇システム」が最高すぎる。ハム工場が大混乱の協力ゲーム『HAM: The Game』

    ハムを運ぶだけ……のはずだった

    「ハム工場の経営シミュレーション」と聞いて、筆者が想像したのは、のんびりと生産ラインを眺めながら効率化を楽しむ癒し系ゲームだった。しかし、『HAM: The Game』は違った。このゲーム、終わってる。良い意味で。

    本作は最大4人でプレイできる協力型の工場管理ゲームで、2026年3月3日にLittle Bird Studiosが開発、Cathedral Studiosから正式リリースされた。Steam Next Festでデモ版が話題を呼び、リリース直後からSteam評価100%を記録している注目作だ。

    プレイヤーたちは絶え間なく流れてくる「HAM注文」を処理するため、工場スタッフまたはマネージャーとして協力する。一見シンプルに思えるこのコンセプトが、プレイしてみると想像を遥かに超えるカオスを生み出すのだ。

    物理演算が生み出す美しき混沌

    本作最大の特徴は、徹底した物理演算システムだ。HAMの缶詰は「物体」として存在し、コンベアベルトから転がり落ちれば床に散乱し、プレイヤーが走れば蹴飛ばし、壁にぶつければバウンドする。

    この物理演算が、ゲームプレイに緊張感と笑いをもたらす。筆者がプレイした初日、仲間が慌てて運んでいたHAMの山を誤って蹴り飛ばし、工場中に缶詰が散乱。その光景はまるでピタゴラスイッチの失敗版のようで、全員が「うわあああああ!」と叫びながら拾い集める羽目になった。

    さらに悪夢的なのが「バナナの皮」だ。工場内のあちこちに落ちているバナナの皮を踏むと、見事に滑って転倒する。HAMを抱えているときに滑れば、当然すべてぶちまける。この仕様のせいで、緊張感のある配送シーンが一瞬にしてコントのような展開になるのだ。

    マネージャーと労働者の微妙な関係

    本作のユニークなシステムが「マネージャー/スタッフ」の役割分担だ。マネージャーは専用オフィスから工場全体を見渡し、コンベアベルトやHAMホッパーを操作する。一方、スタッフは工場フロアで実際にHAMを運び、壊れた機械を修理する。

    この役割分担が絶妙に機能する。マネージャーが的確に指示を出せば効率的に作業が進むが、判断ミスをすれば現場は大混乱。そしてここからが本作の真骨頂で、1日の終わりにスタッフたちはマネージャーを「解雇」できるのだ。

    この民主主義システムが最高におもしろい。無能なマネージャーに苦しめられたスタッフたちが投票で追放し、新たなマネージャーを選出する。筆者のプレイセッションでは、友人が初日でクビになり「俺は悪くない! お前らが遅いんだ!」と弁明する姿が見られた。ゲーム内の人間関係がリアルに影響するこのシステム、やばい(褒め言葉)。

    近接ボイスチャット機能も秀逸で、マネージャーはインターホン越しに指示を出せる。現場の悲鳴がリアルタイムで聞こえる中、オフィスから叫ぶマネージャーの図は、まさに現代の企業風刺そのものだ。

    エスカレートする狂気

    初日は数件の注文を処理するだけで済むが、日を追うごとに難易度は急上昇する。注文数が増え、納期が短くなり、新しい設備が導入され、そして機械が次々と壊れ始める

    コンベアベルトが停止し、HAMホッパーが溢れ、配送トラックは待ってくれない(一部は待ってくれるが)。このプレッシャーの中で、チームは連携を求められる。「セクション3のコンベアが止まった!」「ホッパーが満タンだ!」「トラック出発まで30秒!」といった叫びが飛び交う工場フロアは、まさに戦場だ。

    さらに、各ステージには独自のギミックが用意されている。新しい工場レイアウト、複数のローディングベイ、色分けされた機械など、プレイヤーを飽きさせない工夫が満載だ。

    企業の冷酷さを体験せよ

    本作には「利益/損失」システムも搭載されている。HAMコンテナを無駄にすれば叱責され、日々の利益が減少する。破損品、無駄な製品、非効率な運営——すべてが収益に影響する。

    この経営的視点が、ゲームにもう一層の深みを与えている。スピードを優先するか安全性を取るか、その判断が問われる。筆者のチームは「速度至上主義」を貫いた結果、利益がマイナスに転落し、全員で頭を抱えることになった。

    終わらない地獄、最高の娯楽

    本作の真の恐怖は「注文が止まらない」ことだ。『HAM: The Game』には明確なゴールがない。どこまで耐えられるか、何日間この狂気の生産ラインを維持できるか——それがすべてだ。

    プレスリリースには「HAMが引き起こす大惨事の前に、あなたのキャリアが燃え尽きるまで」という不穏な一文があるが、まさにその通り。このゲームは勝利を目指すものではなく、崩壊するまでの時間を楽しむものなのだ。

    初日は笑いながらプレイしていたが、5日目には全員が無言で機械的にHAMを運んでいた。そして10日目、ついにチームは崩壊し、工場はHAMの海に沈んだ。このやるせなさと達成感が同居する感覚、たまらない。

    Steam評価100%(14件のレビュー)という驚異的な支持率も納得だ。現在は発売記念セールで通常価格920円が20%オフの736円(3月18日まで)となっており、今が買い時だ。

    『HAM: The Game』は、協力ゲームとしての楽しさ、物理演算の面白さ、そして人間関係の試練が見事に融合した作品だ。友人と笑いながらカオスを楽しみたい人、パーティーゲームを探している人、そして職場のストレスを別の形で発散したい人に強くオススメしたい。

    ただし注意してほしい。このゲームをプレイした後、リアルの職場で「マネージャー解雇投票」を実施したくなっても、筆者は一切責任を負わない。

    基本情報

    開発: Little Bird Studios
    販売: Cathedral Studios
    リリース日: 2026年3月3日
    価格: 通常価格920円が20%オフの736円(3月18日まで)
    プラットフォーム: PC (Steam)
    プレイ人数: 1-4人(オンライン協力プレイ対応)
    言語: 英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語など8言語対応
    ジャンル: 協力型工場管理、パーティーゲーム、物理演算アクション
    Steam評価: 圧倒的に好評 (100% – 14件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/4019090/HAM_The_Game/

    公式リンク

    公式Discord: https://discord.gg/9QuAcnTYQR

  • 7年越しの続編が爆誕!『Slay the Spire 2』は「完璧な正統進化」だった

    7年越しの続編が爆誕!『Slay the Spire 2』は「完璧な正統進化」だった

    「デッキ構築型ローグライクの続編なんて、どうせ焼き直しでしょ?」しかし、2026年3月6日にSteamで早期アクセスが開始された『Slay the Spire 2』は違った。リリースからわずか24時間で同時接続プレイヤー数が約40万人を突破し、Steam売上ランキング1位を獲得。前作が2017年に記録した193人という初日同時接続数と比較すると、なんと92,982%増という驚異的な数字を叩き出している。

    開発はシアトルを拠点とするインディースタジオMega Crit。Anthony GiovannettiとCasey Yanoの2人が創業したこのスタジオは、前作『Slay the Spire』で「デッキ構築型ローグライク」というジャンルそのものを確立した伝説的な存在だ。続編の開発は慎重に進められ、2024年4月の発表から約2年を経ての早期アクセスリリースとなった。

    「同じ」ことこそが最大の誠実さ

    本作最大の特徴は、良い意味で「前作とほぼ同じ」であることだ。ユニークなデッキを構築し、奇怪な生物と遭遇し、強力なレリック(遺物)を発見しながらスパイアの頂上を目指す——この核となるゲームループは一切変わっていない。戦闘はターン制で、限られたエネルギーを使ってカードをプレイし、敵の行動パターンを読みながら立ち回る緊張感も健在だ。

    「7年も待たせてこれか?」という声も確かに存在する。Steam レビューには「前作の慎重すぎるコピー」「新鮮味がない」といった指摘も散見される。しかし、筆者はあえて言いたい。ローグライクにおける「同じ」とは、必ずしも悪ではない。むしろ、システムの根幹が揺るがないことは、続編としての「誠実さ」の表れなのだ。

    前作で完成されていたゲームデザインに無理な変革を加えず、プレイヤーが本当に求めていた「もっと遊びたい」という欲求に真正面から応えた——これこそが『Slay the Spire 2』の真価である。

    5体のキャラクター、500枚超のカード、275種類のレリック

    プレイアブルキャラクターは全5体。前作から続投するアイアンクラッド(筋肉ゴリラ系近接戦士)、サイレント(毒とドローに特化した暗殺者)、ディフェクト(電気とオーブを操るロボット)に加え、新キャラとしてリージェント(デバフと弱体化のスペシャリスト)とネクロバインダー(死霊術師)が登場する。

    注目すべきは、前作で人気を博したウォッチャーが今作には登場しないこと。これは早期アクセス段階での判断であり、開発チームは今後のアップデートで追加する可能性を示唆している。実際、Mega Critは「1~2年の早期アクセス期間中にコンテンツを追加・調整していく」と明言しており、ウォッチャーのファンは続報を待つことになる。

    カードは500枚以上、レリックは275種類以上と、組み合わせのバリエーションは膨大だ。前作プレイヤーなら懐かしいカードが多数登場する一方、新カードも約30~40%を占めており、「85%が前作と同じ」というレビューは正確ではない。むしろ、既存カードの効果が微調整されているケースが多く、前作の知識が完全に通用しないバランスになっている点が重要だ。

    エンチャント、年代記、そして卵から孵る相棒

    新要素として最も目を引くのが「エンチャント」システムだ。これは、選択したカードに特定の効果を付与する新機能で、ボス撃破後やイベントで獲得できる。たとえば「種まきエンチャント」をアタックカードに付与すれば、そのカードをプレイするたびに追加効果が発動する仕組みだ。

    「年代記(Timeline)」システムも新登場。これは、スパイアの歴史やNPCの背景ストーリーを断片的に解き明かしていくコレクション要素で、何度も挑戦するうちに世界観の全貌が見えてくる仕掛けになっている。前作ではほとんど語られなかった設定が、今作では「実際にコミュニティが形成されている」という描写に変わっており、ストーリー面での進化を感じさせる。

    そして個人的に最も気に入っているのが、「卵イベント」で孵化させられる相棒キャラクターだ。筆者の初回プレイでは、前作で敵として登場していたビャードという鳥型クリーチャーが味方として参戦。戦闘中に隣で「スウープ(急降下攻撃)」してくれるその姿に、思わず「このコのために死ねる」と感じた。相棒キャラは複数種類存在し、それぞれ異なる支援効果を持つため、どの卵を引けるかも運の要素となっている。

    4人協力プレイという革命

    『Slay the Spire 2』最大の新要素は、間違いなく「4人協力プレイ」だ。前作が完全ソロ専用だったのに対し、本作ではフレンドと最大4人でスパイアに挑戦できる。マルチプレイ専用カードやチームシナジーが用意されており、協力してルートを選択し、報酬を共有しながら進む体験は、ソロプレイとは全く異なる魅力を持つ。

    現時点ではマッチメイキング機能はなく、Steamフレンド招待でのみグループが組める仕様だ。ボイスチャット機能も実装されていないため、DiscordやSteamの通話機能を併用する必要がある。ただし、ピング機能(地点指示)やエモート機能は実装予定とのことで、コミュニケーション手段は今後拡充される見込みだ。

    「マルチプレイがこのゲームのハイライト」というレビューも多く、ソロでは味わえない戦略の深さと、フレンドを「沼に引きずり込む」楽しさが評価されている。実際、筆者も初日にフレンドと2人でプレイしたが、「あと1ターン」が「気づけば明け方」に変わる中毒性は健在だった。

    早期アクセスの現実:バグと未完成要素

    ただし、早期アクセス版であることを忘れてはいけない。リリース初日には、すべてのテキストが「W」の文字で埋め尽くされる通称「WWWWバグ」が発生し、一部言語では進行不能に陥った。マルチプレイ終了後にゲームがソフトロック(進行不能状態)する不具合も報告されており、Mega Critは即日ホットフィックスで対応したものの、完全には解消されていない。

    Steamアチーブメントは現時点で無効化されている。これは、今後追加されるコンテンツ量が確定していないためで、正式リリース時に実装予定だ。真のエンディングもまだ存在せず、現在プレイできるのは3つのアクト(章)までとなっている。

    Steam Deckでの動作は「Unknown(不明)」ステータスだが、ユーザーレビューでは「完璧に動作する」「バッテリー持ちも良好」という報告が多数上がっている。Godotエンジンを採用したことで、前作のUnityエンジンよりも軽量化されており、ネイティブLinux対応も実現している。

    「同じ」だからこそ、また沼に堕ちる

    バグや未完成要素を飲み込んでなお、プレイヤーを徹夜へと誘う「中毒性の原液」がここにはある。前作で400時間以上プレイし、全キャラクターで最高難度アセンション20をクリアした筆者ですら、「早くアンインストールしないと人生が終わる」と感じているのだ。

    Steam評価は「圧倒的に好評」(97%ポジティブ、レビュー数2万件超)を記録しており、初日からこれほど高評価を維持している早期アクセスタイトルは極めて珍しい。「前作と同じだけど、それが最高」「デッキ構築型ローグライクの決定版が帰ってきた」「鳥の相棒が可愛いから10/10」といったレビューが並ぶ。

    基本情報

    開発: Mega Crit Games
    販売: Mega Crit Games
    リリース日: 2026年3月5日
    価格: 2,800円
    プラットフォーム: PC(Steam)、macOS、Linux
    プレイ人数: 1~4人(協力プレイ対応)
    言語: 日本語、英語、韓国語、簡体字中国語、繁体字中国語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、その他全22言語
    ジャンル: ローグライク、デッキ構築、カードゲーム、ターン制戦略
    Steam評価: 圧倒的に好評(97% – 20,534件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2868840/Slay_the_Spire_2/

    公式リンク

    公式サイト: https://www.megacrit.com/
    X (Twitter): https://x.com/MegaCrit
    Discord: https://discord.gg/slaythespire
    Reddit: https://www.reddit.com/r/slaythespire/
    TikTok: https://www.tiktok.com/@megacritgames

  • 「刀鍛冶シミュレーター?どうせ10分で飽きるでしょ」――そう思った自分を殴りたくなる魅力たっぷりのストーリー

    「刀鍛冶シミュレーター?どうせ10分で飽きるでしょ」――そう思った自分を殴りたくなる魅力たっぷりのストーリー

     2026年1月22日、Steamで早期アクセスが開始された『Bladesong(ブレイドソング)』。「究極の刀鍛冶ゲーム」という触れ込みに、正直なところ半信半疑だった。スライダーをいじって剣を作る、ただそれだけのゲームに、一体どれほどの深みがあるというのか?

     しかし、筆者は完全に間違っていた。本作は単なる「剣作りゲーム」ではない。刀鍛冶として生きること、その全てを体験させてくれる作品なのだ。気がつけば深夜2時、筆者は依頼人の要求を満たすべく、刃の角度を0.1度単位で調整していた。

    鋼に込められた物語――エレンの砦で生き残れ

     本作の舞台は、人類が滅亡の危機に瀕した終末世界。かつて世界を守護していた「歌」は沈黙し、狂気と絶望が支配する荒廃した大地が広がっている。そんな中、唯一人間らしい営みが残る場所がある。それが「エレンの砦」だ。

     強靭な意志と剛腕を持つ「仮面の王」によって統治されるこの砦は、暴君による恐怖政治と救世主による庇護という、二面性を持つ最後の安息の地。プレイヤーはこの砦に辿り着いた一人の刀鍛冶として、金貨と要求を携えて訪れる客たちのために、命を賭けた刃を鍛え上げていく。

     興味深いのは、前任の鍛冶師が謎の失踪を遂げているという設定だ。依頼をこなし、砦の住民と交流を深めていくうちに、この失踪事件が単なる偶然ではないことが徐々に明らかになっていく。エレンの砦の暗部、仮面の王の真の目的、そして刀鍛冶という職業が持つ重要性――テキストベースのRPG要素が、剣作りというコア体験に深い意味を与えているのだ。

    スライダー調整という名の芸術――自由度の極致

     本作の刀鍛冶システムは、「自由すぎて困る」という表現がぴったりだ。Kingdom Come: Deliveranceの『Legacy of the Forge』DLCや、他の鍛冶ゲームを経験してきた筆者でも、その自由度には驚かされた。

     剣の制作は、まず刀身の成形から始まる。フリーフォームのブレードシェイピングツールを使い、刃の形状を1ミリ単位で調整可能。西洋の両刃剣から東洋の片刃刀、ファンタジー世界の魔剣まで、あらゆるデザインを形にできる。

     刀身が完成したら、今度はモジュラー式の柄の組み立てだ。鍔(ガード)、柄(グリップ)、頭(ポンメル)をそれぞれ150種類以上のパーツから選択し、金属・革・木材・黒曜石・象牙など30種類以上の素材で装飾を施す。

     さらに驚くべきは、本作が物理演算に基づいた「バランス」を重視していることだ。重心位置、慣性モーメント、切れ味、耐久性――すべてが実際の刀剣工学に基づいて計算され、依頼人の要求に応じて微調整が必要になる。「鋭く、かつバランスの取れた片手半剣」という注文を受けたとき、筆者は刃を薄くしすぎて耐久性が落ち、何度も作り直す羽目になった。

     だが、ここに本作の真髄がある。失敗しても素材を無駄にすることはなく、何度でも調整し直せる。ゲームとして楽しめるよう配慮されつつ、リアルな制約も課される――この絶妙なバランスこそが、『Bladesong』を唯一無二の体験にしているのだ。

    刀鍛冶として生きる――昼の仕事、夜の探索

     本作のゲームループはシンプルだ。昼は依頼を受けて剣を鍛え、夜は砦の街を探索する。しかし、このシンプルなサイクルが、驚くほど有機的に結びついている。

     毎朝、プレイヤーには限られた「アクションポイント」が与えられる。各依頼には必要APが設定されており、どの仕事を優先するかの判断が求められる。戦士が急ぎで必要とする実用的な剣か、貴族が求める美しく装飾された儀礼剣か、それとも傭兵が要求する重厚な両手剣か――選択次第で、得られる経験値や報酬、そして砦内での評判が変化していく。

     夜のパートでは、テキストアドベンチャー形式で砦を探索できる。素材商人との取引、派閥との交渉、反乱軍との接触――プレイヤーの選択が物語を分岐させ、翌日に利用できる素材や受けられる依頼にも影響を与える。

     筆者が特に感銘を受けたのは、この二つのパートが決して別々ではないということだ。夜に出会った人物が翌日に依頼人として現れたり、昼に作った剣が夜の事件で使用されたりと、プレイヤーの行動すべてが砦の運命に影響を与えていく。この「生きている世界」の感覚が、没入感を極限まで高めているのだ。

    物理法則が支配する鍛冶場――現実とゲームの狭間で

     本作のレビューでしばしば言及されるのが、「スライダー調整ゲー」という批判的な意見だ。確かに、表面的には刃の幅・厚み・カーブといったパラメータをスライダーで調整するだけに見える。しかし、これは本質を見誤っている。

     『Bladesong』の真の革新性は、その「制約の美学」にある。プレイヤーは完全に自由ではない。依頼人の要求という枠組みの中で、限られた素材とスキルを駆使して、最適解を見つけ出さなければならない。

     例えば、「鋭さ80以上、バランス60〜75、重量1.2kg以下」という要求があったとする。単純に刃を薄くすれば鋭さは上がるが、バランスが崩れる。柄を重くしてバランスを取ろうとすれば、総重量が制限を超える。この「トレードオフのパズル」こそが、本作の核心なのだ。

     レベルが上がるにつれて、カーブドブレード(湾曲刃)、彫刻、複雑なフラー(溝)といった高度な技術が解放される。これらを駆使することで、初期には不可能だった要求も満たせるようになっていく。この成長曲線が実に気持ちいい。

    クリエイティブモードという無限の遊び場

     キャンペーンモードでのストーリー体験も素晴らしいが、『Bladesong』にはもう一つの顔がある。それが「クリエイティブモード」だ。

     このモードでは、一切の制限なしに剣を作れる。全ての素材、全てのパーツ、全ての装飾が最初から利用可能で、プレイヤーは純粋に「自分が理想とする一振り」を追求できる。

     本作のコミュニティでは、「Magic Words」と呼ばれる共有機能が大きな盛り上がりを見せている。完成した剣をコード化して他のプレイヤーと共有できるこのシステムにより、コミュニティチャレンジが定期的に開催され、テーマに沿った作品を投稿し合うイベントが活発に行われているのだ。

     さらに驚くべきは、STLファイルのエクスポート機能だ。ゲーム内で作成した剣を3Dプリンター用のデータとして出力できるため、バーチャルの作品をリアルの装飾品として手元に置くことができる。デジタルとフィジカルの境界を越えたこの機能は、クリエイターにとって夢のような体験と言えるだろう。

    Moon StudioとNinja Theoryの血統――開発背景に見る情熱

     『Bladesong』を開発したのは、ドイツの新興スタジオSUN AND SERPENT creations。2023年に設立されたばかりのこのスタジオだが、そのメンバーには『Ori』シリーズで知られるMoon Studiosと、『Hellblade』で名を馳せたNinja Theoryの元開発者が名を連ねている。

     本作は彼らのデビュータイトルであり、2024年のDevGamm Gdanskでは「Upcoming Game Prize」を受賞。さらにnordmediaから最大72,000ユーロのプロトタイプ資金を獲得するなど、業界からも高い評価を受けている。

     パブリッシャーを務めるMythwrightは、2024年設立の新興パブリッシャーながら、『Thronefall』『Going Medieval』といった話題作を手がける業界ベテランによって運営されている。Steam上での18万件を超えるウィッシュリスト登録、そして早期アクセス開始1ヶ月で127万本もの剣が制作されたという実績が、本作への期待の高さを物語っている。

    Steam評価95%が示す圧倒的支持――なぜプレイヤーは魅了されるのか

     本作のSteam評価は、944件のレビュー中95%が好評という驚異的な数字を叩き出している。特筆すべきは、批判的なレビューですら「クリエイティブモードだけで何十時間も遊べる」「ストーリーがもっと欲しい」といった、いわば「もっと遊びたい」という欲求の表れであることだ。

     海外レビューサイトBig Boss Battleは「Bladesongは鍛造場から出てきたばかりの研ぎ澄まされた作品」と評し、The Punished Backlogは「ファンタジー、歴史、武器、あるいは良質な物語に興味があるなら、これ以上のオススメはない」と絶賛。TheSixthAxisは「ユニークで、思慮深く、そして完全に魅了される体験」と締めくくっている。

     日本でも、AUTOMATONや電撃オンライン、ファミ通などの主要メディアが軒並み取り上げ、「僕が考えた最強の剣が作れる」というキャッチーな見出しで話題を集めた。特に、3Dプリンター出力機能は日本のメディアでも大きく注目されている。

    こんな人にオススメ――刀剣愛好家から物語好きまで

     『Bladesong』は、実に多様なプレイヤー層にアピールする作品だ。

     まず、刀剣や武器に興味がある人にとっては天国だろう。実際の刀剣工学に基づいた物理演算、歴史的に正確なデザイン、そして無限のカスタマイズ性――刀剣マニアが求める全てがここにある。

     クリエイター気質の人にも強くオススメしたい。クリエイティブモードでの制作、コミュニティでの作品共有、3Dプリント出力――「自分だけの作品を作り、世界に発信する」という体験は、他では得られない満足感をもたらすだろう。

     物語重視のプレイヤーにとっても、エレンの砦を巡る陰謀、派閥間の政治闘争、そして選択によって変化する結末は十分に魅力的だ。テキストベースのRPG『Disco Elysium』や『Citizen Sleeper』が好きな人なら、本作のナラティブにも夢中になるはずだ。

     そして、Kingdom Come: Deliveranceのような「職人シミュレーター」が好きな人。本作は剣を作るだけでなく、刀鍛冶として生きる体験を提供してくれる。依頼をこなし、素材を集め、技術を磨き、評判を高めていく――このライフシミュレーション的な側面が、驚くほど中毒性が高いのだ。

    唯一無二の鍛冶体験――刀鍛冶という生き方

     『Bladesong』は、単なる「剣作りゲーム」ではない。これは刀鍛冶として生きること、その喜びと苦悩、創造の興奮と依頼達成の達成感、そして終末世界で技術によって人々を支えるという使命感を体験させてくれる作品だ。

     スライダーを0.1度調整する。素材を吟味する。依頼人の真意を読み取る。夜の街で情報を集める。そして完成した一振りを手渡す――この一連の流れが、驚くほど「生きている」のだ。

     Steam評価95%という数字は、決して偶然ではない。本作は刀剣、クラフティング、物語、そして選択の全てを高次元で融合させた、真に「究極の刀鍛冶ゲーム」なのだから。

     エレンの砦はあなたを待っている。鋼を叩く音が、今日も鳴り響く。


    基本情報

    開発: SUN AND SERPENT creations
    販売: Mythwright
    リリース日: 2026年1月22日(早期アクセス)
    価格: ¥2,300(通常版)
    プラットフォーム: PC(Steam / Epic Games Store)、PlayStation 5(予定)、Xbox Series X|S(予定)
    プレイ人数: 1人
    言語: 日本語、英語、ドイツ語、ポーランド語、簡体字中国語
    ジャンル: 刀鍛冶シミュレーター、テキストベースRPG
    Steam評価: 圧倒的に好評(95% – 944件のレビュー)


    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2305640/Bladesong/
    Epic Games Store: https://store.epicgames.com/ja/p/bladesong-441f44


    公式リンク

    公式サイト: https://mythwright.com/games/bladesong
    X (Twitter):https://x.com/bladesonggame
    Discord: https://discord.gg/SM2jyxt7qM
    Reddit:https://www.reddit.com/r/bladesong/

  • ヒゲを蓄えし戦士たちの軍団、戦場を駆ける!オーストリアの個人開発者が生んだ「時間が溶ける」オートバトラー『ドワーフオートバトル』

    ヒゲを蓄えし戦士たちの軍団、戦場を駆ける!オーストリアの個人開発者が生んだ「時間が溶ける」オートバトラー『ドワーフオートバトル』

    「オートバトルなんてスマホゲーと一緒でしょ?」しかし、『ドワーフオートバトル』は違った。4年の歳月をかけて丹精込められたこの作品は、一見シンプルなゲームデザインの奥に、数百時間遊べる底なしの戦略性とビルドの多様性を隠し持っていた。

    オーストリアの個人開発者Ichbinhamma氏が手がけた本作は、2023年8月の早期アクセス開始から約2年半を経て、2026年1月22日にSteam、iOS、Android、Nintendo Switchで正式リリースを迎えた。Steam版のユーザーレビューは1,762件中82%が好評という「非常に好評」ステータスを獲得。レビューには「気づいたら時間が溶けている」「数百時間プレイしている」という声が散見される、まさに中毒性のあるタイトルだ。

    3人のドワーフから始まる、果てしなき戦いの旅

    本作のゲームループは実にシンプルだ。プレイヤーは新米指揮官として、貧弱な装備しか持たない3人のドワーフと出会う。彼らを装備で強化し、新たな戦士を雇い入れ、次々と押し寄せるオークの軍団を倒していく。戦闘が終わるたびに3つの選択肢が提示され、次の行動を選ぶ。モンスターと戦ってレベルアップするか、装備を購入するか、新たな戦士を雇用するか──。

    だが、このシンプルさこそが罠だった。戦闘はオートで進行するため、プレイヤーがすべきことは戦う前の準備だ。10人までのドワーフ軍団をどう編成するか、誰にどの装備を与えるか、どのフォーメーションを採用するか。この事前準備の段階で、プレイヤーは無限に近い選択肢と向き合うことになる。 <image>

    本作の最大の特徴は「装備がすべてを決める」という点だ。ドワーフたちは与えられた装備によって、タンクにも魔法使いにもアサシンにもなる。固定された職業はなく、プレイヤーの判断次第でどんな役割も演じられる。序盤は質素な装備で苦戦を強いられるが、戦場から集めたゴールドと経験値で徐々に軍団を強化していく。鍛造システムでアイテムを合成し、倉庫システムで装備を管理し、スキルツリーで能力を解放していく。この積み重ねが、やがて数百体のオークを蹂躙する圧倒的な軍団を生み出す。

    装備シナジーこそがすべて!

    正式版では、早期アクセス版から大幅な再構築が施された。開発者のIchbinhamma氏は「職業の役割+装備シナジー+バースト感」を軸に据え、どの流派でも完成時に明確な個性と爽快感を発揮できるよう調整したという。

    装備は6段階のレアリティ(ノーマル、グッド、レア、エピック、レジェンダリー、ミシック)に分かれており、全24種類のセット装備が用意されている。セット装備を揃えれば特殊ボーナスが発動し、軍団の戦闘力が飛躍的に向上する。さらに、バイオームごとに装備のステータスが変化するため、敵の編成や戦場の環境に応じて装備を使い分ける戦略性が求められる。

    フォーメーションも重要な要素だ。ベルセルカーフォーメーションで近接職を強化するか、レンジャーフォーメーションで遠距離攻撃を重視するか、ファランクスフォーメーションで全員の速度を統一するか。最大2つのフォーメーションを同時に発動でき、バフの重ねがけによる爆発的な火力や防御力を実現できる。

    プレイヤーたちの間では「ウォープリーストが最強」「いやビーストマスターこそトップDPS」「ファイアメイジが最高」と論争が絶えない。だが、それこそが本作の魅力だ。どのクラスも装備と編成次第で圧倒的な強さを発揮できる。無限のビルドの可能性が、プレイヤーを飽きさせない。

    個人開発者の4年間が生んだ奇跡

    本作を手がけたIchbinhamma氏は、オーストリア在住のフルタイムインディーゲーム開発者だ。ドワーフとカカポ(絶滅危惧種の鳥)をテーマにしたゲームを制作しており、本作は彼の最新プロジェクトである。

    開発期間は4年に及び、早期アクセス開始からわずか1ヶ月で35,000本を売り上げるという快挙を成し遂げた。その成功の秘訣は、Redditでの早期公開と配信者たちの支援だった。開発開始から4ヶ月後にWebプレイ可能版を公開し、プレイヤーからのフィードバックを積極的に取り入れた。SplatterCatをはじめとする配信者たちが本作を見つけ、「これは脳に何かをしている。続けたくなる」と評価。その「あともう1ターン」という感覚が、多くのプレイヤーを虜にした。

    Ichbinhamma氏は「UI全体の刷新と、元々1つだったカードデッキを3つに分割したこと」が大きな改善だったと語る。プレイヤーからの細かなQoL改善の指摘を実装することで、ゲームの質が劇的に向上したという。開発者としては気づきにくい小さな変更が、プレイ体験を大きく向上させることを実感したそうだ。

    永遠の戦いへ──エンドコンテンツの深淵

    本作の真の魅力は、エンドコンテンツにある。ルーンサークルと呼ばれる永続的なスキルツリーで、ジェムとルーンポイントを消費して基礎ステータスやアルティメットスキルを強化できる。このシステムがあるため、何度敗北しても次のランが確実に強くなっていく。

    しかし、プレイヤーたちが指摘する問題もある。「ジェム集めが長すぎる」「ルーンサークルが高額すぎる」「すべてを解放するには70時間でも足りない」。目標のビルドを完成させるまでに、数十時間の周回が必要になることもある。だが、逆に言えばそれだけ長く遊べるコンテンツが詰まっているということだ。

    正式版では最終ボス「フォージデーモン」が追加され、エターナルバトルモードでは無限に続く戦いに挑戦できる。リーダーボードには6,000ウェーブ以上到達したプレイヤーも存在し、コミュニティでは「10人プリーストビルド」「カカポスタッフ9本+ジン1本」といった極限ビルドが共有されている。

    敵もウェーブが進むにつれて凶悪になっていく。サンダースタッフを持ったオークが後衛を瞬殺し、ハンマーオークがドワーフを吹き飛ばし、毒ダメージで勝利後も戦士が倒れる。ひとつの判断ミスが軍団の壊滅につながる緊張感が、プレイヤーを画面に釘付けにする。

    誰でも楽しめる、でも極めるのは一生かかる

    本作の難易度設定は幅広い。イージーモードでゆっくり学びながら進めるもよし、ハードモードで歯ごたえのある挑戦を楽しむもよし、デスモードで極限の緊張感を味わうもよし。コントローラーとSteam Deckにも対応しているため、どこでも気軽にドワーフ軍団を率いることができる。

    一方で、極めようとすればするほど奥深さが見えてくる。装備のステータスロール、フォーメーションの組み合わせ、敵の行動パターンの学習、ビルドの最適化。シンプルな見た目に反して、本作は驚くほど戦略的なゲームだ。

    Steamのレビューには「70時間プレイしてもまだ全部解放できていない」「数百時間遊んでいる」という声が並ぶ。まさに「時間が溶ける」という表現がぴったりのゲームだ。仕事の合間の息抜きに、と思って起動したら、気づけば数時間が経過している。そんな中毒性が本作にはある。

    ヒゲを蓄え、斧を掲げ、栄光のために!

    『ドワーフオートバトル』は、一見するとシンプルなオートバトラーに見える。だが、その奥には無限のビルドの可能性と、数百時間遊べる深いゲームプレイが隠されている。個人開発者が4年をかけて磨き上げた本作は、ローグライクRPGとオートバトルの融合という新しい体験を提供してくれる。

    装備を整え、軍団を編成し、オークの大軍を蹂躙する。この単純な繰り返しが、なぜこれほど楽しいのか。それは、すべての選択に意味があり、すべての戦いに学びがあり、すべての敗北が次の勝利への糧となるからだ。

    モバイル版とNintendo Switch版も配信されているため、どこでもドワーフ軍団を率いることができる。「あともう1ターン」の誘惑に負けて、数百時間を捧げる覚悟があるなら、ぜひこの戦場に足を踏み入れてみてほしい。

    ヒゲを蓄え、斧を掲げ、栄光と死と戦利品を求めて──。Rock and Stone!

    基本情報

    開発: Hamma Studios (Ichbinhamma)

    販売: Sidekick Publishing, Gamersky Games

    リリース日: 2026年1月22日(正式版)

    早期アクセス開始日: 2023年8月16日

    価格: 1,700円(通常価格)

    プラットフォーム: PC (Steam), iOS, Android, Nintendo Switch

    プレイ人数: 1人

    言語: 日本語対応(全22言語対応)

    ジャンル: オートバトラー, ローグライク, RPG, ストラテジー Steam評価: 非常に好評 (82% – 1,762件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/2205850/_/

    公式リンク

    公式サイト: https://dwarves.ateo.ch

    X (Twitter): https://x.com/KakapoCalypse

    Discord:https://discord.com/invite/kwYUam5zfn

    YouTube: https://www.youtube.com/@ichbinhamma

  • 手動リロード、手動歩行、手動まばたき。『They Killed Your Cat』が問いかける「FPSの原点」とは何か

    手動リロード、手動歩行、手動まばたき。『They Killed Your Cat』が問いかける「FPSの原点」とは何か

    「猫を殺されたという理由で、無抵抗な敵を撃ち続けるゲーム」——そう聞いて、あなたはどんな印象を持つだろうか。筆者も最初は困惑した。しかし実際にプレイしてみると、本作が単なるバイオレンスシューターではなく、FPS操作の「当たり前」を根底から見つめ直す実験的な作品だと気づかされた。

    2026年2月24日、インディーデベロッパーVekariaによってSteamでリリースされた『They Killed Your Cat』は、短くも容赦ない復讐劇を描くFPSだ。タイトル通り、主人公は愛する猫を殺された男。彼が向かうのは、白く無機質なオフィス空間。そこで待ち受けるのは武器を持たず、手を挙げて投降するような仕草を見せる敵たち——だが、容赦はない。

    すべてを「手動」にしたらFPSはどうなる?

    本作の最大の特徴は、通常のFPSでは自動化されている動作のほぼすべてを「手動操作」に置き換えたことだ。リロードはボタン一つで完結しない。マガジンを抜き、新しいマガジンを挿入し、スライドを引く——それぞれが個別のキー操作として要求される。各武器ごとにリロード手順が異なり、ジャミング(弾詰まり)が発生すれば、それもまた手動で解除しなければならない。

    さらに驚くべきは「歩行」の概念だ。通常のゲームではWASDキーで自由に移動できるが、本作では左足と右足を個別に制御する必要がある。つまり、キーを交互に押しながら前進するのだ。慣れないうちはぎこちなく、まるで赤ん坊が歩行を学ぶような感覚になる。

    極めつけは「まばたき」だ。一定時間まばたきをしないと視界がぼやけ始め、最終的には目を閉じざるを得なくなる。その間は完全に無防備だ。現実世界では誰もが無意識に行っている動作を、ゲーム内で意識的に管理しなければならないというシュールさ——これが、本作独特の緊張感を生み出している。

    設定でこれらの手動操作を無効化することもできるが、あえてすべてを手動にする「マニュアルモード」でクリアすると専用の実績が解除される。筆者も挑戦してみたが、リロード中に敵に囲まれ、歩行がおぼつかなくなり、まばたきのタイミングを見失う——その地獄のような体験こそが、本作の真骨頂だと感じた。

    白い廊下、無抵抗な敵、そしてプレイヤーの違和感

    本作の舞台は、ほぼ全編が白く清潔感のあるオフィスビル風の空間だ。蛍光灯が照らす廊下、並ぶデスク、トイレや給湯室——日常的な空間が、復讐劇の舞台となる。敵となるのは、武装していないスーツ姿の人物たちだ。彼らは手を挙げて降伏の意思を示すこともあるが、近づけば襲いかかってくる。

    この設定は賛否を呼んでおり、Steamのレビューでも「不快」「倫理的に問題がある」といった指摘が見られる。実際、筆者も最初のプレイでは違和感を覚えた。しかし、何度かプレイするうちに、この「不快さ」こそが開発者の意図なのではないかと思うようになった。

    本作は、FPSというジャンルが持つ暴力性を、あえて生々しい形で提示する。武装した兵士やゾンビではなく、オフィスにいる「普通の人々」を撃つという行為は、プレイヤーに「自分は今、何をしているのか」という問いを突きつける。それは不快かもしれないが、だからこそ記憶に残る体験となる。

    開発者Vekariaとシンプルな哲学

    本作を手がけたVekariaは、これまでほとんど実績のない新興デベロッパーだ。公式の情報は限られているが、X(旧Twitter)のアカウント@KilledYourCatでは、開発中のスクリーンショットや動画が公開されていた。

    興味深いのは、Vekariaが本作で「シンプルさ」を追求している点だ。グラフィックはローポリゴンで、UIは最小限。ストーリーも最低限しか語られない。だが、その引き算の美学が、逆に操作の複雑さや緊張感を際立たせている。

    本作は1.61GBという軽量なファイルサイズで、最低要件もIntel Core i5、4GB RAM、NVIDIA 970相当と控えめだ。誰でも気軽にプレイできる一方で、その内容は決して「カジュアル」ではない。この対比もまた、本作の魅力の一つだろう。

    プレイヤーの反応:賛否両論の中で見えるもの

    Steamでの評価は「やや好評」で、355件のレビュー中72%が肯定的だ。肯定的なレビューでは「独特の操作が新鮮」「短いが濃密な体験」「手動操作が思ったより楽しい」といった声が目立つ。

    一方、否定的なレビューでは「内容が薄い」「同じ廊下の繰り返しで飽きる」「倫理的に不快」「これは『Trepang 2』や『I Am Your Beast』の劣化版だ」といった意見が見られる。特に比較されがちなのが、同じく復讐をテーマにしたFPS『Trepang 2』だが、本作はそれとは異なるアプローチを取っている。

    開発者はコミュニティからのフィードバックを積極的に受け入れており、リリース直後から複数回のアップデートを実施している。ハンマーなどの近接武器の追加、新たなギミック、UIの改善など、着実に進化を続けている点は評価したい。

    実績システムとリプレイ性

    本作には15の実績が用意されており、いずれもゲームのメカニクスに関連したものだ。「火災報知器を作動させる」「立ち式デスクを操作する」「トイレを流す」といった環境インタラクションから、「目を閉じたまま敵を倒す」「1000歩を踏む」「完全手動モードでクリアする」といった高難度のものまで幅広い。

    特に「FLUSH MASTER」(すべてのトイレを流す)は、マップ探索を促す実績として機能している。本作は一本道のように見えて、実はいくつかのルートやサイドルームが存在する。これらを見逃すと実績を取り逃がすことになるため、2周目以降のモチベーションにもなっている。

    また、「MANUAL AVENGER」(完全手動モードでクリア)は真のチャレンジだ。筆者も挑戦したが、リロードと歩行を同時に管理しながら敵の波をかわすのは、想像以上に困難だった。だが、達成したときの達成感はひとしおだ。

    短いが密度の濃い体験——プレイ時間と価格のバランス

    本作のプレイ時間は、通常モードで30分から1時間程度。手動モードでも2時間あればクリアできるだろう。これを「短すぎる」と見るか、「密度が濃い」と見るかは、プレイヤー次第だ。

    定価800円で購入できる。この価格帯であれば、実験的な作品としては妥当だと筆者は感じた。2時間のプレイ時間で得られる体験の濃さを考えれば、決して高くはない。

    ただし、長時間遊べるゲームを求めている人には向かない。本作はあくまで「短編映画」のような立ち位置だ。一度のプレイで強烈な印象を残し、プレイヤーの記憶に刻まれる——そういうタイプのゲームである。

    FPSの「当たり前」を疑う勇気

    『They Killed Your Cat』は、決して万人向けのゲームではない。暴力的な設定、不快感を伴うテーマ、実験的な操作——これらはすべて、プレイヤーを選ぶ要素だ。

    だが、だからこそ価値がある。本作は、FPSというジャンルが長年積み重ねてきた「快適さ」や「自動化」を一度解体し、「もし全てが手動だったら?」という問いを投げかける。その答えは不便で、不快で、時に滑稽だが、同時に新鮮で、緊張感があり、記憶に残る。

    Steamのレビューで「これはゲームなのか、それともアートプロジェクトなのか」と問う声があったが、筆者はその両方だと思う。ゲームとしての面白さと、メッセージ性を持つアート作品としての側面——その両立こそが、本作の最大の魅力だ。

    もしあなたが、いつものFPSに飽きているなら、あるいは「ゲームとは何か」を考えるきっかけが欲しいなら、『They Killed Your Cat』は試してみる価値がある。猫を殺された男の復讐劇は、きっとあなたの記憶に刻まれるはずだ。


    基本情報

    開発: Vekaria
    販売: Vekaria
    リリース日: 2026年2月24日
    価格: 800円
    プラットフォーム: Steam
    プレイ人数: 1人(シングルプレイヤー)
    言語: 英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポーランド語、ポルトガル語(ブラジル)、中国語(簡体字・繁体字)、日本語、韓国語、ロシア語
    ジャンル: FPS、アクション、シミュレーション、カジュアル、インディー
    Steam評価: やや好評(72% – 355件のレビュー)

    購入リンク

    Steam: https://store.steampowered.com/app/3489420/They_Killed_Your_Cat/

  • 完全無料なのにここまでできるの!? ソロ開発者が贈る物理演算カオスCoopゲーム『Delivery &Beyond』

    完全無料なのにここまでできるの!? ソロ開発者が贈る物理演算カオスCoopゲーム『Delivery &Beyond』

    「無料のインディーゲームって実際そんなに遊べるの?」しかし、『Delivery & Beyond』は違った。ソロ開発者FailCakeが完全無料でリリースしたこのゲームは、リリースからわずか数日でSteamレビュー89%という驚異的な評価を獲得。TikTokやRedditでバズったその理由を、実際にプレイして確かめてみた。

    配達?いいえ、カオスです

    本作は最大5人でプレイできるオンライン協力ゲームで、プレイヤーは怪しい配達会社「&Beyond」の社員となる。会社からの指示は明確だ。「契約を取れ。配達しろ。ノルマを達成しろ」。しかし、肝心の「どうやって」については一切説明がない。

    ゲームが始まると、プレイヤーはオープンワールドマップ上に配置された様々な建物に侵入し、家具や電化製品などをかき集めて「Delivery Maker 3000」という謎のマシンに投げ込む。すると、集めたガラクタが配達用パッケージに変換され、それを指定された場所に届ければミッション完了というわけだ。

    問題は、そのプロセスが想像以上にカオスだということ。建物への正規の入り口なんて使わない。窓をぶち破り、壁を突き破り、時には屋根から侵入する。椅子を投げ、机を破壊し、パソコンを粉々にする。そして警察が来る前に逃げ出す。これはもはや配達ではなく、強盗だ。

    プロップサーフィンこそがすべて!

    本作の最大の特徴は「プロップサーフィン」と呼ばれる移動システムだ。これは、ゲーム内のあらゆる物体に乗って移動できる物理演算ベースのメカニクスで、ファイルキャビネット、樽、オフィスチェア、果てはドラム缶まで、立てる物なら何でも乗り物になる。

    実際の操作は単純だ。物体を掴み、その上に立ち、そのまま投げる。すると物体が飛んでいく方向にプレイヤーも一緒に飛ばされる。これを使えば、橋のない深い谷を越えたり、高い壁を乗り越えたり、時には建物の屋上まで一気に到達できる。

    問題は、物理演算が予測不可能だということ。椅子に乗って華麗に谷を飛び越えたと思ったら、着地に失敗して奈落の底へ真っ逆さま。仲間が投げた机に轢かれて即死。自分が投げたドラム缶が跳ね返って自爆。マルチプレイでは、こうした予期せぬ事故が笑いを誘う。

    Garry’s Modのような物理サンドボックスの自由度と、Lethal Companyのような協力プレイの緊張感が見事に融合している。Reddit上では「友達と遊んだら3時間があっという間だった」「無料ゲームとは思えないクオリティ」といったコメントが溢れている。

    吸引、破壊、そして配達

    各プレイヤーは特殊な掃除機のようなツールを装備しており、これであらゆる物体を吸い込める。小さなゴミ箱から巨大な冷蔵庫まで、サイズは関係ない。すべて吸い込んで、スクラップに変換し、Delivery Maker 3000に投入する。

    ゲームの基本ループはシンプルだ。契約を受ける → 建物に侵入 → スクラップを集める → 配達用パッケージを作成 → 脱出 → ノルマ達成。しかし、各ステージには時間制限があり、さらに様々な敵や罠が待ち構えている。

    敵の種類も多彩で、警備員、自動砲台、謎の生物など、ステージごとに異なる脅威が登場する。これらから逃げながら、仲間と協力してスクラップを集め、制限時間内に脱出する。一見単純だが、プロップサーフィンによる予測不可能な動きが加わることで、毎回異なる展開が生まれる。

    ソロ開発者の情熱が生んだ奇跡

    『Delivery & Beyond』の開発者はFailCakeという名のソロインディー開発者だ。GitHubのプロフィールには「ただのクレイジーな開発者」とだけ書かれており、本作以外にもUnity向けのツールやゲームエンジンの開発を手掛けている技術者だ。

    実は本作、2022年のGitHub Game Jamで初めてプロトタイプが公開されており、約3年の開発期間を経て2026年1月27日に正式リリースされた。開発者自身が「ソロ開発だからできることには限界がある」とコミュニティに投稿しているが、その限界を感じさせない完成度に多くのプレイヤーが驚いている。

    特筆すべきは、本作が完全無料で提供されており、マイクロトランザクションや広告も一切ないという点だ。開発者はBlueskyで「自分のおかしなハイエナゲームをプレイしてくれてありがとう。本当にモチベーションになる」と感謝のメッセージを投稿。コミュニティの応援を受けて、今後もコンテンツ追加とバグ修正を続けていく予定だという。

    Steam史上最高の無料ゲーム体験

    本作は2026年2月初旬にバズり、ScreenRantが「Steamの新作無料ゲームが高評価すぎて信じられない」という見出しで記事を掲載したことで一気に注目を集めた。発売から1ヶ月で600件以上のレビューを集め、その89%が好評という数字は、無料ゲームとしては異例の高評価だ。

    ゲームの長所は明確だ。完全無料、友達と最大5人で遊べる、物理演算によるカオスな展開、プレイごとに異なる体験、そして何よりソロ開発者の情熱。一方で短所もある。日本語非対応、チュートリアルが不親切、時々発生するバグ、そしてあまりに自由すぎて何をすればいいか分からなくなることがある。

    しかし、それでも本作は「友達を誘ってとりあえず遊んでみる」価値が十分にある。無料なので試すリスクはゼロ。週末の数時間を仲間と笑いながら過ごすには完璧なゲームだ。

    Lethal CompanyやR.E.P.O.が好きな人、物理演算ゲームが好きな人、とにかくカオスな協力プレイを楽しみたい人にオススメしたい。『Delivery & Beyond』は現在Steamで無料配信中。ダウンロードすれば永久に遊べるので、この機会を逃す手はない。

    基本情報

    開発: FailCake
    販売: FailCake
    リリース日: 2026年1月27日
    価格: 無料
    プラットフォーム: Steam (Windows, Mac, Linux)
    プレイ人数: 1-5人(最大15人まで可能)
    言語: 英語のみ
    ジャンル: 協力プレイ / 物理演算 / カオス / アクション
    Steam評価: 非常に好評(89% – 602件のレビュー)

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    Steam

    公式リンク

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    Bluesky

  • 記憶の中の中国へ、カメラ片手にタイムスリップ! 歩いて、撮って、懐かしむウォーキングシミュレーター『Millennium Dream』

    記憶の中の中国へ、カメラ片手にタイムスリップ! 歩いて、撮って、懐かしむウォーキングシミュレーター『Millennium Dream』

    「ただ歩くだけのゲーム」って、面白いのか? 

    2026年1月27日にSteamでリリースされた『Millennium Dream』は、中国の個人デベロッパーLucidDreamLabが手がけた、ウォーキング&写真撮影シミュレーター。本作の舞台は、1990年代から2000年代初頭の中国。プレイヤーはカメラを手に、誰もいない街や学校、祖母の家など、”あの頃”の記憶を切り取られた空間を自由に歩き回る。

    ジャンプスケアもタスクリストもない。あるのは、かつて当たり前だったけれど、今はもうどこにもない「あの日常」の断片だけ。Steam評価は93%と「圧倒的に好評」を記録し、中華圏を中心に「涙が止まらない」「祖父母を思い出した」と感動の声が続出している。

    筆者自身、最初は「中国のノスタルジーゲーム? 文化が違うし共感できるかな……」と半信半疑だったのだが、実際にプレイしてみると、国境を越えて心に響く何かがあった。懐かしさは、万国共通の感情なのだと実感した体験をお届けしよう。

    「中式夢核(チャイニーズ・ドリームコア)」という美学

    本作を語る上で欠かせないのが、「中式夢核(チャイニーズ・ドリームコア)」という独特の美的概念だ。これは、1990年代から2000年代初頭の中国の日常風景を、夢のようなフィルターを通して再構築した視覚表現のこと。

    具体的には、色あせたトタン屋根の集合住宅、薄暗い校舎の廊下、古ぼけた遊園地、商店街の湿った空気感……といった、かつて中国の都市部で当たり前だった光景を、人の気配を消した状態で描き出す。そこに「リミナルスペース(liminal space)」の要素が加わることで、懐かしさと不気味さが同居する独特の雰囲気が生まれる。

    リミナルスペースとは、「境界空間」を意味する概念で、通常は人で賑わっているはずの場所が無人になっている状態を指す。空港の待合室、廃墟になった学校、誰もいないショッピングモール……こうした空間は、「ここに人がいたはずなのに」という違和感と、「確かに見覚えがある」という既視感が入り混じり、妙な感覚を呼び起こす。

    『Millennium Dream』では、この「中式夢核」と「リミナルスペース」が見事に融合している。プレイヤーは、まるで夢の中を彷徨うように、かつての日常風景を歩き回ることになる。そこには誰もいないのに、確かに「生活の痕跡」が残っている。黒板に残された落書き、布団が敷かれたままのベッド、テーブルの上に置かれた使いかけの文房具……。

    日本人の筆者にとっても、どこか懐かしい。校舎の造りは違うけれど、「放課後の誰もいない教室」の空気感は共通している。祖母の家の間取りは異なるけれど、古い家具や小物に漂う「時間の重み」は同じだ。文化は違えど、人が生きた痕跡が持つ温もりは、万国共通なのだと気づかされる。

    カメラフィルターで「あの頃」を切り取る

    本作の核となるのが、写真撮影システムだ。プレイヤーは常にカメラを携帯しており、気になった風景や小物を自由に撮影できる。

    カメラには複数のフィルターが用意されている。携帯電話の荒いグレインフィルターで、2000年代初頭のガラケー写真のような粗い質感を再現したり、ハイコントラストな白黒フィルムで光と影の対比を強調したり。フィルター選びによって、同じ風景でも全く異なる印象の写真が撮れる。

    筆者が特に気に入ったのは、モノクロフィルターだ。色彩を排除することで、かえって「記憶の中の風景」らしさが増す。人間の記憶は、時間が経つほど色彩が薄れていくもの。白黒写真は、そんな「色あせた記憶」を視覚化してくれる。

    また、撮影した写真はコレクションとして保存され、いつでも見返すことができる。ゲームを進めるうちに、自分だけの「思い出アルバム」が完成していく感覚が心地よい。

    さらに面白いのが、インタラクティブオブジェクトの存在だ。古いぜんまい式のブリキのカエル、子犬の形をした目覚まし時計、黄ばんだ貯金箱……こうした小物は、手に取って回転させたり、動かしたりできる。ぜんまいを巻くと、カエルがピョコピョコ跳ねる。目覚まし時計のアラームをセットすると、懐かしい音が鳴る。

    これらの小物ひとつひとつに、「時間の痕跡」が刻まれている。錆びた部分、色あせた塗装、使い込まれた質感……。そうした細部の描写が、かつて誰かがこれを使っていた、という「人の温もり」を感じさせてくれる。

    天候と時間を自在に操る「記憶の再構成」

    『Millennium Dream』の最も独創的な要素が、天候と時間帯を自由に変更できるシステムだ。

    セミの声が響く夏の午後が、一瞬にして雪景色に変わる。土砂降りの夕暮れが、瞬く間に霧がかった朝に変わる。同じ場所でも、天候や時間帯によって全く異なる表情を見せる。

    このシステムが素晴らしいのは、「記憶の再構成」を体験できる点だ。人の記憶は、その時の気分や感情によって、同じ場所でも異なる印象を持つ。雨の日の学校は物悲しく、晴れた日の公園は開放的に感じる。『Millennium Dream』では、プレイヤー自身が天候と時間を選ぶことで、「自分の中の記憶」に最も近い風景を作り出せる。

    筆者は、夕暮れ時の校舎が特に好きだった。オレンジ色の夕日が差し込む教室、長く伸びる影、どこか寂しげな空気感……。「もうすぐ日が暮れる」という時間の流れが、「もう二度と戻らない」という喪失感と重なり、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

    多様な風景が織りなす「記憶のパッチワーク」

    本作には、複数のステージが用意されている。トタン屋根の農村地帯から、高層マンションが立ち並ぶ都市部まで、中国の様々な地域の風景が再現されている。

    興味深いのは、プレイヤーの出身地や育った環境によって、「刺さる」場所が異なる点だ。Steam レビューでは、「祖母の家そっくりで泣いた」「通っていた小学校とそっくり」「自分が住んでいた団地と同じ造りで鳥肌が立った」といった声が多数寄せられている。

    日本人の筆者にとっては、むしろ「異国の記憶を追体験する」という新鮮さがあった。中国特有の建築様式、看板のデザイン、街並みの雰囲気……。知らない国の過去を垣間見ることで、「ノスタルジーは文化を超える」という発見があった。

    特に印象的だったのが、廃墟と化した遊園地のステージだ。錆びついた観覧車、動かなくなったメリーゴーランド、色あせたペンキ……。かつてここに子供たちの笑い声が響いていたはずなのに、今は静寂だけが支配している。この「失われた賑やかさ」が、かえって記憶を呼び覚ます。

    各ステージには、隠された「入口」が存在する。それを見つけると、季節や風景が異なる別のエリアに移動できる。この探索要素が、ただ歩くだけのゲームに程よいアクセント を加えている。「次は何が見つかるだろう」というワクワク感が、プレイを前に進ませてくれる。

    Steam評価93%、中華圏で大ヒット

    リリースから約1か月で、本作のSteam評価は93%「圧倒的に好評」を記録。レビュー数は1,900件を超え、そのうち約97%が中国語圏のユーザーだという。

    レビューには、「ただ歩いているだけなのに涙があふれて止まらない」「本当に短い夢を見ているようだった」「懐かしさで涙があふれる」「思い出よ、さようなら」といった、感動の声が並ぶ。

    興味深いのは、若い世代のプレイヤーも多い点だ。実際には1990年代や2000年代を経験していないZ世代も、本作を通じて「親の世代が生きた時代」を追体験している。ある中国のGen Zプレイヤーは、「自分は2010年生まれだけど、なぜかこの風景に懐かしさを感じる。20年早く生まれていたら、もっと幸せだったかもしれない」とコメントしている。

    これは、中国で「中式夢核」がブームになっている背景とも関連している。急速な経済発展と都市化により、かつての街並みや生活様式が次々と失われていく中で、若い世代は「失われた黄金時代」への憧憬を抱いているのだ。『Millennium Dream』は、そうした集合的な郷愁を、ゲームという形で具現化している。

    日本人プレイヤーからも、「国が違うのでピンとこない要素もあるが、人生という大意において通じるところも多数あり、隣の国の人生を通じて、もう何年も思い出すことのなかった少年時代を思い返すことができた」「知らない国の思春期を体験することができるゲームとして、とても新鮮だった」といった感想が寄せられている。

    コミュニティと共に成長するゲーム

    開発者のLucidDreamLabは、リリース後も継続的にアップデートを実施している。2026年2月の春節アップデートでは、赤い提灯、春聯(春節の飾り)、切り絵の窓飾りなど、旧正月の装飾が各所に追加された。

    さらに、コミュニティから投稿された写真を実際にゲーム内に追加する取り組みも行われている。プレイヤーたちが撮影した「思い出の一枚」が、ゲーム世界の一部となることで、『Millennium Dream』はまさに「みんなの記憶」で構成された空間へと進化している。

    また、実績システムも追加され、隠された場所を発見したり、特定の条件を満たすことで解除されるアチーブメントが18種類用意された。これにより、単に歩くだけでなく、探索する楽しみも生まれている。

    無料の音楽DLCも準備中で、プラットフォームの審査待ちとのこと。開発者の「プレイヤーと共にゲームを育てていく」姿勢が、高評価につながっているのだろう。

    技術的な注意点

    ひとつ注意が必要なのは、本作はアップスケーリング(解像度の引き上げ)を前提に設計されている点だ。ネイティブ解像度での動作も可能だが、フレームレートが大幅に低下する可能性がある。開発者は、通常のプレイではアップスケーリングを有効にすることを推奨している。

    また、一部のレビューでは「翻訳が不完全」という指摘もある。日本語にも対応しているが、中国語からの機械翻訳と思われる箇所もあり、ニュアンスが伝わりづらい部分も。Google Lensなどの翻訳ツールを併用すると、より理解が深まるだろう。

    グラフィックについては、最新のAAAタイトルと比べれば質素だが、それが逆に「記憶の中の風景」らしさを演出している。過度にリアルすぎると、かえってノスタルジーが損なわれる。本作の柔らかく、どこか曖昧なビジュアルは、「思い出は美化される」という人間の記憶の性質を巧みに利用している。

    静かに、深く、心に響く体験

    『Millennium Dream』は、派手なアクションもなければ、複雑なパズルもない。ただ歩いて、見て、撮る。それだけのゲームだ。

    でも、だからこそ、心に深く響く。

    現代のゲームは、つねにプレイヤーに「やるべきこと」を提示する。クエストをクリアし、敵を倒し、レベルを上げ、アイテムを集める。それはそれで楽しいのだが、時には疲れることもある。

    『Millennium Dream』には、そうした「ゲームらしさ」がない。プレイヤーは何も達成しなくていい。ただ、自分のペースで歩き、心に響く風景を見つけ、カメラに収める。それだけでいい。

    この「何もしなくていい」という自由が、逆説的に、深い没入感を生み出している。現実世界でも、私たちはつねに「やるべきこと」に追われている。『Millennium Dream』は、そんな日常から離れて、ただ「存在する」ことを許してくれる稀有なゲームだ。

    プレイ中、筆者は何度も立ち止まった。夕焼けに染まる校舎を眺め、雨音を聞き、誰もいない教室の空気を感じた。そして、自分の記憶の中にある「似た風景」が、ゆっくりと浮かび上がってきた。

    小学校の帰り道、友達と遊んだ公園、祖母の家の縁側……。『Millennium Dream』が描くのは中国の風景だけれど、それを見ているうちに、筆者の中にある「日本の記憶」が呼び覚まされた。

    ノスタルジーは、特定の場所や文化に縛られない。人が生きた痕跡、時間の重み、失われた日常への憧憬……そうした普遍的な感情は、国境を越えて共有できる。『Millennium Dream』は、そのことを静かに、しかし確かに教えてくれる。

    もしあなたが、かつての日常を懐かしむことがあるなら。もしあなたが、「あの頃に戻りたい」と思うことがあるなら。『Millennium Dream』は、その願いを少しだけ叶えてくれるかもしれない。

    カメラを手に、記憶の中の風景を歩いてみませんか?


    基本情報

    ゲーム名: Millennium Dream(千禧梦)
    開発: LucidDreamLab
    パブリッシャー: LucidDreamLab
    リリース日: 2026年1月27日
    プラットフォーム: PC (Steam)
    価格: 920円(税込)
    対応言語: 日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、スペイン語、ロシア語ほか全8言語
    ジャンル: ウォーキングシミュレーター、写真撮影、アドベンチャー
    プレイ時間: 2〜4時間
    難易度: なし(探索型)
    Steam評価: 93% 圧倒的に好評(1,900件以上のレビュー)

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  • 極北のコンビニで夜勤バイト。昼は接客、夜は……怪物?『HELLMART』で7日間のサバイバルが始まる

    極北のコンビニで夜勤バイト。昼は接客、夜は……怪物?『HELLMART』で7日間のサバイバルが始まる

    「ただのコンビニバイトだろ?」……と舐めていたら……

    Steamのストアページで『HELLMART』を初めて見たとき、正直「またスーパーマーケット系シミュレーターか」と思った。ここ数年、レジ打ちや品出しをするだけのゲームが乱立していたからだ。

    しかし、この『HELLMART』は違った。24時間営業のコンビニで働く夜勤バイトという設定、極北の地という舞台、そして何より──「夜になると、奇妙な客が来る」という一文。これは、ただの経営シミュレーションではない。

    開発は、GAZE IN GAMESというスタジオ。創業者のOleg Gazeが率いる新進気鋭のチームで、本作が実質的なデビュー作となる。2026年1月28日に正式リリースされ、Steam評価は767件のレビューで75%が好評という「やや好評」の評価を獲得している。

    ジャンルとしては「ホラーシミュレーション」。昼間は普通のコンビニバイト、夜は超常的な脅威に立ち向かうサバイバルホラーという二面性が特徴だ。価格は1,700円で、デモ版も無料配信されている。

    昼は接客業、夜はサバイバル──二つの顔を持つゲームループ

    『HELLMART』のゲームプレイは、明確に「昼」と「夜」に分かれている。

    昼間のシフト:ひたすら接客とレジ打ち

    昼間の仕事は至ってシンプル。来店する客に商品を販売し、売上目標を達成する。レジ打ち、商品の補充、店内清掃、そして客への丁寧な対応──これらすべてが評価対象となる。

    ここで重要なのが、「客に失礼な態度を取らない」というルール。どんなに忙しくても、どんなに変な客が来ても、昼間は笑顔で接客しなければならない。実はこれ、夜のサバイバルにも直結する重要な要素なのだ。

    売上目標を達成できなければ、店のアップグレードに必要な資金が得られない。逆に、しっかりと売上を立てれば、夜間の防衛に必要な設備を購入できる。この「稼ぎ」と「生存」のバランスが、本作の戦略性を生み出している。

    夜間のシフト:監視カメラと発電機が命綱

    日が沈むと、店の様相は一変する。

    まず、夕方の時間帯に準備作業が必要だ。発電機の燃料チェック、ドアへのバリケード設置、防犯カメラの動作確認、そして防衛用アイテムの購入。これらを怠ると、確実に夜を乗り切れない。

    夜間、最も重要なのは「誰を店内に入れるか」の判断だ。深夜に来店する客の中には、人間に擬態した「何か」が紛れ込んでいる。見た目は普通の客だが、よく観察すると微妙に動きがおかしかったり、不自然な笑顔を浮かべていたりする。

    この判断を誤ると──つまり、怪物を店内に入れてしまうと──命の危険に晒される。逆に、普通の客を締め出してしまうと、その客の運命は……まあ、想像に難くない。

    プレイヤーの選択が客の生死を左右する。このモラル的ジレンマが、『HELLMART』のホラー要素をさらに深めている。

    隠れたシステムが生み出す緊張感──「見えないプレッシャー」の正体

    『HELLMART』の恐怖は、ジャンプスケアだけではない。むしろ、ゲームが明示しない「隠れたシステム」こそが、プレイヤーを真綿で首を絞めるように追い詰めていく。

    コミュニティの検証によれば、本作には少なくとも3つの隠しパラメータが存在する。

    1. 時間プレッシャー
    営業時間を延長すればするほど、異常現象の発生頻度が上がる。売上を伸ばしたい気持ちと、早く店を閉めたい恐怖のせめぎ合いだ。

    2. ノイズレベル
    商品を落としたり、慌てて動き回ったりすると、「何か」を引き寄せてしまう。静かに、慎重に行動することが生存率を上げる。

    3. ストレスメーター
    タスクを放置したり、ミスを重ねたりすると、主人公の反応速度が鈍くなる。画面には表示されないが、確実にプレイヤーを不利にしていく。

    これらのシステムは、ゲーム内で一切説明されない。プレイヤーは試行錯誤を繰り返す中で、「なぜか今日は敵が多い」「なぜか反応が遅れる」と感じ、自然とゲームのルールを学んでいく。

    この「暗黙のルール」こそが、『HELLMART』独特の緊張感を生み出している。

    3つのエンディング──あなたの選択が結末を決める

    『HELLMART』は7日間のキャンペーンモードで構成されており、プレイヤーの行動によって3つ(一部情報では4つ)の異なるエンディングが用意されている。

    • グッドエンディング:客を守り抜き、すべてのルールを遵守した場合
    • バッドエンディング:自己保身に走り、客を見捨てた場合
    • シークレット/トゥルーエンディング:特定の条件を満たした場合(詳細は伏せる)

    重要なのは、「どのエンディングが正解」ということではない。『HELLMART』は、プレイヤーに道徳的な選択を迫る。生き延びるために客を見捨てるのか、それとも人間性を守り抜くのか。

    この選択の重みが、単なるホラーゲームを超えた体験を生み出している。

    賛否両論の評価──「期待と現実のギャップ」が生んだ批判

    Steam評価75%という数字は、決して低くはない。しかし、「圧倒的に好評」とも言い難い微妙なラインだ。

    主な批判点は以下の3つ。

    1. グラフィックのダウングレード
    トレイラーで見せた美しいライティングや商品の質感が、製品版では劣化していると指摘する声が多い。特にロシア語圏のレビューで顕著だ。

    2. 夜間パートが短すぎる
    昼間の単調な作業に対して、夜の恐怖体験が物足りないという声。期待していたホラー要素が薄いと感じるプレイヤーも。

    3. 反復作業の多さ
    7日間同じことを繰り返すだけで、新しい展開が少ない。リプレイ性を謳っているが、実際には変化に乏しいという批判。

    一方で、擁護する声も少なくない。「この価格でこのクオリティなら十分」「雰囲気だけで元が取れる」「続編やアップデートに期待」といった肯定的な意見も目立つ。

    似て非なるゲーム──『僕、アルバイトォォ!!』との比較

    コンビニを舞台にしたゲームとして、『僕、アルバイトォォ!!』との比較は避けられない。

    『僕、アルバイトォォ!!』は、迷惑客をバールで殴り飛ばすコメディアクション。ネットミームを多用し、笑いを重視した作品だ。価格も700円と非常に安い。

    対して『HELLMART』は、真面目にホラー体験を追求している。笑いではなく、恐怖と緊張感。そして、プレイヤーの選択に意味を持たせている。

    どちらが優れているかではなく、どちらを求めているかだ。気軽に笑いたいなら『僕、アルバイトォォ!!』、じっくりと恐怖に浸りたいなら『HELLMART』。同じコンビニでも、まったく異なる体験が待っている。

    Silent Hillとスーパーマーケットシミュレーターの融合

    海外メディアGameSpewは、『HELLMART』を「Silent Hillとスーパーマーケットシミュレーターの融合」と評した。的確な表現だと思う。

    『Silent Hill』シリーズが持つ、日常に潜む狂気。普通の街が、普通のコンビニが、夜になると別の顔を見せる。その恐怖は、派手なモンスターではなく、「いつもと何かが違う」という微細な違和感から生まれる。

    『HELLMART』も同じアプローチを取っている。昼間の平凡な接客業が、夜には生死を賭けたサバイバルに変わる。この落差こそが、本作最大の魅力だ。

    GameSpewのレビュアーは、デモ版をプレイした後、「着替えを持ってくるべきだった」とコメントしている。それほどまでに、本作の恐怖は予想外だったのだろう。

    極北の孤独──ロケーションが生み出す絶望感

    『HELLMART』の舞台は、極北の地にある24時間営業のコンビニ。周囲は雪と森に囲まれ、最も近い街まで何キロも離れている。

    この「孤立」こそが、ゲームの恐怖を増幅させている。助けは来ない。逃げる場所もない。ただひたすら、7日間を生き延びるしかない。

    実際、ゲーム内では「なぜこの仕事を選んだのか」という主人公の動機が語られる。都会の喧騒から逃れたい。人と関わりたくない。簡単に稼げると思った──そんな理由で極北へ来たのだ。

    しかし、現実は甘くなかった。人里離れた場所だからこそ、「人間以外のもの」が跋扈する。皮肉にも、人を避けた結果、もっと恐ろしいものと向き合うことになったのだ。

    デモ版で試せる「最初の3日間」

    製品版の購入を迷っているなら、まずデモ版をプレイすることを強く推奨する。

    デモ版では、最初の3日間(3シフト)を無料で体験できる。昼間の接客業務から、夜間のホラー要素まで、ゲームの核心部分はすべて含まれている。

    デモ版のSteam評価は712件で87%が好評──製品版よりも高い評価だ。これは、デモの範囲内では非常に完成度が高いことを示している。逆に言えば、製品版の低評価は「デモ以降の展開が期待外れ」という声が多いのだろう。

    デモ版をプレイして、この雰囲気が気に入ったなら購入する。それで十分だと思う。

    日本語完全対応──ローカライズの質も高い

    『HELLMART』は、インターフェース、音声、字幕すべてが日本語対応している。しかも、ローカライズの質が非常に高い。

    ホラーゲームにおいて、言語の壁は致命的だ。微妙なニュアンスや、不気味な台詞の意味が理解できなければ、恐怖は半減する。

    その点、『HELLMART』の日本語訳は秀逸だ。客の不自然な会話、主人公の内面描写、ゲーム内の指示──すべてが自然な日本語で表現されている。

    対応言語は全15言語。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語など、主要言語はすべて網羅している。グローバル市場を意識した、本格的なインディータイトルだ。

    アップデートと今後の展開

    GAZE IN GAMESは、発売後も継続的にアップデートを行っている。コミュニティの声に耳を傾け、バランス調整やバグ修正を実施している姿勢は評価できる。

    公式Discordサーバーも活発で、開発者が直接プレイヤーと交流している。これは、インディースタジオならではの強みだ。

    今後のアップデートで期待されるのは、以下の要素だ。

    • 夜間パートのボリューム追加
    • 新しいエンディングルート
    • グラフィックの改善
    • 新しい敵タイプの追加
    • ニューゲームプラス要素

    特に、「ニューゲームプラス」の実装を望む声は多い。7日間クリア後、より高難度でやり込める要素があれば、リプレイ性は格段に向上するだろう。

    結論──「未完成の傑作」か「期待外れの凡作」か

    『HELLMART』は、賛否が真っ二つに分かれるゲームだ。

    雰囲気、設定、コンセプト──これらは間違いなく一級品。極北のコンビニという舞台設定、昼夜で変わるゲーム性、選択による分岐エンディング。すべてが魅力的だ。

    しかし、ボリューム不足、反復作業の多さ、グラフィックの劣化──これらの欠点も無視できない。「もっとコンテンツがあれば」「もっと夜が怖ければ」という声は、正当な批判だと思う。

    筆者の結論は、こうだ。

    「この価格で、このコンセプトを体験できるなら、買って損はない」

    確かに、100時間遊べるゲームではない。しかし、『HELLMART』にしか味わえない体験がある。極北のコンビニで、7日間を生き延びるという緊張感。客を救うか、見捨てるかという選択。そして、夜の静寂に潜む恐怖。

    これらは、他のゲームでは決して味わえない。

    もしあなたが、「雰囲気重視のホラーゲーム」が好きなら、『HELLMART』は試す価値がある。完璧ではないが、唯一無二の体験が待っている。

    まずはデモ版から。そして、極北の夜を生き延びてほしい。


    基本情報

    タイトル: HELLMART
    開発: GAZE IN GAMES
    パブリッシャー: GAZE IN GAMES
    リリース日: 2026年1月28日
    プラットフォーム: PC (Steam)
    価格: 1,700円
    日本語対応: あり(インターフェース/音声/字幕すべて対応)
    プレイ人数: 1人
    ジャンル: ホラー、シミュレーション、アドベンチャー、サバイバルホラー
    Steam評価: やや好評 (75% / 767件のレビュー)
    プレイ時間: 3-5時間(1周)

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  • 処刑ボタンを押したら負け。5日間の選択が良心を試す『イツカノヨル』

    処刑ボタンを押したら負け。5日間の選択が良心を試す『イツカノヨル』

    「押したら負け」──

    目の前には赤い処刑ボタン。そしてわずか5日後に死刑執行が決まった竜族の少女。彼女が何か怪しい動きをしたら、危害を加えてきたら、いつでもこのボタンを押せばいい。即座に処刑が執行される。

    PC(Steam)向けゲーム『イツカノヨル』は、こんな極限の状況から始まるマルチエンド方式のノベルゲームだ。2023年10月にUnityroomで公開され、総プレイ回数30万回以上を記録した話題作が、2026年1月29日、フルボイス化や新エンディング追加などの大幅パワーアップを遂げてSteamに登場した。

    「いつでも押せる」という重圧

    ゲームのルールはシンプルだ。プレイヤーは死刑囚となった竜族の少女・ミラの看守として、5日間を過ごす。村を焼き払ったという罪で捕らえられた彼女は、呪われた存在とされる竜族。安全のため、プレイヤーの目の前には常に「処刑ボタン」が置かれている。

    このボタンは会話の途中だろうと、いつでも、何度でも押すことができる。少女が何か言いかけた瞬間に押してもいいし、最初から押してもいい。選択肢を選ぶ前に押してもいい。完全な自由がある。

    しかし、この「いつでも押せる」という状況こそが、プレイヤーの良心を試してくる。最初は警戒心MAXで臨んだ筆者も、彼女との会話を重ねるうちに徐々に迷いが生じてきた。「本当に彼女は危険なのか?」「村を焼いたというのは本当なのか?」そして何より「この子を殺していいのか?」と。

    1プレイ約5分の濃密な心理戦

    本作の特徴は、1回のプレイ時間が約5分という短さにある。しかしこの5分間が、驚くほど濃密だ。ミラとの会話、選択肢の選択、そして処刑ボタンを「押す/押さない」「いつ押すか」という判断。これらすべてが物語の結末に影響を与える。

    全13種類のエンディングは、プレイヤーの選択、好奇心、そして罪悪感によって分岐していく。例えば、会話の最中にボタンを押せばバッドエンド。しかし押さずに最後まで話を聞けばハッピーエンド……というほど単純ではない。中には「ハッピーエンドの直前」でもボタンを押せてしまうルートがあり、Steam コミュニティでは「これハッピーエンドの直前も死刑ボタン押せるのか…」という悲鳴にも似たコメントが寄せられていた。

    筆者も初回プレイで、良かれと思って選んだ選択肢が予想外の展開を生み、思わず「えっ…?」と声が出た。選択肢には「竜族の象徴である角を折る」という痛ましいものまである。わくわくゲームズの公式Xアカウントでも「処刑ボタンを押したら負けといっても過言ではない」と明言されているが、まさにその通り。プレイヤーの良心が試される5分間なのだ。

    Unityroomから進化したSteam版の魅力

    Steam版は元となったUnityroom版から大幅にパワーアップしている。最も大きな変更点は、ミラ役に菜月なこさんを起用したフルボイス化だ。可愛らしい外見とは裏腹に、時折見せる諦めや悲しみを含んだ声色が、プレイヤーの罪悪感をより一層刺激してくる。

    また、エンディングも追加され、それに伴うBGM、スチル、立ち絵差分が追加。Steam実績に対応し、ギャラリー機能も実装された。さらに英語、中国語(繁体字、簡体字)にも対応し、グローバル展開も視野に入れた完全版となっている。

    操作は基本的にクリックのみ。コントローラー操作にも対応しているため、快適にプレイできる。短時間で周回しやすい設計も相まって、「もう一度別の選択肢を試してみよう」という気持ちにさせられる。気がつけば全エンディング制覇を目指して何度もプレイしていた。

    「イツカノヨル」というタイトルの妙

    本作のタイトル「イツカノヨル」は、カタカナ表記にすることで「5日の夜」と「何時かの夜」をかけた秀逸なネーミングだ。Unityroomのコメント欄でも「タイトルをカタカナで書くことで二重の意味を持たせるの天才すぎる」と絶賛されている。

    英題は「5omeday」。こちらも「Someday(いつか)」と「5 day(5日)」を掛け合わせた遊び心あふれるタイトルになっている。

    Steamレビューは91%の「非常に好評」

    Steam版の評価は174件中91%が好評と、高い支持を得ている。「幸せになって欲しくてボタンをこれ以上押したくなくて7つエンディングで断念!キャラ可愛い」「全てのエンディングを回収するためにボタン押していると心が苦しくなる。でもハッピーエンドを観られてよかった」といったレビューからは、多くのプレイヤーがミラとの関係に感情移入していることが伝わってくる。

    一方で「やばい、バッドエンドおもろすぎる❗️」「俺は6、9、7、8、4、10、1の順でぶち抜いた畜生です」といった、あえてバッドエンドを楽しむプレイヤーも。本作は「処刑ボタンを押すゲーム」ではないが、押した場合のルートも丁寧に作り込まれており、プレイヤーの良心を試しながらも、どんな選択にも物語が用意されている懐の深さがある。

    心理ホラーとしての完成度

    本作はビジュアルノベルでありながら、心理ホラーの要素も色濃い。直接的な暴力描写や出血表現はないものの、プレイヤー自身が「加害者」になりうる立場に置かれることで、独特の緊張感と罪悪感が生まれる。

    「即処刑できるボタン」という設定は一見すると過激だが、実際には人間の道徳心や判断力を問う哲学的なテーマを内包している。「罪を犯した者は罰せられるべきか」「呪われた種族というだけで差別されていいのか」「命を奪う権利は誰にあるのか」──こうした問いに、プレイヤーは5分間で向き合うことになる。

    基本情報

    タイトル: イツカノヨル
    開発元: Indigo Ingots, Starlit Chronicles Studio
    パブリッシャー: Waku Waku Games
    リリース日: 2026年1月28日(Steam)
    プラットフォーム: PC(Steam)、Nintendo Switch(2026年春予定)
    価格: 800円(税込)
    プレイ時間: 1周約5分(全エンディング制覇には数時間)
    対応言語: 日本語、英語、中国語(繁体字)、中国語(簡体字)
    ジャンル: ビジュアルノベル、アドベンチャー、心理ホラー
    Steam評価: 非常に好評(91%)
    エンディング数: 13種類
    声優: 菜月なこ(ミラ役)

    クレジット

    企画・シナリオ・プログラム: Indigo Ingots
    アート: polaritia
    サウンド: かずら’s MUSIC

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    総評

    『イツカノヨル』は、「処刑ボタン」という強烈なギミックを軸に、プレイヤーの良心と判断力を試す異色のビジュアルノベルだ。1プレイ約5分という短さながら、その5分間に詰め込まれた選択の重みと心理的緊張感は、他に類を見ない体験を提供してくれる。

    フルボイス化されたミラの声、美しいゴシック調のビジュアル、そして13種類の多彩なエンディング。すべてが高いクオリティで仕上がっており、800円という価格は非常にリーズナブルだ。短時間で周回しやすい設計も素晴らしく、「次はどんな展開になるんだろう?」という好奇心が止まらない。

    ただし、本作は万人向けではない。テーマが死刑や差別といった重いものであり、プレイヤー自身が加害者になりうる立場に置かれる。心理的な負担を感じる人もいるだろう。しかし、だからこそ本作は「ゲームでしか味わえない体験」を提供できている。

    「処刑ボタンを押したら負け」──この一文の意味を、ぜひあなた自身の手で確かめてほしい。5日間の選択が、あなたの良心を試してくる。

  • 壁を登ること、それだけが目的——本物のクライマーが作った究極のクライミングシム『New Heights: Realistic Climbing and Bouldering』

    壁を登ること、それだけが目的——本物のクライマーが作った究極のクライミングシム『New Heights: Realistic Climbing and Bouldering』

    「ゲームでクライミングができる?どうせ派手なアクションゲームでしょ」

    しかし、オランダのWikkl Worksが手掛ける『New Heights: Realistic Climbing and Bouldering』は、そんな先入観を見事に覆してくれました。本作は実際のクライマーたちが開発した、物理演算に基づく本格的なクライミングシミュレーションゲームです。2023年7月から早期アクセスとして公開されていた本作は、2026年2月26日にいよいよ正式リリースを迎えます。

    「何百時間でも登り続けたくなる」——実在する岩壁をフォトグラメトリーで再現

    本作の最大の特徴は、現実世界に実在するクライミングスポットを忠実に再現している点です。フランスのフォンテーヌブローの有名なボルダー、ベルギーのフレールの30分級の長大ルート、そしてノルウェーのハンシェレーレン洞窟にある伝説のルート「Silence」まで、280以上の実在ルートが収録されています。

    これらは単なる3Dモデルではありません。開発チームはフォトグラメトリー技術とドローンを駆使し、何百枚もの写真から本物の岩肌の質感、凹凸、角度までを正確にデジタル化しているのです。画面越しに見える岩は、クライマーたちが実際に挑んできた、あの岩そのものなのです。

    ゲーム内では城の廃墟や崩れかけた礼拝堂など、現実では登ることが許されない場所も登攀可能。安全なPC環境から、フリーソロクライミングの緊張感を体験できるのも本作ならではの魅力です。

    バランス、グリップ、体の位置——物理演算が生み出す「本物」の感覚

    「左手でこのホールドを掴んで、右足を高く上げて、体重を左に…あ、落ちた」

    本作のクライミングメカニクスは、まさに実際のクライミングそのものです。左右のマウスボタンで両手、Shift+マウスで両足、WASDとQ・Eで体重移動と体の位置をコントロールします。一見複雑に思えるこの操作系は、実際のクライミングで求められる「四肢の独立した制御」と「全身のバランス感覚」を見事に再現しています。

    物理演算エンジンは、ホールドの向き、掴み方、体の角度、重心の位置などを厳密に計算。悪いホールドでも体の位置を工夫すれば良いホールドに変わり、逆に良いホールドでもバランスを崩せば滑り落ちます。

    実際のクライマーからは「足を高く上げる、体を壁に近づける、重心を移動させるといった、現実のクライミングで使うテクニックがそのまま有効」といった評価が寄せられています。

    チュートリアルから難易度V17まで——段階的に深まるクライミング体験

    ゲームは「レイチェルのジム」でのチュートリアルからスタート。初心者向けの課題で基本操作を学び、徐々に足の使い方、コア(体幹)の操作へと進んでいきます。「ボルダリングジムの初日のレッスンそのもの」という声があるように、実際のクライミング体験を忠実になぞったチュートリアル設計です。

    各ルートには3段階の星評価システムがあり、1つ星はルート完登、2つ星は落下なしでの完登、3つ星は5分以内のクリアとなっています。上位難易度のエリアは999個の星を集めなければアンロックされないなど、やり込み要素も充実。

    難易度はジムの初級ルートから、実在する世界最難関ルートまで幅広く用意されており、プレイヤーのスキルに応じて段階的に挑戦できます。Steam Workshopでのコミュニティ制作ルートも利用可能で、近い将来にはスマートフォンアプリと連携して、自分で撮影した岩をゲーム内で登れる機能も予定されています。

    正式リリースで追加される新要素——ロープシステムと協力プレイ

    2026年2月26日の正式リリースでは、ロープとビレイ(確保)システムが完全実装されます。このアップデートにより、ボルダリングだけでなく、本格的なロープクライミング体験が可能に。ハーネス、カラビナ、ビレイデバイスを使った安全確保の技術も再現され、より総合的なクライミングシミュレーターへと進化します。

    また、協力プレイモードも予定されており、フレンドと一緒にルートを攻略したり、互いのタイムを競い合ったりできるようになります。リーダーボードシステムも完備されており、世界中のクライマーと記録を競うことも可能です。

    開発チームは「フィードバックが不可欠」として、Discordサーバーとフォーラムを通じてコミュニティと密接に連携。2年以上の早期アクセス期間を経て、物理エンジンの改善、ダイノー(飛びつき動作)の洗練、新しいコスメティックアイテムの追加など、継続的なアップデートを行ってきました。

    経験者も唸る確かな再現度——「登ることそのもの」を純粋に楽しむ

    クライミング専門メディア「Climbing」は本作を「ロッククライミングの物理を捉えた初めてのビデオゲーム。すべてのクライマーが試すべき」と評価。実際のクライマーたちからは「フォンテーヌブローに何度も行った経験があるが、ゲーム内で同じ場所を登れるのは感動的」「怪我をしていて登れないときでも、この感覚を味わえるのは素晴らしい」といった声が寄せられています。

    一方で、グラフィックは華やかではなく、ストーリー性も最小限。本作には派手なアクション要素も、劇的な物語展開もありません。あるのは「壁を登る」という、ただそれだけの体験です。

    しかし、だからこそ本作は特別なのです。

    Steamレビューでは92%が好評価(210件中)という高い支持を獲得。「QWOP的な悪夢になるかと思ったが、現実味と楽しさの完璧なバランス」「Cairnよりもシミュレーション寄りだが、その分リアルなクライミング感覚を求める人には最高」といった評価が並びます。

    開発者Boogaard氏は「現実のクライミングとボルダリングに可能な限り近い体験を、最適なコントロールで提供したい」と語っています。売上は期待したほどではないものの(約4,500本)、コミュニティによるルート作成機能が実装されれば「ゲームは永遠に生き続けるポテンシャルを持つ」と自信を見せています。

    価格・プラットフォーム情報

    本作は2026年2月26日に正式リリース予定で、価格は2,464円。現在は20%オフのローンチディスカウントが実施されています。日本語を含む10言語に対応し、Steam Deckでの動作も確認済みです。

    クライミング経験者はもちろん、「登る」という行為の奥深さを体験してみたい方、物理シミュレーションゲームが好きな方にもオススメです。ジムに行けない雨の日に、怪我で休んでいるときに、あるいは高所恐怖症を克服する練習として——『New Heights』は、新たな高みへと挑むすべての人を待っています。


    基本情報

    ゲームタイトル: New Heights: Realistic Climbing and Bouldering
    開発: Wikkl Works
    パブリッシャー: Wikkl Works, WhisperGames
    プラットフォーム: PC (Steam), Steam Deck
    早期アクセス開始日: 2023年7月7日
    正式リリース日: 2026年2月26日
    価格: 2,464円※ローンチ時20%オフ
    対応言語: 日本語、英語、オランダ語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、韓国語、ポルトガル語(ブラジル)、中国語(簡体字・繁体字)
    プレイ人数: シングルプレイ(協力プレイは今後実装予定)
    CERO: 未審査(PC)
    ジャンル: シミュレーション、スポーツ

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